これまで犬のマイクロバイオーム/腸内細菌のことばかり書いてきたので、そろそろ猫について書きます。1回目となる今回は、犬との違いについて。
※当記事は関連文献および、自社での16S rRNA解析事例を元に執筆しています
目次
犬と猫の腸内細菌は同じか?
当然ながら犬とは違う
いきなり結論ですが、犬と猫の腸内細菌の組成はかなり違います。
猫の方が幅広い細菌を保有しており、かつ個体差も大きいです。ほぼ猫にしかいない細菌も多々存在し、それらは大抵の場合に検出量はごく微量。文献にもほとんど登場しないので、その役割は未だよく分かりません。
しかもごく一部の個体しか持っていないようなマイナーな細菌が頻繁に登場する上、どの子もたいていそういう細菌を数種〜十数種は保有しているという..。
これら微小のマイナーな細菌たちは一体どういうルーツでここにいるのだろうか??? と常にもやもやしているのが猫の腸内細菌/腸内フローラ事情です。
実はその子の素性がわかる
謎多き生き物の腸内
猫は謎の多い生き物です。人間が見ていない時は、多分別の生き物になっているはずですw。
以前室内飼いをしていた猫が、ある日いなくなり、たった2LDKの家中を探し尽くしたたのにどこにもいない。途方に暮れて座りこんでいると、30cmくらい隣にずっと座っていたという事がありました。その子は数年前に癌で亡くなりましたが、火葬場に連れて行ったその夜に鳴き声だけになって歩いて寝室に入ってきたほど。死んだ子の声を生で聞いたのはその時が最初で最後ですね。
さて、猫の腸内細菌を見ると、その子の背景が何となく見えてきます。たとえばネズミの腸内から検出される細菌が猫の腸内から検出された場合などは分かりやすい例で、その子のライフスタイルがぼんやりと想像できます。
また、個体によっては田畑に関連する細菌を保有しているいる場合もありますし、近年発見されたばかりの新種のウイルスが腸内からごくごく微量に検出されたり、有名な原虫、その他トキソプラズマなど、細菌以外にも多々検出される事例は多いです。
そういう場合、屋内外出入り自由の子である可能性は高く、事実地方都市の郊外にお住まいの飼い主さんだったりします。
これはライフスタイルの違いであると同時に、都市部と地方の違いとも表現できます。人間の場合でも都市部と田舎で腸内の細菌組成は別だと報告する研究もあるのだとか。
保護猫とペットショップの猫の違い
室内飼いであっても、保護猫とペットショップ出身の子では腸内の様子は大きく異なります。
保護猫の場合、腸内細菌の組成から幼少期がハードだったかどうかもある程度見えてきます。やたらと病原性細菌を保有しており、しかもそれらが優勢のまま来ている子などは、おそらくは相当タフなサバイバルを潜り抜けてきたのだろうと推察できます。人間目線だと可愛そうな子猫ですが、自然界という枠組みで考えると、生き残っている時点で勝者とも言えます。
一方で、猫なのに犬と同じくらいしか腸内の多様性がない子もいます。おそらくはペットショップ→清潔な家に直行で、猫っかわいがりされているのだろうと想像しています。事実、高いフードを食べている事例が多いです。
犬ほど崩壊していない
犬と猫の腸内細菌の違いで言えるのは、猫の腸内の方が健全な傾向が強いという事。いや、むしろ犬の崩壊具合が異常事態と表現した方がいいのかもしれません。
背景として指摘できるのは無理な繁殖や品種改良、無理な流通、抗生物質etc..の可能性です。必要以上の抗生物質投与による弊害か、母体そのもの、また個体そのものの根本的な不具合が量産されているとしか考えられない状況だと日々感じます。
幼少期の抗生物質投与による腸内細菌組成の崩壊/自己免疫疾患に関する研究は人間で多数の報告がありますが、それでも安易に抗生物質が処方される現状があります。それを考えると、ペットブーム下での生体販売で深い配慮がなされているとはどうしても思えません。
そんな背景のある中、猫の腸内細菌は疾患個体を除き、犬ほど荒れている事例はまだあまり多くありません。これは猫という生き物の強さなのか、単にペットとして流通する過程に何か違いがあるのか、詳細は分かりません。
世にある通説は一旦忘れた方がいい
根拠不明のキャッチコピーに注意
ほんの数年前まで、マイクロバイオーム/腸内細菌の解析は一部の大手を除き、民間ではなかなか実施が困難な領域でした。よって腸内の「腸活」関連商品は多くは通説(=想像の産物)で成り立っていました。
ところが、腸内で何が起きているかが可視化できるようになり始め、実は通説が違っていた、もしくはより新しい事実がたくさん出てきた、というのが現在の状況です。
その視点で見ると、世にある「腸活」関連商品は情報が古いままだったり、中には「な、何を根拠に..??」というものも少なくありません。悪気はないのだと思うのですが、通説はいったん忘れた方が良いように思います。
猫は人間ではない
犬や猫の研究論文はまだ多くないため、「人間でそうなのであれば、犬や猫でも同様と考えられる」という考えで判断せざるを得ないところもあります。一方で、猫は人間ではないのも事実。
例えば、犬や猫には「ビフィズス菌はそこまで重要ではないようだ」とか、「フソバクテリア門は犬や猫にとってはそこまで有害ではないようだ」といった、人間とは別の状況が垣間見えています。
人間の健康視点を猫にそのまま当てはめると、長期的には不具合につながっていく可能性があります。一部のフードに書いてあるような「豊富な食物繊維を配合」などはミスリードの可能性が高いです。
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。