健康食としてたびたび注目される玄米。長寿や健康に良いという事が広く知られると同時に、残留農薬や無機ヒ素といった不安要素、さらには腸に刺さるという珍説(??)まで、話題に事欠かない気になる存在です。そんな玄米を、ここではマイクロバイオームの観点から記述します。
マイクロバイオームとは何か?
玄米といえばミクロビオティックですが、ここで触れるのはマイクロバイオーム。響きは似ていますが全くの別件です。マイクロバイオームは腸内細菌をはじめとする体内の生態系のこと。
よく聞く腸内フローラと概ね同じ意味ですが、腸内フローラは腸内細菌の叢(そう)を指すのに対し、マイクロバイオームは生息環境全体(私たちの皮膚や内臓、免疫系など)をさす、体内を生態系と捉えている点にニュアンス(思想??)の違いがあります。
腸であれば腸内環境全体を「腸のマイクロバイオーム」、腸内細菌を「腸のマイクロバイオーター」と呼び分ける事もありますが、ここでは省略します。
そんなマイクロバイオームは、玄米と密接な関わりを持っています。
今更ながら玄米について
玄米は精米する前のお米。稲の籾殻を取っただけの茶色いお米です。これを精米機にかける事で外側の種皮や胚芽が除去され、白米となります。白米はお米のエネルギーですが、この部分だけを摂取しているのが白米食。人類史の大半を占める飢餓の時代であればそれでよかったのかもしれませんが、現代においてはエネルギー過多で、逆に炭水化物ダイエットなるものが登場するという本末転倒な事態になっています。
玄米は、難消化性の種皮や胚芽も一緒に摂取する事でエネルギー吸収の速度が弱まり、エネルギーの過剰備蓄が抑制されます。同時に、食物繊維が人間にとって有益な腸内細菌グループの餌となり、酪酸や酢酸など、人体にとって有益な成分に代謝されます。
食物繊維とビフィズス菌
食物繊維についてもう少し触れます、玄米の外側である糠(ぬか)は食物繊維(不溶性食物繊維)を豊富に含みます。糠単体では白米の8倍もの食物繊維を含有するとされ、白米と玄米の単純比較でも玄米の方が4倍もの食物繊維を含みます。
食物繊維は整腸作用があるとされますが、具体的なメカニズムの一つとして指摘できるのがビフィズス菌など有益な腸内細菌群(いわゆる善玉菌)の活性化(※)。食物繊維がビフィズス菌の餌となる事でビフィズス菌の勢力が強くなり、他の細菌群と競合して駆逐します。※ビフィズス菌の他にもバクテロイデス門の細菌類に多い
玄米の栄養素について、農水省のサイトにわかりやすい資料がありましたので引用します。
エネルギー(kcal) | ビタミンB1(mg) | 食物繊維(g) | |
精白米 | 252 | 0.03 | 0.5 |
胚芽精米 | 250 | 0.12 | 1.2 |
玄米 | 248 | 0.24 | 2.1 |
海外の食事ガイドラインでは朝食に全粒穀物や穀物繊維 に富む食事を推奨している。最新のシステマティックレ ビューによれば,1 日 16 g の全粒穀物摂取で全死亡リスク が 7%低下,1 日 48 gの摂取で 20%低下することが示され, 改めて全粒穀物摂取の重要性が示された5)。
引用 https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/minna_navi/topics/topics3_03.html
ペット犬にも?? 玄米はマイクロバイオームに好影響
玄米食は、マイクロバイオームにとって有益です。人間にとっては経験則で既に知られた既成事実ですが、おそらくはペット犬にとっても有益なもの。というのも、人間との共同生活で雑食性の増したペット犬は、オオカミの頃に比べて穀物の消化機能がかなり強化されているから。
消化機能は消化酵素ばかりが注目されますが、実際にはその多くを腸内細菌が担っており、彼らが食物を代謝(=分解して別のものにして吐き出す)する事で私たちの体が吸収できる形になります。
ペット犬と人間は多くの腸内細菌を共有する事で、消化機能もある程度共有していると考えられます。
Foremaが山口大学と共同研究した中で、被験者(犬)の中で「バクテロイデス プレビウス」という細菌を保有しているペット犬がいたのですが、この細菌は日本人ばかりが保有しているもの。飼い主さんの影響でその子も保有していたのでしょう。おそらく海外のペット犬はほとんど保有していない細菌と考えられます(※)。ちなみにバクテロイデス プレビウスは海藻類を分解する機能に大きく貢献している細菌で、「欧米食に染まった日本人」の場合は保有していない可能性が高いと考えて良さそうです。事実、全く保有していない被験者(犬)も複数いました。
(※カナダのブリティッシュコロンビアの海岸地域で発見されたオオカミの個体群は海藻を食べる食性が確認されており、バクテロイデス プレビウスや類似機能を持った最近を保有している可能性もありそうです)
ビフィズス菌を保有していない犬
大学との共同研究についてもう少し触れます。上で食物繊維とマイクロバイオーム/ビフィズス菌について触れましたが、研究で腸内細菌を解析した中で、そもそもビフィズス菌を保有していない犬が複数いました。この場合、いくらビフィスズ菌に良い食物繊維を摂取したところでビフィズス菌増殖の恩恵は望めないため、健康食の前提がまた変わってしまう可能性があります。
もちろん、ビフィズス菌だけが全てではなく、ある種がいなければ別の種が代替の役割を担っているのが生態系。マイクロバイオームにおいてもそれは例外ではありません。先にも触れましたが、バクテロイデス門というグループの中に、食物繊維を分解して酢酸や酪酸に変える細菌たちが多くいます。これらがビフィズス菌と同様の働きをしている可能性も十分に考えられます。
最後に、調理化学会誌の論文に良い一文があったので引用させていただきます。食物繊維をとって機能をあげろよ! みたいな意味だと理解しています。あくまで人間の話で、犬の場合はもう少し追求の余地がありそうですね。
一方,腸内細菌に届く炭水化物(MACs: Microbiotaaccessible carbohydrates)という概念が報告され,MACs を多く摂取することで腸内細菌叢の多様性を保持すること ができるとされている7)。
MACs の代表的食材は,全粒穀 物であろう。腸内細菌叢が多様であればあるほど良い腸内 環境と考えられている。この腸内細菌の「多様性」は,ス トレス緩和,睡眠の質,身体の機能維持に関係する。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/49/5/49_297/_pdf
文脈を一切無視した紹介で恐縮ですが、愛犬用の無農薬米糠、ショップサイトで販売中です。
https://fore-ma.com/products/302
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。