ビフィドバクテリウム

犬の腸内細菌 Vol.1ビフィズス菌

最終更新日:
公開日:2021/08/18

犬のマイクロバイオーム(腸内細菌/腸内フローラのこと)について不定期に語るシリーズを始めました。第一弾はビフィズス菌について。

そもそもビフィズス菌って何だ? みたいなところから始めます。

※当記事は関連文献および、自社での16S rRNA解析事例を元に執筆しています

(冒頭写真:Public Health Image Library)

ビフィズス菌とは何か? 乳酸菌とは違うの?

ビフィズス菌の定義

ビフィズス菌とは、ビフィドバクテリウム属というグループに所属する細菌の総称です。

厳密に書くと、アクチノバクテリア門 > アクチノバクテリア綱 >ビフィドバクテリウム目 > ビフィドバクテリウム科 > ビフィドバクテリウム属 という分類です。

このビフィドバクテリウム属の中に、ビフィダムやロンガムといった「種(しゅ)」が色々と存在します。

種の中には、さらに分化した株という単位も存在します。(例. BE80とか)

株というのは、同じ種のなかでも特殊な機能/特性をもった個体およびグループのことで、例えばヒトという種の中に、アスリートとかナチュラリスト、みたいな特殊な性質を持ったグループがいるのと同じような概念で良いかと思います。

乳酸菌とは何か?

ヨーグルトのイメージのせいか、どうもビフィズス菌と混同してしまいがちなのが乳酸菌。乳酸菌は、乳酸を産生する(=代謝するともいいます)機能を持った細菌たちの総称で、例えばファーミキューテス門のラクトバチルス属やラクトコッカス属といった細菌たちを中心に250種前後が乳酸菌というカテゴリーに存在します。(分類は日々変わるため、この数字もすぐ古くなるはずです)

ビフィズス菌が系統による分類だったのに対して、乳酸菌は機能による分類と言えます。

関連商品:犬と猫の乳酸菌サプリ「腸内免疫ラクトマン」

犬とビフィズス菌の関係

犬にとってビフィズス菌は重要か?

これはとても重要な問いです。世の中には「善玉菌のビフィズス菌を増やす」といったキャッチコピーが多く存在します。ビフィズス菌は人間にとって有益なのは間違いありません。

そして、犬にとっては実はそんなに重要ではないかもしれません。

犬のマイクロバイオーム/腸内細菌の研究は、実はあまり進んでいません。犬と人間はある程度食料資源を共有しているため、人間にとって良いものは、おそらくは犬にとっても良いだろうという仮説があり、これが一人歩きして、ペットフードやペットサプリのキャッチコピーが作られている側面が大きいように思います。

関連記事:腸内細菌のコントロールで健康課題解決を目指す犬用、猫用サプリ

犬にはビフィズス菌はほとんどいない

人間と食住を共有しているにも関わらず、健康な犬の標準的な腸内にはビフィズス菌はほとんどいません。(もちろん個体差はあります)

健康なのにビフィズス菌がいない、もしくは少ないというのは、自然状態では、そもそもそんなに必要ではないと理解して良いでしょう。よってビフィズス菌配合しました!を強調するだけのフードやサプリは、論がちょっと雑かなぁと思います。

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犬のマイクロバイオーム/腸内細菌解析で見えること

ビフィズス菌への過信は禁物?

Foremaではペットの腸内細菌解析を行なっています。その中で実際に見えてくるのは、「やはり犬のおなかにビフィズス菌はいない」ということ。

実際には微量に存在するのですが、積極的にヨーグルトやビフィズス菌サプリを与えている飼い主さんの場合を除くと、犬や猫のビフィズス菌保有は決して多くありません。(未検出ギリギリもザラにあります)

犬にビフィズス菌が多かった場合、今のところ特に目立ったデメリットはありません。ただ、ビフィズス菌が目的になると本質を見失う可能性があります。(猫も同様)

マイクロバイオーム解析
マイクロバイオーム解析

ならばビフィズス菌は不要か?

あまりいなくてもよいのならば、犬にとってのヨーグルト摂取/ビフィズス菌の摂取は不要なのでしょうか?

現時点では、「必須ではないかもしれませんが、いたらいたで歓迎」と解釈しています。ビフィズス菌は腸内を酸性に傾ける事で、病原性の細菌にとって住みづらい環境構築に貢献します。ただ、それが犬にとってどれくらい有益か? という点について期待値が高すぎるのが昨今の実情のようにも感じています。

一方で、腸内最近の組成が崩壊しかけているような状況(ディスバイオシスといいます)においては、立て直すための有益な選択肢の一つなのは間違いないようにも思います。

乳酸菌と比較しても、ビフィズス菌は比較的腸内で増えやすくコストも安いので、プロバイオティクスによる腸内多様性向上という文脈に沿った有益な選択肢となり得ます。

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おまけ:大型犬と小型犬の腸内細菌に違いはあるか?

あります。これまでForemaで解析してきた実例からも、また海外を含めた論文からも、大型犬と小型犬ではマイクロバイオーム/腸内細菌の組成は異なっています。

ただし背景はなかなか複雑です。

繁殖の背景による違い

日本の場合、小型犬は最初から腸内細菌の組成がおかしい場合が明らかに多いです。

最初からおかしいのは、無理な掛け合わせによる遺伝的な問題の可能性もありますし、無理な繁殖現場で必要以上に投与された抗生物質の影響の可能性もあります。幼少期の抗生物質投与はマイクロバイオームが撹乱されるきな要因の一つであり、また腸内細菌組成の崩壊は子や孫に引き継がれ、代を重ねてさらに劣化していく事を報告する研究もあります。

異常なまでに小型化され続ける小型犬〜超小型犬と、犬本来の原型をとどめている大型犬では、腸内の組成は違って当然と言えるように思えます。もちろん大型犬でも純血種という価値観に縛られすぎて遺伝的多様性が狭まっている事例は多々ありますので、それぞれ個別に問題を抱えているともいます。

種としての違い

種の定義は、交配によって「繁殖能力のある子供を残せる」ということ。

馬とロバは、交配で子供(ラバ)は生まれますが、生まれた子供には繁殖能力がないため、同じ種とは定義されません。ヒョウとライオンのあいのこであるレオポンも同様です。

一方で、イヌとオオカミは、交配によって繁殖できる子孫を残せるため、同じ種として分類されています。

信じられないかもしれませんが、イエイヌはオオカミは分類上は同じ種なのです(亜種)。(余談:北米で見られる黒い狼はオオカミは、過去のどこかでイエイヌの遺伝子が入った個体なのだそうです)

では、グレートピレニーズとティーカッププードルは交配して子孫を残せるのでしょうか? 遺伝的にはOKでも物理的に無理でしょう。交配という行為の可否の問題、また仮に交配が成功しても、ティーカッププードルのお腹の中でグレートピレニーズの子供が(母体含め)無事成長できるとは考えづらいため、両種は実質的に別種となったと捉えた方が良いように思います。

そうした「おもて世界」の実情が、腸内にも現れているのだと思います。

後半は話がそれましたが、次回は犬と乳酸菌について書く予定です。

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