鹿のグリーントライプ 胃の中身

グリーントライプとは何か? リスクとメリット

最終更新日:
公開日:2018/08/09

一部のペットオーナーの間で注目されている特殊な食材、グリーントライプ。単にトライプと言われることもあります。

トライプは「胃袋」のことで、海外では牛や豚、羊など草食の家畜全般の胃袋を指しますが、国内ペット市場においては特に「鹿の胃袋(鹿のグリーントライプ)」がトライプの代名詞として注目されている感があります。

以下、鹿のトライプ(グリーン)についての一般論から海外の論、Foremaで扱うトライプについてなど、できる範囲でリスクやメリットを記載します。

色とりどりのグリーントライプ
色とりどりのグリーントライプ
  • 内容:100gパック
  • 種類:ホンシュウジカ / キュウシュウジカ / エゾシカ
  • 産地:西日本/九州各県/四国各県/長野県/北海道
  • 部位:第1胃袋

鹿グリーントライプ 100g

グリーントライプの定義

鹿のグリーントライプ
鹿のグリーントライプ

トライプには人間用途とペット用途がある

人間用途のトライプ

トライプは先述のように胃袋です。フランスやギリシャなどの欧州、インドや中国、インドネシアなどのアジア諸国、エクアドルなどの中米においても人間用途の食材として活用されています。

が、一口に胃袋といっても簡単ではありません。反芻動物には胃袋が4つあるからです。

日本の事例でいうと、焼肉でもおなじみのセンマイ(胃袋)がありますが、これは牛の第3の胃袋。

牛の場合、

  • 第1の胃袋=ミノ
  • 第2の胃袋=ハチノス
  • 第3の胃袋=センマイ
  • 第4の胃袋=ギアラ

という名称が付けられており、焼肉好きなら分かるようにそれぞれが別の部位のような存在です。この中で実際に(生物学的に)胃としての働きをしているのは4番目の胃袋であり、他の3つは微生物によって植物の繊維を発酵・分解させる場所となっています。特に第1の胃袋が一番大きく、第2第3と続いて分解され、第4で消化吸収されるという流れです。

これは羊やヤギ、そして鹿においても同様です。

ペット用途のトライプ

で、ここで解釈が分かれます。

国内で鹿のグリーントライプというと、ほぼ例外なくペット用。一方で詳細を見ると

  • 鹿の第4の胃を指すケース
  • 胃の中身を指すケース
  • その両方を指すケース
  • それ以外の胃(第1〜第3) etc…

などあり、統一見解が無い様に見えます。(そもそもそういうカルチャーが無い)

Foremaにおいてはいくつかの理由(※詳細は一番最後に書いています)から、第1の胃をグリーントライプとして扱っています。この部分での内容物は未消化の草であることが多いため、胃袋と中身を別々のものとして扱っています。

鹿のグリーントライプ 胃袋そのもの
鹿のグリーントライプ 胃袋そのもの
鹿のグリーントライプ 胃の中身
鹿のグリーントライプ 胃の中身

ちなみに豚の場合は反芻動物ではないため、通常の胃袋(〜周辺内蔵)が、そのままトライプとされています。(国によって多少扱いが違うかもしれませんが・・)

猪も豚の祖先であり、構造としては全く同じものですが、今のところ猪のトライプ需要についてはそんなに多くありません。

鹿のグリーントライプ 中身 100g
鹿のグリーントライプ 中身 100g
  • 内容量:約100g x 1パック
  • 原材料:鹿の胃袋の内容物
  • 産地:西日本を中心とする国内
  • 品種:ニホンジカ
  • 状態:生の冷凍

鹿グリーントライプ 中身100g

トライプとグリーントライプの違い

鹿の胃袋 トライプ
鹿の胃袋(トライプ)。この写真は洗浄してあるもののため、緑色ではない。

人間用途は洗浄する

トライプは、先述のように海外では人間用途にも使用されるため、洗浄・漂白・煮沸されています。一方のペット用途においてはそういった処理をせずそのまま与えます。犬の健康に有益とされている酵素、良質の細菌、栄養素などが死んでしまうためです。

よってこの両者は全く別物であり、後者はグリーントライプと呼して区別されています。greenの語源はわかりませんが、普通に考えると見た目がそのままグリーンだからではないかと思います。

なぜグリーントライプがペット(犬・猫)にとって有益かというと、ライオンが野菜を食べなくても生きていけるのと同じ理由です。

ペット用途は洗浄しない

ライオンなどの肉食動物は植物を分解する能力がありません。よって植物を主食にしているシマウマなどを通じ、間接的に植物の栄養素を得ています。そのなかでも重要な部位が内蔵。動物番組などでライオンの狩りのシーンをよく観察するとわかりますが、首を噛んで一撃で仕留めた後はお腹を裂いて内蔵から食べ始めます。

これはライオンなどのネコ科に限らずリカオンやオオカミといったイヌ科の肉食動物、ホッキョクグマやハイイログマといった同じく肉食性のクマ、さらには雑食性のツキノワグマですら、死骸の内蔵を一番最初に食べ始めます。これは生態系における上位捕食者の鉄則といって良さそうです。

栄養成分(メリット)について

ホンシュウジカ

ではグリーントライプの具体的な栄養素とはなんなのか? 平たく書くと酵素、良質の細菌、その他豊富な栄養素..となるわけですが、以下順に記載。

タンパク質

グリーントライプにはアミノ酸を含むタンパク質が多量に含まれています。筋肉の構築や補強を始め、免疫系の強化にもつながる有益な栄養分だと言えます。これらタンパク質は大半が細菌類などの微生物によって産生されるもので、それを吸収して栄養素にしているというのが私たち生き物全般の共通事項です。

プロバイオティクス

プロバイオティクスというのは人や動物にとって有益な微生物の総称で、有名どころでいうと乳酸菌やビフィズス菌など。これらは大腸菌やサルモネラ菌といった有害な菌とライバル関係(=競合するという意味)にあるため多く摂取するほど体内環境(消化器系)が改善され、免疫力低下の阻止→病気を防ぎます。

ただし加熱すると死んでしまうので、この場合は生食が前提となります。細菌そのものを経口で補充するという事です。

反芻動物において、有益な細菌たちが最も多く生息する場所、それは大型のセイルロース分解工場である第一の胃袋です。

食べ物を変えるとマイクロバイオーム(主に腸内細菌叢/腸内フローラ)にどのような影響が出るのか?そしてそれはだいたいどのくらいの期間で変化していくものな

プレバイオティクス

“プロ”バイオティクスが乳酸菌などの細菌類「現物(げんぶつ)」なのに対し、”プレ”バイオティクスはオリゴ糖類や食物繊維類など、腸内細菌たちのエサになるもの。食事を「病原菌たちとの戦い」に例えるなら

兵隊=プロバイオティクス

兵隊の補給物資=プレバイオティクス

ということになります。

クローバー
昨今、健康食品や高級ペットフードまわりでしばしば耳にする「プロバイオティクス」や「プレバイオティクス」。何となく良さそうなのはわかったけど「結局何なの

酵素

グリーントライプには多くの消化酵素が含まれます。消化器官だから当然と言えばそうなのですが・・。酵素は栄養素の分解を助けるため、食べたものからより効率よくエネルギーを摂取するのを助けます。

生き物は、自分で消化できないものを細菌たちに消化(代謝)してもらい、その代謝物を自分たちの消化酵素で消化して吸収するという2段、3段のプロセスを経てエネルギーを獲得しています。

天然ビタミンとミネラル

鹿の骨ジャーキー
琉球犬の小次郎さんと鹿の骨ジャーキー

ビタミンは果物や野菜から摂取するもの。肉食動物は草食動物を介してこれらを摂取しています。(それらの消化/分解プロセスにも細菌類の関与あり)

犬は人との共生によって雑食性が強化されていますが、本来は肉食性の生き物。進化の系統樹でオオカミと分岐したのも1.5万年ほど前の話で、長い長い進化のプロセスにおいてはつい最近のこと。

人類の場合でも10万年くらい前にはほぼ今の人類と同じ機能・形になっていたそうなので、その意味でもオオカミと犬は実質同じといっていいかもしれません。(ただし近年の過剰な品種改良は除く)

狼写真
日本人が100年前に絶滅させてしまったニホンオオカミ。鹿や猪が激増する中、タイリクオオカミ(ハイイロオオカミ)によるオオカミ再導入の議論が進んでいます

ちなみに狼と犬は21世紀初頭まではDNAの違いはないとされており、DNA解析が飛躍的に進んだこの数年で、ようやくその差異がわかり始めた、というほどの近縁種です(厳密にはイエイヌはオオカミの亜種)。

例えばチワワとオオカミがほとんど同じDNAとはにわかには信じられませんが、世界の犬種が今のように多様化したのはこの200年くらいの話で、本当につい最近までオオカミの系統に沿った犬の原種が各地で独自に存在していたという実態があります。

そんな彼らにとって、草食動物から得られるビタミンは必須のもの。もちろんミネラルも同様です。ミネラルは野菜ではありませんが、そもそも自然界においては希少なもので、これを得るために像であれば長距離を移動して岩塩の洞窟にあつまりますし、鹿であればハネられるリスクを負ってでも線路の鉄粉を舐めにきます。

JR芸備線
以前、広島県安芸高田市の向原町について書いた下記の記事で、鹿とJRの接触事故について触れました。 このあたりを走っているJR単線の芸備線は鉄道マニア

高速道路の凍結防止剤(実質の塩)にもミネラルが含まれているため、野生動物がこれらを舐めにくるのは知る人ぞ知る話(※)。

※「敵に塩を送る」とはまさにこの事で、凍結防止剤が鹿・猪の激増の要因の一つという説もあり。凍結防止剤の急増ははスパイクタイヤが禁止になった90年代以降の話で、その後数年で鹿・猪による獣害が急増し始めた。

カルシウムとリン

グリーントライプに含まれるカルシウムとリン(=オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸)は最適な比率だとされています(リンが多すぎても少なすぎてもよくない)。同時にグリーントライプはph(ペーハー)が弱酸性で消化に優しいという恩恵があります。

オメガ3脂肪酸というのはナッツ類に多く含まれる脂肪酸で、同じ系統の脂肪酸として青魚由来のDHAやEPAも分類されています。オメガ6脂肪酸は植物由来のもので、人間や犬は体内で生成できないため外部から摂取する必要があります。

これらはともに不飽和脂肪酸と呼ばれるものですが、特にオメガ6脂肪酸は摂取しすぎると皮膚炎や関節炎、大腸炎などの炎症を起こす事があります。一方のオメガ3脂肪酸は広く炎症を鎮め改善させる作用があるとされ、よって両者をバランスよく摂取することが重要です。(※アレルギー反応は免疫の暴走による行き過ぎた炎症で、これを抑える働きをするのがT-reg細胞。T-reg細胞の増減はは特定の腸内細菌の増減との相関がある事がわかってきています)

人間はおろか、いまやペットのあいだでも深刻な問題になっている食物アレルギー。食物に含まれるアレルゲンと呼ばれるアレルギー物質に対し、免疫が過剰反応して

トライプの与え方、リスクとメリット

鹿の胃袋 グリーントライプ
国産の鹿の胃袋 グリーントライプ

加熱か、生食か

基本的には生食が良いとされている

トライプの使用方法は、基本的には生です。加熱することで先述の栄養の大半が壊れてしまうからです。とは言え野生動物の内臓を生で食べることはハイリスクではないのか? という声もあるでしょう。

当然リスクはゼロではありません。が、人間と同じ感覚で捉えるのはまた違うとも言えます。近年でこそ人間と同じ衛生環境で生活する犬が急増しましたが、基本的に犬の消化器系は人間よりも強靭です。(だからOK!という意味ではありませんが・・)

加熱でも決して無益ではない

生食は無理..と考えている人に朗報。実は加熱しても必ずしも全てが壊れるというわけではありません。

「生きた酵素」や「生きた乳酸菌などを摂取」という観点であれば、加熱してしまうとそれらは失われてしまいます。一方で、乳酸菌をはじめとする「細菌類による代謝物」は加熱してもほぼ多くは失われず維持されます。それらはプレバイオティクス(※)として捕食者の腸内で、有益な細菌類にとってのエサとなり、健康と肉体維持に貢献します。

※具体的には良質のタンパク質や食物繊維など。食物繊維はビフィズス菌や乳酸菌といった”いわゆる善玉菌”や、ウェルコミクロビウムといった少数の有益細菌にとってのエネルギー源となる。

冷凍で寄生虫は死ぬか?

で、Foremaから出しているグリーントライプは、一旦業務用冷凍を経ています。業務用というのはマイナス18度以下で、一般的にはマイナス20度以下という設定が多いです。メーカーや産地によってはマイナス30度やマイナス40度のものもあります。

マイナス20度で24時間以上凍らせておくと寄生虫はほぼ死滅するという説がありますが、芯までマイナス20度が到達するには24時間では足りない場合が多いです。

熊本の保険環境科学研究所で行われた馬肉の実験(※)ではマイナス20度で58時間凍らせた後に寄生虫の死滅試験が行われました。結果として寄生虫(馬肉の住肉胞子虫)は死滅しました。鹿肉に含まれる寄生虫(トリヒナなど)の実験ではない点は留意が必要ですが、一般論としては、マイナス20度で2日以上冷凍するという処置で寄生虫対策とされています。

「生食用」とうたったお肉を販売している事業者は「冷凍で寄生虫は死滅する」と記載していることが多いですが、厳密に表現するのであれば「ほぼ死滅する」ということであり、また「全ての寄生虫で確かめられたわけではない」というのが実態です。

これを「100%ではないが概ね安全」と解釈する人と「100%ではないからダメ」とする人とで対応が分かれているように思えます。(獣医さんは後者が多い印象:獣医学会としては野生鳥獣の生食はNGという見解らしいです)

また、残念ながら菌やウイルスの場合は冷凍しても死滅せずいくらかが生き延びますが、菌が死ぬということはプロバイオティクスも死ぬという意味なので、ここは許容するべきなのかもしれません。

ちなみに冷凍を経ると、そのままの生に比べるとやはり栄養分は多少欠けるとされています。

人間への感染リスク

寄生虫や感染症のリスクは犬だけではありません。包丁やまな板経経由で菌が人に付着するリスクは当然あります。が、ペットの場合、トライプを食べたペットと人とのふれあいを通じて人に感染するリスクがある点を認識しておく必要があります。

普段からトライプや生肉を与えている上級者にとってはある程度分かっていることでも、これからトライプや生食を始めてみたいといったビギナーさんにとっては、アルコールで手やまな板、容器を除菌するだけで満足してしまいがち。その後にもリスクがある事は念頭に置いておいた方が良さそうです。(ただし何を以ってリスクとするかは人それぞれ)

ともあれ、リスクとメリットを天秤にかけた場合、生食でのメリットが圧倒的に大きいと判断した場合にグリーントライプを導入するのが良いように思います。

グリーントライプを処理する産地の事情

安芸高田の畑
安芸高田の畑。このあたりは一大消費地である広島市の穀倉地帯。

産地にとっては苦行!?

グリーントライプが市場に出回らない理由の一つに、産地さんがいやがるという点があります。国内では、鹿や猪が仕留められると1.5時間もしくは2時間以内に解体所に持ち込まなければいけないという保健所のルールがあります。これを満たせないものは流通させると違法となってしまいます(あくまで人間用途のルール)。

で、この2時間ルールで処理を進めたとして、胃は仕留めた直後から急速に発酵(という表現が正しいのか??)しはじめガスがたまります。この状態で断裁して中身を出すのですが、これがまた手間のかかる作業で、さらには切った瞬間にガスと一緒に液体が吹き出て顔に散る、ということもあり、「気持ちがすごーく落ち込む」のだそうです。

その上で採れる量が少ない。実は胃袋自体は4つあって大きいので平均的な大人のホンシュウジカで7-8キロはあるのですが、中身を出したり不要部分を切り落とすと最終的には1キロ少々しか残らない事が大半です。パックする機械や作業場所もお肉とは別に確保する必要があるので制約が多いと..

結果、総量も少なく、誰もやりたがらなく、そもそもリクエストが少ない、などの背景があり、トライプは超レアアイテムとなっています。

Foremaでの対応について

鹿の胃 グリーントライプ
100g目安にカットしたグリーントライプ。匂いは強いが犬(というは肉食動物)はこれを好む。

第1胃こそがトライプ

Foremaでは、第4の胃(&中身)ではなく、第1の胃を採用しています。胃袋そのものを扱う場合と、中身だけを扱う場合の2パターンで商品化しています。

オオカミが反芻動物を捕食する際、ビタミンB12が豊富な第1胃を先に食べるという説があります。グリーントライプのビタミンB12は第1胃の細菌によって産生される栄養素であり、また第1胃こそが反芻動物の最大特徴である植物分解工場だという事実を重視しているため、第1胃を優先しています。

海外の有名メーカーなどで第4の胃を採用している事例もあるのですが、純粋に我々と同じ役割の胃袋(第4の胃袋)が欲しいのであれば、わざわざ反芻動物である必要はなく、猪や豚でもOKとなります。

反数動物の第1胃の細菌たちが生み出す有益な代謝物、そして細菌それ自体の死骸が有益なタンパク質として吸収され、バッファローなどの巨体を維持しています。仕組みは鹿であっても同様であり、その恩恵を預かる部位として、第1の胃袋をグリーンとライプとして扱っています。

胃の内壁は洗浄はせず、そのままの状態で冷凍し、2日以上寝かせて出荷します(出荷過程においても業務用冷凍を経ての移動・保管となります)。

「細菌類」および「その代謝物」、言い換えれば「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」を丸ごとお届けする、それがForema のグリーントライプです。

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