腸内細菌と言えばビフィズス菌や乳酸菌を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか?この2つのグループはいわゆる善玉菌の代表的な存在で、耳にする機会も多いもの。人間にとって有益なこれらの細菌たちは、では犬にとってはどのような存在なのでしょうか?
結論を書くと、犬にも猫にも乳酸菌は重要です。なぜなら..
目次
そもそも乳酸菌とはなにか
乳酸を生み出す細菌たち
乳酸菌というと、ヤクルトやヨーグルトが頭に浮かびます。が、実際にはたくさんの種類の乳酸菌が存在します。
乳酸菌は特定の細菌の名前ではなく、「乳酸を産生する細菌」の総称です。「乳酸を産生する」というのは、「餌を食べて代わりに乳酸を吐き出す(代謝する)」といった意味です。
乳酸を産生する乳酸菌以外にも、酪酸を産生する「酪酸産生菌」や酢酸を産生する「酢酸産生菌」、ほかにも「エクオール産生菌」や「プロピオン酸菌」など、多様なグループがいます。
これに対し、ビフィズス菌というのはビフィドバクテリウムという属性に所属する細菌の総称。「イヌ科」「ネコ科」みたいな種類による区分けと言えます。
で、乳酸ってなんなの?
マクロファージの活性化に貢献
乳酸というのは、主には乳糖を分解して作られるもの。Wkipediaの冒頭を引用すると
乳酸(にゅうさん、lactic acid)は、有機化合物で、カルボン酸の1種である。キラル中心を1つ持つため鏡像異性体が存在するので、R体かS体かの区別が必要な場合がある。乳酸の塩やエステルは ラクタート あるいは ラクテート(lactate)と呼ぶ。解糖系の生成物として現れる。
かつては筋肉疲労の原因とも言われていましたが、現在の研究ではむしろ疲労回復を防ぐ作用があるのではないか? との報告もあるのだとか。
で、筋肉ではなく腸内の話においては、乳酸自体が他の細菌たちの餌になって有益なタンパク質として代謝されたり、腸管に働きかけて免疫細胞(マクロファージ)の活性化に貢献するなどの効用が知られています。
腸管免疫細胞に働きかける
日本医療研究開発機構が2019年に乳酸と腸管免疫細胞についての研究報告を出していましたので引用します。読みやすくするため、教授の所属についての部分は割愛しています。
大阪大学の梅本英司准教授、森田直樹大学院生、竹田潔教授らのグループは、乳酸菌等の腸内細菌が産生する乳酸・ピルビン酸が小腸のマクロファージの細胞表面に発現する受容体GPR31に結合し、マクロファージの樹状突起3伸長を誘導することを発見しました。
乳酸菌というと日本ではヤクルトのシロタ株(L.カゼイ)が有名ですが、ヨーグルトやキムチ、ぬか漬といった発酵職人にも乳酸菌が含まれているのはご存知の通り。特にぬか漬けなど漬物系の発酵食品には、なんと数十種類もの乳酸菌群が含まれており、人間であればまずはお漬物をおすすめします。犬や猫の場合はヨーグルトが無難な選択と言えます。
犬にとって乳酸菌は有益か?
乳酸菌の種類は200以上
人にとっては有益とされる乳酸菌ですが、犬にとってはどうなのでしょうか? 正論をいうと、たくさん種類がある(200種類以上)から、効用もそれぞれ、となります。
その上で、複数の文献を参照すると、概ね下記の内容に集約されます。
- 抗菌活性/病原性細菌の抑制
- 炎症の抑制
- 免疫力の強化
などなど。
乳酸菌研究の多くは、企業と大学の共同研究であることが多く、企業が調べたい乳酸菌株に絞って効果が研究されることが多いです。
そうした背景でさまざまな乳酸菌たちが研究されていった結果、効果の良し悪しはあれ、だいたい上記の内容に集約されています。
犬や猫にとっても乳酸菌は有益
Foremaで実施している腸内細菌解析の結果においても、犬や猫の健康状態と乳酸菌の保有割合は強い相関があり、特に抗菌活性や炎症抑制の恩恵は明らかと言えます。
その時、「有名な乳酸菌だから健康!」というわけでもなく、大企業のブランドのない乳酸菌株でも、特に劣ることはないというのが実情です。むしろ、有名株だけ摂取しても、腸内に乳酸菌群の勢力が存在しない場合は、そこまで効果は期待できないという不都合な(??)傾向があります。
(例.有名な乳酸菌サプリで腸内に1種類の乳酸菌だけが増えても病原性細菌は全く抑制されていないなど)
https://www.forema.jp/lactoman/
腸内の乳酸菌を増やすには?
特定の腸内細菌を増やしたい場合、2種類の方法があります。
- 細菌そのもの(プロバイオティクス)を摂取すること
- 腸内細菌の餌となるもの(プレバイオティクス)を摂取する事
プロバイオティクスとは??
プロバイオティクスは生きた細菌なので、小腸〜大腸に到達するまでに胃液や胆汁の洗礼を受け、大半が死んでしまいます。ここで生き残りやすい特性を持つ乳酸菌の1種がヤクルトのシロタ株というわけです。
プレバイオティクスとは??
プレバイオティクスは食物繊維やオリゴ糖などで、難消化性なのでそのまま小腸〜大腸まで到達し、そこで元から生息していた乳酸菌やビフィズス菌の餌になります。
玄米などの全粒粉の外殻も多くはプレバイオティクスに該当します。かつては「消化に悪い」という論が先行した時期もありましたが、消化に悪いからこそ大腸まで届き、そこで腸内細菌たちのエサになります。
糞便移植(FMT)という方法も
これら2つの方法以外には、究極の手法として糞便移植という方法があります。国内ではまだほとんど普及していませんが、優良な腸内組成のドナーの糞便を濾過し、その液体をチューブなどで大腸に直接流し込むと、例えば炎症性腸疾患や、C.ディフィシル感染症などの重篤な腸の病気が高い割合で治癒するという事がわかっています。(人間の場合、ドナーが兄弟姉妹の場合にパフォーマンスが高まるのだそうです)
乳酸菌まとめ
以上をまとめると、犬にとっても、猫にとっても乳酸菌は重要です。
プロバイオティクス/プレバイオティクスを組み合わせて摂取する事で、腸内での保有と育成にプラスに作用します。
特に有名乳酸菌である必要はなく、乳酸菌群として一大勢力を保持することで、健康面に好影響を与えると言えます。
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。