Forema ではペット用の米糠(こめぬか:玄米の外殻)を扱っています。これは分かる人には分かり、分からない人には意味不明の品。そんな中、玄米にも関連する面白い論文があったのでご紹介します。
目次
玄米が嗜好性を変える?
玄米食が嗜好性を変え、肥満改善に至ったという内容に触れた琉球大学の論文です。一部抜粋します。
我々は,沖縄県在住の壮年期メタボリックシンドローム男性を対象としたクロスオーバー介入臨床試験を実施し,2ヵ月間,主食の白米を等カロリーの玄米に置換することにより,肥満の改善,食後の高血糖・高インスリン血症の改善,血管内皮細胞機能の改善,脂肪肝の改善,動物性脂肪に対する嗜好性の軽減効果を 確認した。
引用:脳腸関連と生活習慣病
すごくざっくり意訳すると「肥満男性が白米を玄米に変えたら、体内環境が色々改善され、お肉をあまり欲しがらなくなった」といった趣旨。
さらに引用。
玄米(米ぬか)に特異的かつ高濃度に含有される機能成分,γ-オリザノールが代謝改善作用の中核を担うこと,食欲中枢である視床下部に直接的に作用して過剰な小胞体ストレスを緩和する分子シャペロンとして機能し,動物性脂肪に対する強固な嗜好性を改善する作用をもつことを世界で初めて明らかにした。
引用:脳腸関連と生活習慣病
引き続きすごくざっくり意訳すると「玄米に多く含まれるγ-オリザノールが細胞ストレスを軽減/正常化すると、ガッチガチのお肉好きが改善された」といった趣旨。
γ-オリザノールはガンマ-オリザノールと読みます。米糠(こめぬか)に特有の成分とされています。wikipediaにも”さわり”があったのでご覧ください。
https://ja.wikipedia.org/wiki/オリザノール
小胞体ストレスというのは、変性タンパク質によって細胞がストレスを受けている状態。これが許容量を超えると細胞が死んだり、重篤な疾患が誘発されたりします。
分子シャペロンというのは、他のタンパク質のエラーを正常化させるタイプのタンパク質の総称。
今更ながら玄米すごいね、ということです。
https://fore-ma.com/products/302
玄米がマイクロバイオームを変え、お肉が欲しくなくなった
個人的な話ですが、私も玄米食に切り替え、お肉を食べる機会が減りました。あれば食べるのですが、少量で十分。なくても気にならないという、若い頃には考えられなかった食性へと変質しています。(ビーガンというわけではありません)
以前知人から高級和牛をもらったのですが、半年以上冷凍庫で眠っていたほどで、最後は仕方なく食べたという、牛さんに対して非常に申し訳ない気持ちでした。(別件ながら、地球環境を考えても牛肉はもうやめるべき)
玄米食とマイクロバイオーム(腸内細菌叢)については過去に記事を書きましたのでご覧ください。結果としてビフィズス菌が増え、酪酸産生菌も増え、全体の多様性が増して健康な毎日を享受しています。
犬にとっての玄米は有益か?
さて、そんな有益な玄米はペット犬にとっても有益な物なのでしょうか?? おそらくはYesです。犬種の差はありそうですが、人間とペット犬はともに過ごすことで多くの細菌類を共有しています。ペットを飼っている人の腸内細菌の多様性は平均よりも高いという研究報告もあるほどです。
腸内細菌の多様性と免疫力は正の相関があり、つまりペットを飼っていると(大袈裟にいうと)病気になりにくいということ。当然、ペットの側も、人間が保有している皮膚の常在菌や腸内細菌の影響を受けているはずで、人間にとって良いものは犬にとっても良い可能性が高いと言えます。
Foremaが大学と共同研究した中で、沿岸地域に住む飼い主さんのペット犬が、海藻の消化機能を持つ細菌を多く保有している例がありました(他の犬の保有は少なかった)。
また、別の犬はヘリコバクター属の細菌を多く保有しており、これは飼い主さんがピロリ菌の保有者である可能性を示唆します(他の犬はほぼ持っていなかった)。
飼い主さんの状況をもっと紐解くとさらに面白い事実が見えてくるかもしれませんが、ともあれ人間と犬が腸内細菌をある程度共有している前提であれば玄米は犬にも有益と言えます。
肉食性を抑制するのが有益なのか?
では、冒頭の論文であったように、動物性脂肪に対しての嗜好性を抑制することが果たしてペット犬にとって有益なのでしょうか?
実際のところ、本質はそこではありません。
玄米の効用は「動物性脂肪への嗜好」を修正したのではなく、代謝を改善し、小胞体ストレスの緩和によって「細胞を正常化させた」というもの。その結果として動物性脂肪への嗜好が是正されたという流れです。これは被験者が肥満体であったゆえの流れであり、別の健康問題を抱えていた場合、それが腸内由来であれば別のプロセスで正常化していたことも予想できます。
玄米 → 腸 → 脳 という流れですね。
腸と脳の関連、脳腸相関
腸と脳は密接な関わりがあります。思考が腸に影響を与えると同時に、腸内細菌が脳に対して働きかけていることが近年の研究で分かっています。その鍵を握るのが迷走神経。かつては何の役割を果たしているのかよく分かっていなかった迷走神経ですが、腸内細菌は迷走神経を通じて脳にシグナルを送っていることが解明されています。それも新生児の頃から。
脳内ホルモンとか幸せホルモンの類であるドーパミンやセロトニンも、実は大半が腸内で作られているという事実も判明しています。腸からの指令でそれらが分泌されるという神秘。その指令を伝える大切な役割を担っているのが迷走神経というわけです。
迷走神経刺激療法
少し話が逸れるのですが、迷走神経刺激療法というものがあります。これは難治性てんかんの治療法として近年登場した有益なもの。難治性てんかん患者のうち、薬剤が効かない数%の人たちにとって、従来残されていた治療法は脳梁離断という、もはや治療とも言えない荒技だけだったのですが、それ以外の重要な選択肢として近年、迷走神経刺激療法に期待が集まっています。
また、迷走神経の刺激は、てんかん以外にも炎症抑制とか睡眠の質の向上、鬱とか精神疾患の改善といった部分にも光が当たり始めています。
近年は犬のてんかんに困っている飼い主さんも増えているので、将来的にはペット領域でも選択肢として登場するかもしれませんね。(とはいえ人間でも対応できる病院はまだごく一部のみ)
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。