マイクロバイオームから見た第六感

腸内細菌から見る第六感.. 内なる声の真相

最終更新日:
公開日:2022/04/01

日本語でいう「直感」や「虫の知らせ」など、いわゆる第六感。英語では「6th Sense( シックスセンス)」もしくは「Gut feeling( ガットフィーリング)」といいます。ガットとは腸のこと。素敵な直感、不吉な予感はお腹が教えてくれるという事なのでしょう。一見迷信のようなこの価値観に、近年科学がようやく追いついてきました。

内蔵記憶の存在

岩の上での休憩のひととき

過去にいやな目にあった場所にいくと当時を思い出して気分が悪い。そんな経験は多くの人が持っているはずです。とは言え人生は多忙。長い年月の間に過去の記憶は上書きされて消えていきます。ところが脳は忘れても、腸はどうやら覚えているようなのです。

私たちの先祖は、自然界で毒や腐敗物を口にしてしまった時、食べた瞬間に察知して嘔吐するすべを身につけました。嘔吐とは、胃と腸と食道、唾液腺、循環器系などが連動して起こる高度な反応です。これを瞬時に起こすのは脳ではなく、大腸が主導だと分かってきています。過去に毒を食べ、酷い目にあったことを、腸内で覚えているのです。これは内蔵記憶と呼ばれています。

内蔵記憶は、正確には内蔵そのものというより、腸内に住む微生物、つまりは腸内細菌たちが全てを記憶し続けているもので、宿主を生かすため、そして自分達にとっての脅威を除外するために瞬時に嘔吐を引き起こします。

おなかの調子が良くない猫の腸内細菌の事例でしばしば目にするのが、食物繊維由来と思われるトラブル。キーワードは「ルーメン」です。 ※当記事は関連文

食べ物は分かりやすい例ですが、例えば危険な目にあった場所や、それに近い状況、その時の感情などは脳と腸で共有されます。脳と腸は迷走神経を通じて高度なやり取りをしている事が解明され始め、これは「腸脳相関」と呼ばれ現在も研究が続いています。

過去の記憶が海馬の奥に追いやられたとしても、腸内細菌たちは世代を超えて「毒」や「危険」を記憶し続けます。味や空気や匂いや感情、その他もろもろの条件とともに丸ごと覚えてくれているのです。

※細菌たちは、種の壁を超えて機能の共有やDNA のやり取りをしている事もわかっており、これを水平伝播( すいへいでんぱ) といいます。数百種の細菌たちがまとまって1 つの機能を果たしている様子が伺えます。

Clostridium perfringens ウェルシュ菌
犬の腸内細菌について不定期で語る徒然シリーズ。今回はC.perfringens(クロストリジウム パーフリンジェンス)、通称ウェルシュ菌について。

トラウマもコントロールできる??

腸内記憶による「嫌な予感」は、宿主を危険から遠ざけ、避難させるための「内なるメッ セージ」です。ところが、過去の記憶が過剰に影響をおよぼしてしまうと、例えばトラ ウマのように行動を縛り、デメリットの方が大きくなってしまう事もあります。

一見心 療内科の領域に見えるこの現象は、実は腸内細菌叢のリカバリーによって大きく改善で きる可能性が報告され始めています。嫌な経験をした時の腸内メンバーを入れ替えるこ とによって、こうした負の記憶からの脱却、そしてなんと治癒の止まった脳の外的損傷 すらも回復に踏み出せる可能性(※1) が見え始めています。

※1.大腸が生み出す分泌物やホルモンによる働きかけが影響している可能性

うつ病とサイコバイオティクス

ホルモンの大半は腸内由来でで作られる

かつて脳内物質とされていたホルモンは、今では大半が腸内に由来して作られている事 が分かっています。これらは脳への働きかけによって気分や行動、性格にまで影響を及 ぼします。そんな中、うつ病も腸内細菌が深く関与している事がわかってきました。

うつ病の発症/ 悪化に大きな影響を与えるのが炎症性サイトカイン。大腸周辺に集まる 免疫細胞の指令でこれが放出されると、体内は侵入者をやっつけるための戦闘状態に入 ります。が、炎症が慢性化し、炎症性サイトカインが脳に達してしまうと(※2) うつ症状に つながるという事が複数の研究で確認されています。

炎症のアクセルとブレーキをつか さどっているのは大腸、そしてその大元に腸内細菌たちの存在があります。 ならば、腸内細菌をケアすれば炎症も治まり、うつも治るのではないでしょうか? 事実、 そのようです(※3)

※2.炎症性サイトカインは脳のバリアであるBBB: 血液脳関門を突破します

※3.腸内細菌の移植によって双極性障害が大幅に軽減したという報告すら存在します

ビフィドバクテリウム
犬のマイクロバイオーム(腸内細菌/腸内フローラのこと)について不定期に語るシリーズを始めました。第一弾はビフィズス菌について。 そもそもビフィズ

腸内によるメンタルケア「サイコバイオティクス」

腸内細菌経由にメンタルケアの分かりやすい事例としてはヨーグルトでうつが軽減したという研究報告がありますが、身近なところでは「よく眠れる乳酸菌」などもその一例でしょう。

こうした、腸内からメンタルをケアする領域は「サイコバイオティクス」と呼ばれており、 非常に有望な領域です。 発生学的には脳よりも先の存在である大腸と、古来からそこに共生している腸内細菌た ちが宿主をコントロールしていることは、ほぼ間違いありません。私たちは迷信ではな く、科学的な理由によって「内なる声」に耳を傾けるべき時代になったと言えるでしょう。

結果として医療費抑制、引きこもりや自殺の低減にも繋がるはずで、より良い社会づくりに直結していく領域ではないでしょうか。

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