昨今では犬にも腸活という概念が広がってきました。大手メーカーを中心に犬の腸活関連の商品が目立つ今日この頃ですね。
そんな中、犬の腸にとって良い食べ物とは何なのか? 食事による腸内環境改善は可能なのかについて、Foremaラボでの研究から得られた最新の知見も踏まえてご紹介します。
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犬の腸にとって良い食べ物とは?
プレバイオティクス-定番は食物繊維
既に多く言われているように、プレバイオティクスは重要品目です。プレバイオティクスというのは、有益な腸内細菌(いわゆる善玉菌)のエサになるもので、食物繊維が筆頭に挙げられます。以下、プレバイオティクスを含有する食品を列記します。
玄米/ぬか
玄米は白米に比べてはるかに多くの食物繊維を含みます。これは外殻の「ぬか」そのものが食物繊維のかたまりだから。食物繊維というのは消化されにくいため、そのまま大腸に到達します。そこで有益な腸内細菌のエサになり、いわゆる善玉菌の勢力が大きくなります。
※昔の人たちは、この作用を「お腹をきれいにする」といった表現で言い伝えてきました。
米の農薬は糠(ぬか)の部分に溜まるため、玄米も「ぬか」も無農薬のものを仕入れるのが良いのですが、玄米の無農薬は極めて少なく、価格も高めなのが難点ではあります。とは言え、玄米食で腸内環境は劇的に改善するため、お米にアレルギーがある場合を除き、わざわざ無農薬玄米を仕入れてチャレンジする価値は大いにあります。
野菜類(ニンジン/カボチャ/サツマイモ/ゴボウ etc..)
手作り食にチャレンジしている人は日常的に取り入れているかと思います。「犬が食べてはいけない野菜」を除き、人間同様に適度に野菜を入れてあげる事は腸内環境改善には必須と言えます。ただ、犬種によって、また既に保有する細菌の組成によって「最適な量」の個体差が大きいと思われるため、飼い主さんが見極めてあげる必要があります。
このあたりは、お医者さんのコメントはあくまで一般論として捉え、一番近くで見ている飼い主さんが最終的な判断をするべき領域のように思います。(子育てと同じですね)
オリゴ糖類
名前だけはよく聞くオリゴ糖。「それっぽいキャッチコピー」の代名詞みたいなところもありますが、必要な量をしっかり摂取すれば非常に有益な成分です。
オリゴ糖というのは、例えば「てんさい」だったり「でん粉」などにふくまれる小糖類(広義での食物繊維)を取り出したもので、原料によってフラクトオリゴ糖やガラクトオリゴ糖など、多くの種類が存在します。
どれタイプのオリゴ糖でも、基本的には人間や犬,猫の胃や小腸では消化されずに大腸に届きます。いわば難消化性の食べカスなのですが、前述のようにこれが有益な腸内細菌類のエサとなります。
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オリゴ糖の種類によって「喜ぶ細菌類」の種類に多少の差があるのですが、大枠として「オリゴ糖は善玉菌のエサ」と捉えて問題ありません。
尚、Foremaではこれまで読み込んできた文献の記述や、社内の細菌叢解析で蓄積された結果から判断し、オリゴ糖の中ではフラクトオリゴ糖が最も有益と判断しています。その上で、ガラクトオリゴ糖やラフィノースを組み合わせる複合摂取がより良い選択肢となります。
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海藻類
ワカメや昆布、ひじきなど。上述の食材と同じく食物繊維(特に多糖類)を多く含み、ビタミンやカルシウムも摂取できる優れもの。人間界における健康食で必ず登場するにはそれなりの理由があるわけですが、犬にとっても有益なもの。
ただし、私たち日本人は特に海藻類を消化しやすい腸内細菌を保有しているという点は留意が必要です。子供の頃から海藻を食べなれている私たちが消化できても、普通の犬には準備が必要という事はたたあります。個体によっては海藻でお腹が緩くなったり嘔吐する事もあるため、時間をかけて慣らしてあげるのが良いですね。
尚、海藻をよく食べる飼い主さんの飼い犬からは、同じく海藻を消化するのに適した腸内細菌が検出された事例があります。
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キノコ類
人間界においても、やはり健康食の筆頭として登場するキノコたち。メリットは多々あれど、腸内細菌ケアの視点では食物繊維の多糖類を多く含むことが有益なポイントの1つと言えます。
先にも触れましたが、どの種類の食物繊維を摂取するかによって、どの種類の細菌たちが増えるかが微妙に異なります。その際、偏った物ばかりを摂取していると、たとえ有益な細菌種であっても偏った増え方をする事につながり、最善の結果にはならない可能性があります。
プロバイオティクス – (ビフィズス菌や乳酸菌など)
プロバイオティクスとは、細菌そのものが含まれた食材のこと。以下一般的なものを記載します。
納豆
言わずと知れた納豆。プロバイオティクスの観点では納豆菌ですね。納豆菌は「ファーミキューテス門」というグループに属しており、自然界に存在しますが腸内にもある程度の影響を与えるとされています。
納豆の場合納豆菌ばかりがフォーカスされますが、実際には数十種類の細菌種を含んでいます。腸内で炎症を抑制する「バクテロイデス属」なども微量ながらバランスよく含んでおり、これら数十種の生態系をそのまま摂取する点にプロバイオティクスとしての奥深さがあります。
また、大豆そのものも腸内環境改善に有益なもの。例えば美容と健康に貢献するとの報告があるエクオール産成菌は大豆のイソフラボン由来のもので、納豆を食べておけば勢力を維持できます。(ただし腸内に保有がある場合に限ります)
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無糖のプレーンヨーグルト
ヨーグルトの摂取は乳酸菌やビフィズス菌の摂取が目的。乳酸菌は「乳酸を生み出す」グループ全般の総称で、主には「ラクトバチルス属」というグループ。
一方のビフィズス菌というのは「ビフィドバクテリウム属」というグループの細菌の総称です。ビフィズス菌は全てのヨーグルトに入っているわけではありませんが、主要なプレーンヨーグルト(明治ブルガリアや森永ビヒダスなど)であれば含有があります。
ただし、犬や猫は元々ビフィズス菌の保有は少なく、人間ほどには重要ではないと考えられています。Foremaの腸内細菌解析においても、宿主の健康に深く影響しているのは乳酸菌であることが大半です。
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グリーントライプ
グリーントライプは反芻動物の胃袋で、国内では鹿の胃袋を指すことが多いです。物議を醸すことの多い生食で使用することで、胃の中身に存在する細菌類を摂取することが可能です。
消化機能で見た「胃袋」が目的だと第4の胃となるのですが、セルロースを分解する細菌類およびその代謝物(ビタミンB12を始めとする有益成分)が目的だと第1の胃となります。
大変臭く、扱いとしても上級者向けの食材なので万人用途とは言えないものではあります。(現在はForemaでの取り扱いは中止しています)
乳製品やその他発酵食品
ヤクルトなどの乳製品や発酵食品は、生きた細菌を摂取する有効な手段。とは言え、塩分だったり味付けのための成分だったりが犬には不適切な場合もあるため、ペット用のものがあればそれを購入する、もしくは自作するのが良いですね。
尚、「生きて腸まで届く」という言葉だけが独り歩きしている感がありますが、腸に届いた後にどうなるかが重要なため、そのメーカーがどういう趣旨でそううたっているのかはWebサイトなどでしっかり確認する事をおすすめします。
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ボーンブロス
いわゆる骨のスープ。できれば、抗生物質や人工飼料とは無縁の、野生の鹿や猪の骨を使ったものをおすすめします。
ボーンブロスは腸内に優しいといった論で語られることが多いのですが、実際にマウスの腸内における研究が存在します。
かなりはしょって書くと、ボーンブロスを与えた潰瘍性大腸炎のマウスの腸内で、炎症性が抑制され、改善が見られたというもの。具体的には、腸内の炎症性サイトカイン(炎症を促進するタンパク質)が抑制され、抗炎症性のサイトカインが増加し、組織学的損傷が減少したと報告されています。
また、必須アミノ酸やカルシウム、マグネシウム、コラーゲンといった有益な成分が得られ、水分補給や老犬の活力につながる点も大きなメリットです。
犬の腸内細菌についてはあまり研究が進んでいない
犬の腸にとって良いという考えの根拠
犬の腸内細菌については、人間ほどは研究が進んでおらず、論文の数も決して多くありません。世にある犬の腸活アイテムは、大半が販促のためのキャッチコピーということは知っておいた方がいいでしょう。
その中で、まともなメーカーの場合であれば、研究によって得られた内容や、人間とマウスでの研究成果を根拠に、「犬の腸にも良いだろう」という事で論を組み立てています。それでも実際には不十分な事が少なくありません。
Foremaが自社ラボでわざわざ腸内細菌解析を実施しているのは、こうした領域を可能な限りカバーしていくためでもあります。
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犬と人間は細菌類を共有している
皮膚の常在菌の共有
私たちは時間と場所を共有する事で、細菌類も共有しています。それは相手が人間であってもペットであっても同様です。
細菌類の共有..一聞するとゾッとする表現ですが、これは極めて健全な事。私たちは細菌類を共有し、それらと共存する事で成り立っており、外部の新たな細菌の侵攻からも守られて生きています。(狩猟採集民族は部族全体で共通の細菌グループを共有しているが、先進国では家族内で細菌グループの相が異なる)
人とペットが共有しやすいのは皮膚にいる常在菌などで、これらは好気性のもの(空気に触れても生きていける)。皮膚にいるという事は口にも入る事があるわけで、体内に入ることで既存の細菌に影響を与えている可能性があります。(ペットを飼っている人の腸内細菌叢の多様性は、飼っていない人よりも高いという研究結果もあり)
関連商品: 愛犬/愛猫の腸内細菌解析「byOm(バイオーム)」
口腔内細菌/腸内細菌の共有
また、唾液だったり呼気だったり、食べ物だったり、その他何らかの事情で口腔内細菌や腸内細菌も共有が進みます。これは、腸内の細菌が表に出てきて付着するという可能性もありますが(唾液や糞便)、同じものを食べる事で同じような腸内細菌が育ち、結果として同じような組成になるという側面も大いにあります。いまや有名な話ですが、虫歯は親子間で受け継がれていく、まぎれもない感染症です。
ペットと人の腸内細菌共有の事例としては、以前も書きましたが、2020-2021年にかけて大学と共同で行った研究の過程で、沿岸部に在住の飼い主さんの愛犬から、海藻類の消化に有利な細菌が検出された事があります。その時の研究では他の犬からは検出されなかったため、おそらくは飼い主さんの衣食住と関連しているのだろうと推察できます。
他にも明らかに乳酸菌サプリを摂取したであろう個体(単一の乳酸菌がやたら多い)や、いいお肉を多く食べてきた個体(体脂肪と相関のある細菌保有が特徴的)など、飼い主さんの「方針」が見える事例が複数あり、時間と場所の共有 + 価値観(ライフスタイル)の共有によって、結果として腸内細菌も共有されると考えて良さそうです。
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腸内の組成が偏りすぎている事がある
抗生物質による影響
腸内細菌は誕生時に親から受け継ぎ、成長の過程で紆余曲折しながら成人までに固定されます。基本的には親兄弟らの影響を受けて育つため、同じような組成になると考えられていますが、そうならない場合があります。
抗生物質です。
抗生物質は、悪質な病原菌を制圧するために投与されるものですが、同時に体内の有益な細菌類にもダメージを残していきます。
幼少期、腸内細菌がまだ固定されずに紆余曲折しているタイミングで抗生物質の投与が入ってしまうと、本来の成長路線から逸脱してしまう懸念があります。事実、抗生物質投与の有無や投与量と、その後の自己免疫疾患の発症率に関連ありと報告する論文が多々出ています。
人間の場合は安易な抗生物質投与を避ける選択もありますが、果たしてペットの場合はどうなのでしょうか??
ペット用の抗生物質はネットで普通に買えますし、また繁殖現場や販売店で逸脱した投与があっても飼い主さんには知るところではありません。
いつ抗生物質が使用されたのか?
以前も書きましたが、弊社のユーザーアンケートの結果、ペットショップで購入した犬と、知人からもらった犬では、低年齢時のアレルギーの発症率に大きな差が出ました。(前者に多い)
幼少期の自己免疫疾患(アレルギーを含む)の原因として、人間やマウスの研究では抗生物質の過剰投与が指摘されています。
断定は禁物ですが、こうした「何らかの事情」によって、大人になる頃には腸内細菌の組成が大いに偏っている個体が少なくないと考えられます。(事実食物アレルギーが大いに増えている)
腸内細菌はマウスや人での研究が進んでおり、多くの知見が蓄積されています。ペット犬は、人間と共同生活する事で多くの細菌を共有しているため、人間であてはまった事例が、おそらくは当てはまるだろうと考えられています。
一方で、ひとことで犬といってももはや同じ種とは思えないほど幅広いのがペット犬の世界。最適な色のバランスは最終的に飼い主さんが個体の様子を見ながら調整してあげる必要があります。
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。