玄米と肥満抑制について-マイクロバイオームの観点

最終更新日:
公開日:2019/12/29

先日食生活を切り替えたところ、エクオール産生菌酪酸産生菌、そしてクリステンセネラ科といった、肥満抑制や健康長寿に有利な腸内細菌が短期間で増えました。

食べ物を変えるとマイクロバイオーム(主に腸内細菌叢/腸内フローラ)にどのような影響が出るのか?そしてそれはだいたいどのくらいの期間で変化していくものな

元々食生活には気を使っていた方ですが、この時の食事内容で特に大きな変更点は納豆を「毎日」摂取するようほぼ義務付けたこと、そして完全玄米食(無農薬)への切り替えです。

癌リスクの低下や肥満の抑制に有利なエクオール産生菌はイソフラボン由来なので、短期間でこれらが増えたのは納豆による恩恵なのは明白です。当記事では酪酸産生菌玄米、そしてクリステンセネラセエについて記述したいと思います。

玄米は何が有益か? 炭水化物太りとマイクロバイオームの視点

精製によって効率よく体内に吸収されてしまう

昨今は肥満の原因として炭水化物が指摘され、炭水化物ダイエットという言葉が広く普及しているように思います。この観点だと、玄米は特に有益です。お米に限らず、穀物は精製される事で体内での吸収率がぐんと高まるからです。

精製過程で削ぎ落とされる胚芽や”ぬか”の部分こそがプレバイオティクスであり、いわゆる食物繊維の部類。プレバイオティクスは消化のしにくさが特筆点で、これがある事によって消化が非常に緩やかになり(=自然界ではそうなっている)、過剰なエネルギー吸収を緩和します。つまり肥満の抑制です。その上で、プレバイオティクスによる腸内細菌への影響が鍵となります。

プレバイオティクスは腸内細菌の餌

白米や精製された小麦では削ぎ落とされているプレバイオティクス(食物繊維)の部分。これらはエネルギーの過剰吸収を抑制するだけでなく、それ自体が腸内細菌たちの餌になっています。

プレバイオティクスが腸内細菌によって分解され、結果として酢酸(さくさん)や酪酸(らくさん)といった有益な代謝物(通称:短鎖脂肪酸)が生み出されます。今回玄米食に切り替えた結果、酪酸(らくさん)産生菌が増えていたのは何とも分かりやすい結果だと言えます。

逆に白米だと、このプレバイオティクスが不十分で、よほど野菜類などで補っていかないと酪酸が不足してしまうのは明白に思えます。そして現代食において「よほど野菜類などで補っていく」というのを毎日続けるのは困難でしかありませんし、事実玄米食に切り替えてからの体調の良さは否定しようのないものでした。

酪酸産生菌が増えるとどうなるか?

酪酸産生菌が増える事で当然酪酸が多く代謝されます。酪酸は多くの腸内細菌の餌になり、さらなる別の代謝(人体に有益)につなげるのみならず、大腸の外側に待機している免疫細胞が正常に機能するのにも必要な成分でもあります。よって酪酸が欠けると免疫機能に問題が出始めます。

免疫低下による風邪のひきやすさやなどは分かりやすいですが、重篤になると免疫系が攻撃対象を誤ったり、炎症抑制の機能が働きにくくなるなどの弊害が出始めます。

具体的にはアレルギーやアトピー、炎症性腸疾患やクローン病といった自己免疫疾患、そして意外かもしれませんが肥満です。肥満はエネルギーの過剰摂取も一因ではありますが、肥満の細胞は常に炎症状態にあり、本来のエネルギー貯蔵の機能から逸脱しています(分裂せずに膨張し続ける)。つまり免疫不全による症状の一つです。

酪酸が増えるとこうした症状の緩和(というか本来の姿に戻す)に繋がります。米も穀物も砂糖も、精製は良くないという事を、健康食に興味がある人は誰でもご存知のはず。実際に腸内細菌レベルでそれが証明され始めているのが近年の先端研究の現場です。

それでも精製品ばかりが流通するのは長期保存がしやすくなるという生産側の事情、見た目の綺麗さや柔らかさ、”もちもち”といった価値観を「良質」と刷り込まれてしまった消費側の事情の双方による弊害のように思います。

玄米に切り替えるべきか?

無農薬玄米

玄米は無農薬にこだわるべき

10年以上前に玄米ブームが来たような記憶があります。その反動もあったのか、現在では玄米が胃腸に刺さるからあまり良くない、といった説をしばしば耳にします。

実際に刺さるかどうかは知りませんので、ここではスルーしますが、玄米食への切り替えはとても大切だと感じています。もし玄米食に問題があるとすれば、それはおそらく農薬が最重要事項です。

農薬関連の記事を調べていくと、お米の場合、精米する事で8割ほどが除去でき、洗米する事で残りも大半が除去されるといった記述に行き当たります。複数の検査機関が同様の結論を出しているので正しいのだと思います。逆に言うと、玄米は残留農薬だらけという事です。

マイクロバイオーム(腸内フローラ)の撹乱の要因として挙げられるのは、抗生物質、保存料などの化学物質、そして農薬です。農薬には当然除草剤も含まれます。マイクロバイオーム育成のために玄米を選択したにもかかわらず、結果的に農薬を多く摂取していたのではコントにすらなりません。減農薬ではなく、完全無農薬である事が重要に思えます。

一方で無農薬玄米を購入する手段がほとんど見つからないのが日本の現状であり、この国の農業が破綻しかけている(※)という実情のわかりやすい一例ではないでしょうか。(※個人的にはJAの弊害+意思決定権のある世代の思考停止が原因だと思っています)

尚、無農薬玄米はポケットマルシェ食べチョク坂ノ途中といったベンチャー企業経由で取り寄せが可能です。前の世代の負の遺産を、いま若い世代が取り戻そうと闘っています。それに対して猛烈に抵抗している人たちもいるらしいのですが、少しずつ状況は良くなっているように感じています。

グレインフリー/グルテンフリーについて考える

グレインフリーは穀物からの回避、グルテンフリーは小麦からの回避。背景にはセリアック病をはじめ、穀物由来の自己免疫疾患の存在が挙げられます。さらには炭水化物ダイエットも流行っているように、ここだけ見ると「穀物なんてとんでもない!」となってしまいがちです。が、実態はさにあらず。

上述したように、炭水化物による肥満も、穀物摂取によるアレルギーも、多くは米や小麦の精製というプロセスによる弊害(マイクロバイオームへの悪影響)が大きな一因だと言えます。もちろん遺伝的にどうしても穀物を受け入れられない人がいるのは間違いないはずですが、それが近年になって突如急増し続けているというのは、進化の歴史から見てもおかしな話です。

農業が始まって以来数千年もの間共存していた穀物が、過去数十年で急に、人にもペットにも有害になってしまったというのは不自然でしかありません。

お米や穀物を責めて回避するのではなく、精製というプロセスに疑問を持ち、またアレルギー反応の出る下地である「マイクロバイオームの撹乱」こそが根本の原因であることを強く認識しておくべきなのだと思っています。

昨今、特にペットフードの分野でグルテンフリー・グレインフリーが常套句になっているのですが、「それは本質ではない」と断言して差し支えないように感じます。保存料や着色料を除去する方が先。(保存料不使用とうたいながら長期間保存を前提に量販店に置いてあるフードもある)

小麦
2012年のカナダでの話。二十歳の女性がボーイフレンドとキスをした直後に死亡するという事故がありました。原因は、男性が数時間前に食べたピーナッツバター

クリステンセネラセエと玄米

痩せ菌クリステンセネラセエが短期間で増えた

冒頭にも触れましたが、今回の食事切替の実験(2ヶ月ほど)で、痩せ菌と呼ばれるクリステンセネラセエ科(クリステンセネラ ミヌタ)が1.53倍に増えました。私は元々一般平均の7.7倍ほど保有していた痩せ型人間なのですが、今回の食事切り替えによって通常の11.8倍まで保有比率を伸ばした事になります。

クリステンセネラセエは肥満軽減効果がマウス実験で実証されており、まぎれもない痩せ菌。にもかかわらずデブ菌と呼ばれるグループ(ファーミキューテス門)に分類されている不思議な存在。微量に酪酸を代謝するので酪酸産生菌にも該当します。

腸内細菌は初期は母親から引き継がれ、育っていく過程で周辺のものを取り込んで組成されていくわけですが、クリステンセネラセエは、それが定着するかどうかは遺伝形質によって左右される事が分かっています。

私の場合は祖父も叔父も痩せ型なので、遺伝的にクリステンセネラセエが育ちやすいのだと思います。それでも、短期間でさらに1.5倍まで伸ばせたというのは、食事内容が後天的に彼らの存在を後押しできることの証左でもあります。

この場合、他の酪酸産生菌同様、おそらくは玄米による食物繊維が有益だったと思われるため、ダイエットに取り組む方には是非とも無農薬玄米食を取り入れていただき、腸内にわずかにいると思われるクリステンセネラセエおよびその他の酪酸産生菌に対してエサを与える気持ちで毎日の食生活改善に取り組んでみてほしいです。

酪酸産生菌が増えない場合

私は元々酪酸産生菌を人よりも多く保有していたため、玄米食を始めとする食事切り替えですぐに細菌の増殖に成功しました。が、人によっては酪酸産生菌の数が少ないとか、増えにくいというケースもあるかと思います。

海外の実験ですが、酪酸(らくさん)の産生が減っても代わりに酢酸(さくさん)が産生されていれば、大枠では同じような役割を担う事が分かっており、つまり特定の細菌類が不在でも、別の有益な細菌類が代役を担っている事例は多数あるようです。まるで自然界です。

自然界そっくりの生態系、それが個人個人の腸内に宿っているというのは非常に興味深く、その生態系にどんな餌や資源をばらまいていくのか? それは私たち個人の生き方、生き様にかかっているのだと改めて実感しています。

特別な遺伝的疾患を除けば、私たちやペットの健康は、マイクロバイオームの「生態系保全」によってどうにでもコントロールしていけるのだと確信します。

アッカーマンシアという腸内細菌

最後に、蛇足ながらアッカーマンシアについて触れます。

肥満に関連する腸内細菌として、2004年に発見/提唱されたアッカーマンシア・ムシニフィラがあります。この細菌が多い人は肥満が抑制され、その逆もしかりという事が確かめられています。

バクテロイデス門でもファーミキューテス門でもない、ウェルコミクロビウム門に属しており、成人の腸内細菌の1〜4%ほどを占めているらしいのですが、私は0.1%程度の割合しか保有していませんでした。

アッカーマンシアが少ないと体内の炎症値が上がったり、インスリン抵抗性が上がるなどの弊害(※)につながります。※糖尿病のリスクが高まる

私の事例だとクリステンセネラセエやその他の酪酸産生菌が多いおかげで表面的な肥満は抑制できているようなのですが、アッカーマンシアが少ないのであれば血糖値に問題が出る事も考えられます。

で、実際に1年ほど前の健康診断で「しいて言えば血糖値がやや高め」という指摘をされてしまった記憶が蘇った次第です → そこからコーヒーに砂糖を入れるのをやめた..

では、アッカーマンシア・ムシニフィラはどうやって増やせばいいのでしょうか?この細菌はフラクトオリゴ糖および魚由来の油で増殖する事が確かめられています。フラクトオリゴ糖(オリゴフルクトース)は玉ねぎやゴボウ、てんさいなどに含まれており、食物繊維と一緒に補充できるもの。

玉ねぎは頻繁に使用する一方で、私は魚類をあまり食べません。その辺りの食生活がアッカーマンシアが不足している(?)原因であると仮定し、近々青魚を日常的に摂取する食生活に切り替えていく予定です。

※2015年に京都大学が「魚油が体脂肪燃焼を促す」という研究成果を発表しています。この研究は魚油によって「褐色脂肪細胞」が増えるという事実を突き止めたわけですが、その前段階としてアッカーマンシアをはじめとする数多腸内細菌の変化があったのだろうと推察できます。

http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2015/151217_1.html

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