eubacterium ユーバクテリウム

犬の腸内細菌 Vol.7 酪酸菌(らくさんきん)

最終更新日:
公開日:2021/10/20

犬の腸内細菌/腸内フローラについて語るシリーズ。今回は、この頃よく耳にするようになった酪酸菌(らくさんきん)について。

酪酸菌とは何か?

酪酸を生み出す細菌の総称

酪酸菌(らくさんきん)は、正しくは酪酸産生菌(らくさんさんせいきん)といいます。餌を食べて酪酸を生み出す細菌たちの総称です。

酪酸というのは短鎖脂肪酸の一つで、腸内においては重要な要素。短鎖脂肪酸を代表するのは酪酸、酢酸、プロピオン酸の3つで、腸にとってのエネルギー源でもあります。そんな中でも特に昨今注目されているのが酪酸です。

腸内粘膜強化と炎症抑制

酪酸の働きとして主なものは下記の3つ。

  • 腸内粘膜の強化
  • 抗菌活性
  • 炎症の抑制

以下、簡単に記載します。

腸内粘膜の強化

腸内粘膜は、腸壁を覆うバリアのような存在で、病原体などの侵入を阻止する役割があります。腸内粘膜には腸内の中でもまた独自の細菌組成があり、宿主にとって有益な細菌たちのゆりかごとも言えます。何らかの不具合が原因で腸内粘膜が減少すると、腸内物質が腸外(つまり体全体)に浸潤しはじめ、感染症の拡大をはじめとする大事故につながります。(腸内では穏健なメンバーが、腸外では突如感染源に変貌するetc..)

抗菌活性

「抗菌活性」とは”他の細菌の増殖を抑制する”という性質で、平たく言えば病原性細菌を抑制するという事。これは酪酸産生菌に限らず、乳酸菌やビフィズス菌など、宿主にとって有益な細菌たちに共通する事項と言えます。

メカニズムとしては、周辺環境を酸性に変え、病原性細菌が住みづらい環境をつくるとか、相手が嫌がる物質(バクテリシオンといいます)を放出して抑えこむといった方法があります。

炎症の抑制

酪酸産生菌の特に重要な役割として挙げられるのが「制御性T細胞」の発現を促すという点。「制御性T細胞」は炎症を抑制する役割を持っているので、間接的とは言え酪酸産生菌の増加が炎症抑制の鍵を握るとも言えます。

腸内細菌組成が大きく崩れた個体であっても、酪酸産生菌グループが健在の場合は症状の悪化があまり見られず、また回復が早い傾向があります。

逆に体調が大きく崩れた個体の場合、酪酸産生菌が枯渇しているような事例も多々あり、代わりに炎症を促進する細菌たちの大幅な増加が見られます。

この時、同じく炎症抑制の働きをする「バクテロイデス属」なども姿を消している事が多く、もっと奥の方で複数の要因が絡み合っている可能性があります。

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炎症ってよくないの?

体に備わった防衛機能

炎症は、体外からの侵入者を防ぐなど、体を守るための正常な防衛機能。むしろないと困ります。ただし炎症は「戦闘状態」と同じもので、私たちの体にもいくばくかのダメージを残します。よって、戦闘終了の司令塔の存在が重要になります。

この司令塔が先に触れた制御性T細胞で、制御性T細胞の登場の鍵を握るのが酪酸。さらにその背後にいるのが酪酸を生み出す「酪酸産生菌」という構図です。

酪酸産生菌 > 酪酸 > 制御性T細胞 > 炎症抑制 > 自己免疫疾患の軽減/回避

炎症の加速とアレルギー反応

炎症を抑制する機能がうまく働かない場合、体内が慢性的な炎症状態に陥ります。この状態が悪化したものがアレルギーやアトピー、リウマチ、炎症性腸疾患など、いわゆる自己免疫疾患と呼ばれるものです。

長期的な炎症はやがて癌化すると指摘する研究者もいます。それを証明するように、重度のアレルギー疾患のペット犬と、悪性腫瘍のペット犬は似たような腸内細菌の組成をしています。(似たような壊れ方をしているといった方が妥当)

昨今、主には女性の飼い主さんたちの間で「犬にも腸活」という意識が広まってきているようです。人間の間で少しずつ普及しはじめている腸内細菌(腸内フローラ)

酪酸菌にはどんな細菌がいる?

次世代のプロバイオティクス

酪酸産生菌は、ラクノスピラ科の細菌の一部や、ユーバクテリウム属という細菌グループに多く見られます。これらは一般人からすると極めてマイナーな存在で、通常耳にすることはありません。

そんな中、酪酸産生菌の代表的な存在として挙げられるのが、次世代のプロバイオティクスとも呼ばれるF.プラウスニッツィです。この細菌は強力な抗炎症作用を持ち、健康個体では多く検出される一方、健康課題のある個体では露骨に数を減らします。

この細菌が腸内からどれくらい検出されるかで、その個体の予後もある程度予想がつくほどで、極めて分かりやすい存在と言えます。

長寿菌 ロゼブリア属

酪酸産生菌の中のやや有名どころとしては、ご長寿で知られる京丹後市の住民から多く見つかったロゼブリア属という細菌がいます。京丹後の人たちは、ロゼブリア属以外にもコプロコッカス属や、ラクノスピラ属といった酪酸産生菌を多く保有していたそうです。

宮入菌 ブチリカム

世の中で酪酸菌というと、現状ではC.ブチリカムを指す事が多いです。これは、C.ブチリカムが製品化されたほぼ唯一の酪酸産生菌だからです。クリニックなどでも採用され、(関係者の間での)知名度は高い存在です。

C.ブチリカムの特徴は芽胞を形成、つまり強力な殻を作って休眠に入れるという点です。細菌たちの芽胞はとてもタフなもので、高温にも耐えるなど極限環境で生き残るための機能が結集されています。

芽胞を作ることで有名な細菌はウェルシュ菌として知られる「C.パーフリンジェンス」がありますが、Cの頭文字を見てもわかるように、C.ブチリカムとC.パーフリンジェンスは近縁種です。

その他、メガスファエラなど

その他、野菜や穀物をよく食べる人や犬はメガスファエラ属など、ルーメン関連の細菌を多く保有している事があります。ルーメンというのは牛や山羊など反芻動物の胃袋のことで、ここにはメガスファエラ属をはじめ多くの酪酸産生菌が生息しています。

メガスファエラ属は野菜や玄米などの穀物をよく食べる人で増える傾向があります。一方で、ヒトよりも肉食性の強い犬や、完全に肉食性の猫でこの細菌が増えている場合は注意が必要かもしれません。

特に猫の場合、ルーメン細菌が腸内で増えている時点でかなり不自然な状況と言え、事実不具合のある個体でしばしば見られる事象でもあります。(たいてい穀物主体の療法食かダイエット系のフードを使用)

おなかの調子が良くない猫の腸内細菌の事例でしばしば目にするのが、食物繊維由来と思われるトラブル。キーワードは「ルーメン」です。 猫の腸内で増加するル

ポストバイオティクスという考え方

成分を直接摂取する

健康と長寿に貢献するのなら「よし、酪酸産生菌を増やそう!」となるのが人情かと思います。この場合、3つのアプローチがあります。

  1. 酪酸産生菌を増やす(プレバイオティクス)
  2. 酪酸産生菌そのものを摂取する(プロバイオティクス)
  3. 酪酸を摂取する(ポストバイオティクス)

並べて書くと、なんたらバイオティクスでわかりにくいのですが、これは私たち宿主がどう振る舞うかを指しています。

  1. 酪酸菌の餌を食べる
  2. 酪酸菌を食べる
  3. 酪酸を食べる

です。

特に3のポストバイオティクスは、「成分を直に摂取する」というダイレクトな方法で、近年しばしば目にします。酪酸が重要なのであれば、酪酸産生菌といった回りくどい事をせず「酪酸そのものを直接摂取しようではないか」という考え方です。つまり酪酸サプリ。これはすでに乳酸菌でも行われていて、乳酸菌成分そのものが商品化されています。(バイオジェニックスなど)

ポストバイオティクスは根本の解決ではない??

実際に「酪酸そのもの」を摂取した事が無いので断言は難しいのですが、ポストバイオティクス(=酪酸サプリ)は短期的な改善や、早急な立て直しには効果がありそうに思えます。

ただ、根本の問題である「なぜ酪酸を摂取する必要が出てしまったのか」を全く解決していないので、安易なポストバイオティクスは木を見て森を見ない短絡的な側面があるようにも感じてしまいます。ただ、ここは過渡期なので、今後最良の方法が確立されていくのかもしれません。

尚、個人的にはやはり1のプレバイオティクスが有益だと考えています。我々宿主が何を食べるかによって、体内の生態系に神の如く影響を及ぼす事が解明されてきています。宿主が酪酸産生菌の餌を食べるということは、酪酸産生菌にとって有利なだけでなく、彼ら(彼女ら??)以外の細菌たちにも影響を与えます。

関連商品: 犬と猫の酪酸菌サプリ「腸内免疫らくさん」

腸内の住人は酪酸産生菌だけではない

酪酸産生菌の餌の一つにあるのは難消化性の食物繊維や難消化性でんぷんで、これは同時にビフィズス菌の餌でもあります。また酪酸酸生菌とは別の切り口でやはり炎症を抑制するバクテロイデス門の細菌たちにとっても、食物繊維は有益な餌となります。

食物繊維の摂取はさまざまなプロセスを経て、大腸菌をはじめとしたプロテオバクテリア門の抑制にもつながり、プロテオバクテリア門が減少した隙間を、宿主にとって有益な細菌が埋めていくというのが健康に向かっていくプロセスの一つです。これは人もペットも同様と考えられます。(Forema では犬の事例でこのパターンを多く見かけています)

腸内という生態系/マイクロバイオームを、単一の視点だけで捉えると本質を見誤ってしまうのでは無いかと思う今日この頃です。

余談ながら、プロバイオティクスという言葉は、アンチバイオティクス(Antibiotics:抗生物質)に対抗する言葉として提唱されたものです。細菌を成敗するのではなく、細菌を味方にするという概念だと理解しています。

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