ホンシュウジカ

どうしてこんなに増えた!?鹿問題を考える

最終更新日:
公開日:2020/10/22

身近な野生動物のイメージがある鹿。山道をドライブしていると見たことのある人は多いのではないでしょうか?鹿はとても臆病な動物です。昔は猪や狸を見かけることはあっても、鹿を見かけることは少なかったようです。鹿と遭遇するようになったのは実はここ数十年での出来事なのです。なぜでしょうか?鹿の生態や行動、増加の原因や対策について考えてみました。

鹿の生態

反芻する

鹿は反芻する動物です。反芻とは一度胃に入った食べ物を口に戻して、また胃に送るという消化方法です。牛・山羊・羊・ラクダなども反芻動物に含まれます。

なぜそんな効率の悪い食べ方をするのでしょうか?

実は植物を栄養として吸収するのは大変な事なんです。哺乳類は基本的に葉を消化する事ができません。植物の細胞は細胞壁という丈夫な壁があり、中にある栄養分を守っています。その細胞壁を破壊しないと中にある栄養を吸収することができないのです。

反芻動物の胃は4つの部屋を持ち、巧みな消化方法を編み出すことによって植物から栄養を摂取できるようになりました。発達した臼歯で植物を噛み砕いて飲み込み、まず第一胃にためます。第一胃には多くの微生物が住んでおり、そこで発酵・分解されます。よくすり潰されたものはすぐに発酵されますが、原型のまま飲み込まれた植物は第二胃に移動してから、食道を逆流し口に戻ってもう一度すり潰されます。そうして第三、第四の胃へと移動していき、徐々に細かくなった植物は細胞壁を破壊されていきます。第四の胃は私たちの胃と同じように胃液を分泌して消化を行います。その後腸に移動し、更に消化吸収を行います。鹿の腸は約30メートル、体長の20倍以上あります。人間の腸が体長の5〜6倍であることを考えるととても長いですね。

鹿のグリーントライプ 中身 100g
鹿のグリーントライプ 中身 100g
豆知識:
ウサギの食糞について

ウサギも草食動物ですが、鹿のように反芻はしません。ではどうやって植物を消化しているのでしょう?それは体を2度通過させるという方法です。食べた物は盲腸で発酵され、肛門から出す時にもう一度食べます。これを食糞と言い、普通のコロコロとした糞とは違い柔らかく粘膜に包まれていて、盲腸便(軟糞)と言います。盲腸便は直接肛門に口を近づけて食べるので私たちが目にする機会はほとんどないんです。

鹿の種類

日本にいる鹿はニホンジカという種類でエゾシカ、ホンシュウジカ、キュウシュウジカ、マゲシカ、ヤクシカ、ケラマジカ、ツシマジカの7つの亜種に分かれています。

鹿の角

角のある哺乳類は草食獣に多く見られます。

頭蓋骨に突起が伸びることによってできる角や、表皮が変形してできた角を持っている動物もいますが、鹿の角は毎年生え変わるという特徴を持っています。また、角は2〜3歳になると枝分かれするので「枝角」と呼ばれます。鹿の角はメスにはなく、成熟したオスだけに見られます。

鹿の角は春頃から伸び始めます。「袋角」と呼ばれ、血管が走っており毛皮のような触り心地で柔らかく温かいようです。袋角はまだ骨化しておらず折れることもあるので、この時期のオスは袋角が傷つかないように気をつけながら過ごします。内部では少しずつ硬化が進み、夏に成長しきって表面の皮が剥がれ、秋頃に完成します。翌年の春先に前年の角が落ちて、また新しい角が生えてきます。毎年生え変わるのが鹿の枝角の特徴です。
象牙とサイの角と鹿の角

鹿のオブジェとドッグガム
鹿のオブジェとドッグガム

鹿の性格

鹿はとても臆病で警戒心の強い動物です。鹿に限らず野生動物はたいてい人に対しては臆病で、人を見ると逃げていきます。テレビのニュースでは「猪が出た」「クマに襲われた」と騒ぎ立てますが、本当は彼らの方が何倍も怖い思いをしていることでしょう。人を殺生する為に襲ってくる野生動物は日本にいるでしょうか?

さて、鹿は臆病な性格ゆえ、一頭で行動することは少なく、たいていは群れで行動しています。食事中でも常に周りを警戒し、耳を忙しく動かして時々顔を上げ辺りを見回します。少しでも危険を感じるとお尻の白い毛を広げ、走って逃げます。

鹿は本来薄明薄暮性(はくめいはくぼせい)で、明け方と夕方に活動する動物です。しかし何といっても臆病な性格のため、明るい時間帯は人間がいるので怖くて出てこれません。夜になって人がいなくなってから行動するので夜行性と思われがちですが、これは鹿が人間の行動パターンに合わせて行動時間を変えた結果なのです。

鹿問題

増えすぎたのはなぜ?

鹿は臆病な性格なので滅多に人前に姿を現しません。そのため、昔は鹿という動物は珍しい生き物だったようです。1980年頃までは鹿は少なく、保護されている地域もあったようですが、徐々に鹿による農業被害が出るようになり、今では社会問題となっています。

なぜ増えてしまったでしょう?増えたら何が問題なのでしょう?

いくつか理由を考えてみました。

地球温暖化の影響

地球温暖化で、冬があまり寒くなくなり、雪が降らなくなりました。その影響で子鹿の死亡率が減ったのではないでしょうか?鹿は8ヶ月の妊娠期間を経て6月頃に出産します。冬までにすくすくと育ち体重は20kg以上になります。しかし遅く生まれた子鹿は栄養を蓄えられないまま冬を迎えることになるので死亡率が高くなります。暖冬であるということは、雪の量が減り生き延びる可能性が増えるのではないでしょうか?

オオカミの絶滅

日本には昔、ニホンオオカミがいましたが、100年前に絶滅してしまいました。近年増加している鹿がオオカミが絶滅したせいだと考えるのは無理があるかもしれませんが、もし鹿を捕食するオオカミが絶滅していなければ、鹿の命を狙う脅威になっていたのは間違いないでしょう。
ニホンオオカミ絶滅と獣害増加は無関係?

森林伐採

密に生えていた森林を伐採することによって地面に光が当たり、植物が光合成しやすくなります。鹿の食料となる植物が増えるので、鹿は食糧難になることなく栄養状態がよくなり、生存率も高くなったのではないでしょうか?
人工林を切った後・・

ハンター減少

ハンター数は1970〜1980頃をピークに年々減少しています。また、ハンターの高齢化もあり狩猟される鹿の頭数が減ったのではないでしょうか?

過疎地の変化

昔に比べて農業人口が減ったこと、若い人は都市へ行き、過疎地の高齢化が進んでいます。かつての里山には人がたくさんいて、農業が盛んに行われていました。草刈りも徹底して行われていたので、野生動物たちは隠れる場所がなく、食料である草も少ない里には降りて来ませんでした。

しかし、次第に農業人口は減り、人は都市へと流れていきました。人が減り高齢者が多い山間部は、草が刈り取られずヤブが目立つようになります。野生動物は身を隠す場所があるので畑に近づきやすくなりました。また、売り物にならない野菜は昔であれば自家消費をするので綺麗に収穫されていましたが、現在は畑にそのまま放置される事もあり、それらを食べに野生動物が山から降りてくるのです。

那須集落 安芸太田町
先日、限界集落として知られる那須集落に行く機会があったのでレポート書きます。 那須集落というのは、栃木県の那須ではなく、広島県の安芸太田町にある

いくつか考えられる原因を挙げてみましたが、いかがでしょうか?

一番有力なのは過疎地の人口減少と高齢化だと考えますが、色々な要因が絡み合って現状があるのでしょうから、1つに絞るのが正しいのかどうかは分かりません。しかしどの理由だとしても、全て人間が関与しているという事は間違いなさそうです。

鹿による被害

それでは何をもって被害というのでしょう?鹿が山に生えている植物を食べても被害とは言いません。人が作った物、野菜や稲を食べた時これを被害と呼びます。

鹿は大きい個体では体重が100kgを超えます。食べる量は1日3〜5kgと言われていますので、かなりの量の植物が消費されることになります。

土砂崩れ

鹿の多い地域ですと、地表に生えている植物が減り、雨が降ると土砂崩れが起きやすくなります。植物が地面にあるかないかで、地面の土の動きは大きく変わり動きやすい状態で大雨が降ると土砂崩れが起きる可能性が出てきます。

対策

増加している鹿、人間との距離が近くなっている鹿は、人間の都合で駆除されています。確かに農家さんにとっては収入源を絶たれてしまうかもしれない深刻な問題です。

鹿柵で囲う

農地を柵で囲うことにより、被害は抑えられる可能性があります。しかし、ある程度の高さが必要ですし、隙間があるとそこから侵入するので、柵を維持するのはかなりの労力が必要となります。

若者の過疎地移住

人が増えると鹿は恐れて近寄らなくなるかもしれません。特に若者の移住は高齢者と比べると動きが早く活気があり、抑止力になります。人と野生動物との棲み分けができれば被害は抑えられるのではないでしょうか。

対策をしても被害が続く場合には市町村に駆除依頼をし、猟師さんに駆除してもらうことができます。

駆除したその先

ではその駆除された鹿はどうなるのでしょう?地域や捕獲頭数によっても変わってきますが、その多くが「廃棄物」として埋設処分されています。

人間の都合で奪った命を埋めて終わり。

そしてここがとても問題なのですが、作物を守る為に鹿を駆除したにも関わらず、売れ残った野菜が廃棄処分されている現実。

この問題について皆さんはどう考えますか?

私たちの取り組み

Foremaでは駆除され埋設処分になる鹿を少しでも減らす為の活動をしています。

お肉に限らず、内臓や骨、角を有効活用することによって害獣として駆除された命を有益な資源へと変える仕組みづくりを目指しています。

おわりに

鹿に限らず、イノシシ、クマ、タヌキ、ノウサギなど日本にいる野生動物は生態系の一員です。単体で生きている訳ではなく、花や虫や他の動物など様々な命と繋がっています。人間の都合でむやみに駆除して絶滅させてしまうような事はあってはいけません。

鹿が増えたことによる問題は、簡単に答えの出る事ではなく、解決できる事なのかどうかさえも分かりません。駆除という手段は一時しのぎでしかなく、根本の原因をどうにかしない限り本当の解決にはなりません。

1人でも多くの人がこの事実を知り、関心を持つ事が大事なのではないかと考えます。

ニホンオオカミ の剥製
ニホンオオカミが絶滅したのは明治末期の1905年とされています。最後に捕獲された個体の記録が根拠ですが、その後もしばらくは目撃例はあったようです。
深入山山焼き
山焼きという行為をご存知でしょうか? 文字通り山を焼くわけですが、国内では(場所によっては)1,000年以上前から行われてきた伝統的な取り組みでも

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