アレルギーと抗生物質について-マイクロバイオームの観点から

2019年10月22日

人間のみならず、ペットの疾患においても近年急増しているアレルギー。老化とともに症状が悪化し始め、食べられる食材が限られてきたために鹿や猪を食材として選択するペットオーナーが増えています。

弊社の運営するペット向けサービス「ペットさん定期便」では、8割以上のユーザー(ペット)がなんらかの健康問題を抱えており、そのうちでアレルギーは3割を超えます(ちなみに最も多いのは涙やけ)。

ここでは、アレルギー症状悪化の(可能性のある)要因の一つとして、抗生物質について触れてみたいと思います。

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なぜアレルギーが増えているのか?

アレルギー反応は、本来自分の体を守るべき免疫が暴走し、自らの体を攻撃してしまうことから起こります。理由はいろいろあるとされますが、実際にはよく分かっていない事も多く、お薬による「対処療法」が一般的な選択肢となっています。

近年、アレルギーに悩む患者さんが(人も犬も)増えているのを実体験からも認知している方は多いと思います。そんな中で今回指摘したいのは、抗生物質による影響です。

そもそも抗生物質とは何か?

抗生物質は、本来自然界にあるもので、菌類、細菌類などの微生物によって生成される物質です。例えば、とある細菌の代謝物には他の細菌や真菌の発生/増殖を抑制する効果があり、その中で人類にとって有益なものを培養/生成したものが抗生剤として医療現場で活用されています。

抗生物質は過去半世紀で実に多くの人命を救ってきた一方で、近年になって負の側面が目立ち始めています。そのうちの一つが抗生物質汚染であり、もう一つがマイクロバイオームの撹乱。つまり腸内細菌など人体内部へのダメージです。

抗生物質との接点

人や犬が生きていく中で、抗生物質に触れる機会は大きく分けると3つあります。

  • 医療行為での投薬
  • 家畜などの食肉に含まれるものの摂食
  • 自然界に流出したものへの接触

の3点です。

以下、順に触れていきます。

抗生物質1.医療行為での投薬

私たちやペットが細菌性の感染症にかかった際など、抗生物質を処方される事がしばしばあります。抗生物質はターゲットとなる病原菌(菌類/細菌/真菌)の活動を抑制するわけですが、同時に数多の腸内細菌にも一定の影響を及ぼします。絨毯爆撃や焦土作戦のようなもので、良いも悪いもまとめて影響を受けてしまいます。

抗生物質治療をきっかけにお腹の調子が悪くなったり、本来の疾患が回復した後も別の体調不良が長引く事があり、これらは抗生物質による副作用として知られています。健康な大人であれば通常は2,3週間で回復するとされていますが、中には抗生物質投与をきっかけに長く苦しむケースも稀にあるそうです。

私はダニ媒介型の感染症を治すために全身を薬漬けにした。抗生物質は絶大な効力を発揮してくれた。だが私は、今度は別の不具合に苦しめられるようになった。以前と同じく症状は多種多様だ。皮膚に赤い発疹ができ、胃腸が弱くなり、たまたま出会った感染症の病原体を何であれ平雨ようになった。一つの疑いが頭をもたげた。あの一連の抗生物質は、私を苦しめていた細菌を全滅させただけでなく、元々体の中にいた細菌まで絶滅させてしまったのではないだろうか。

引用:アランナ・コリン 著 「あなたの体は9割が細菌」 プロローグより

抗生物質2.家畜などの食肉に含有

畜産現場においての抗生物質は、本来は家畜の感染症を防ぐために投与されるのですが、これとは別に、微量の抗生物質を資料に混ぜて与える事で家畜の成長を早めるという用途でも用いられています。

アメリカやカナダ・オーストラリアの家畜に成長促進剤(肥育ホルモン:ラクトパミン)が投与されているのは有名な話で、よってアメリカ産を避けている人も多いかと思います。が、これとは別に抗生物質の飼料への配合が日常的に行われています。アメリカで使用される抗生物質の70%が家畜用に使われているという試算もあるそうです。

そしてこの、抗生物質の配合は日本でも普通に行われている事です。酪農学園大学のトピックスに「抗菌性飼料添加物」として紹介してありましたのでリンクを貼っておきます。

こので指摘されているリスクは「抗菌性飼料添加物」を与えられた家畜体内の「薬剤耐性菌」の存在。何らかの事情でお肉に菌が付着し、それが人への健康被害繋がる可能性が考えられます。そうした「考えられるリスク」を複数の最新論文をもとに評価し、リスクが無視できる程度以内において使用されているとの事。

日本の役人はとにかく生真面目で愚直なので、科学的根拠については素直に信頼すべきだと考えます。一方で、この科学的根拠は感染リスクに対してのものであり、残留抗生物質に対するリスクではないのでその点は留意が必要かもしません。

実際のところ、抗菌性飼料添加物による食肉への抗生物質の残留は微々たるものなのかもしません。一方で、投薬による家畜への抗生物質投与は「微量」ではないため、一定量の抗生物質が家畜の体内に残留する可能性が指摘できます。

抗生物質は、かつては「残留」そのものが規制されていた(=無残留規制)のですが、90年代以降に「安全性評価」が確立されたため、現在は一定量以内であれば残留を許容する「残留規制」となっています。

腸内細菌叢を中心とした人間のマイクロバイオームの研究が飛躍的な発展を始めたのは、2012年にアメリカで始まった「ヒト・マイクロバイオーム計画」以後のことなので、「残留規制」の科学的根拠の基準はそこには追いついていない可能性があります。可能な限り早期に最新バージョンにアップデート願いたいものです。

抗生物質3.自然界に漏れ出したもの

魚の養殖現場への薬剤投与や家畜への投与、人への治療を経た下水からなど、多くの抗生物質が濾過されずに自然界に流れ出ています。以前にも触れましたが、英ヨーク大学の研究者らが世界中の91河川を調査したところ、3分の2近くで抗生物質が検出されたという報告があります。

英ヨーク大学の研究者らが、フィンランドで開催された環境毒性学化学会欧州支部の学会で2019年5月27日に発表した最新の研究によると、テムズ川からメコン川、チグリス川など、世界中の91河川を調査したところ、3分の2近くで抗生物質が検出された。

この研究を率いた1人であるヨーク大学の環境化学者アリステア・ボクソール氏は、これは大問題だと話す。「生理活性物質である抗生物質を、私たちの社会は自然環境に大量に排出しています」https://style.nikkei.com/article/DGXMZO46003500S9A610C1000000/

ただし、ここで検出される量はごくごく微量であり、例えばその川の水を飲んだ動物に影響があるとか、そういう話では無いようです。ここでの問題は、自然界に漏れ出した抗生物質にさらされた細菌類の中から、薬剤に対する耐性を持ったものが誕生するというリスク。

先にも触れた薬剤耐性菌と呼ばれるものです。当記事は「人やペットのマイクロバイオームに影響を与える(かもしれない)抗生物質」という主旨なので、ここでは自然界に流出した抗生物質および薬剤耐性菌(抗生物質汚染)については割愛します。

マイクロバイオームから見た抗生物質のリスク

免疫細胞の混乱

人の場合、腸内細菌の種類は1000を超えるとされています。そのうち、いくつかの腸内細菌は腸壁を通じて免疫細胞と情報を交換している事が分かっており、免疫細胞は腸内細菌から得た情報を元に「攻撃のターゲット」を定めて体内を巡ります。

免疫細胞に情報を渡す大元の腸内細菌が「なんらかの事情」で正常に機能していないと情報の伝達がうまく行われず、結果として免疫細胞の誤作動につながります(=マイクロバイオームの撹乱)。

そして「なんらかの事情」の中の大きな一つが抗生物質の投与というわけです。

大腸炎を抑制する細菌

免疫細胞には「炎症を起こす(外敵と戦う準備)タイプ」と「炎症を鎮める(終戦処理?)タイプ」がおり、両者がバランスを取り合って外敵の侵入から体を守っています。この両者の均衡を保つのに、特定の腸内細菌が関与している事が分かっています。

有名な事例として、バクテロイデス門のバクテロイデス・フラジリスという細菌があります。この細菌は大腸炎を抑制する事が突き止められているのですが、この菌の作用は免疫細胞に特定の物質を渡し、抗炎症作用(炎症の行き過ぎを抑える作用)を活発化させている事。

免疫細胞が単体で体を守っているのではなく、その前段階に腸内細菌の働きがあります。そしてその腸内細菌に悪影響を与える要因の一つとして、抗生物質の存在が挙げられるという構図です。

自閉症スペクトラム障害にも関与?

全く余談ながらバクテロイデス・フラジリスが自閉症スペクトラムによる異常行動を緩和させたというマウスの実験結果があります。人間の場合においても自閉症スペクトラム障害の患者の腸内細菌においてはバクテロイデス門(腸内の多数派)の細菌グループが減少し、ファーミキューテス門(一般的には次に多い)の比率が増大しているケースが多く報告されているのだとか。

さらに余談ながら、私の腸内においては、バクテロイデス門よりもファーミキューテス門の方が多く(全体の57%!)、それが関係あるのか私自身は発達障害の傾向が強いですw。ついでに言うとファーミキューテス門の細菌類は別名デブ菌とも呼ばれ、肥満者の腸内で多い傾向があるのですが、私は生まれてこのかた一度も太った事がありません。「門」というのは非常に広い分類で、このグループの中に非常に多くの枝分かれしたグループが存在するため、まだまだ研究途上の領域なのでしょう。

腸壁にダメージを与える可能性

話を「抗生物質のリスク」に戻します。他の微生物の活動を抑制するという性質上、抗生物質が腸内の細菌に対して影響を及ぼすことは想像の範囲内ですが、近年では腸壁細胞そのものにダメージを与えるという研究報告も出始めています。

私たちの細胞の中にはミトコンドリアが含まれている事を、多くの人が生物の授業で習ったかと思います。ミトコンドリアのルーツは太古の細菌なので、腸内細菌がダメージを受けるのであればミトコンドリアもダメージを受けるというのも道理なのかもしません。

腸壁細胞が破壊されると隙間から様々なものが体内に漏れ出してしまいます(=腸管壁浸漏)。そこには腸内細菌にブロックされている、外部から侵入した病原体をはじめ、元から腸内にいて何らかの理由で増殖した悪玉菌も含まれます。腸壁のダメージは防衛ラインの弱体化を意味するとみていいでしょう。

長管壁浸漏について、SUNSTARのコラムにわかりやすくまとめてありましたのでリンクを貼っておきます。

腸のおもしろ話 第3回 リーキーガットって知っていますか?

https://www.kenkodojo.com/guts/detail3/

抗生物質投の投与..アマゾンの中の空き地

話を「抗生物質の投与」に限った場合、抗生物質は焦土作戦のようなものなので、焼き払った跡は「アマゾンの中にできた空き地」のような状態にも例えられます。放っておけば周りの植物(腸内の場合は細菌類:盲腸の中にバックアップがいる)が戻ってきてやがては復元されていくのですが、その前に運悪く別の外来種(腸内の場合は外部の病原体など)が入り込んでしまった場合、一気に占拠されてしまう可能性があります。また、仮に元あった種(や細菌たち)が戻ってくるとしても、空き地になる前とは各種のバランスが異なっているかもしれません。

現実問題として、抗生物質投与によって別の感染症に苦しむ事例が多々報告されており、さらには完治しきらず再び同じ細菌に感染するという事も日常的に起きているそうです。こうした「マイクロバイオームの撹乱」の影響をより多く受けると考えられるのが幼児(や子犬)で、腸内の細菌たちのポジションが完全に定まっていないため、一度焦土作戦を喰らうと正しく復元できない、もしくはベストではない菌の相を構成してそのまま固定化してしまう事も考えられます。

母体から引き継がれるマイクロバイオーム

ペット犬に関して言うと、かつては年を取ってからアレルギーが出るようになった、というのが相場でしたが、近年は子犬の頃からアレルギー症状に悩まされている事例が増えているようです。これは一概に抗生物質だけを悪者にするのではなく、そもそもそも母体から得られる最初の細菌叢に問題があった可能性も指摘できそうです。

それは母親が抗生物質による治療を何度も受けていたのかもしれませんし、食べたお肉(家畜類)に抗生物質が残留していた、はたまたドッグフードに含まれる食品添加物による影響など、ともあれマイクロバイオームがベストとは言えない状態で生きてきたのかもしれません。

人や動物が生まれて最初に接触する細菌は産道から得られ、次に母乳から得られるのですが、ここで母体から得られる細菌類の”相”にすでに欠落があった場合、それがそのまま子供に引き継がれるという事になります。貧困の連鎖との相似に戦慄を覚えます。

ここからの修正は食事内容や生活環境を変え、時間をかけて修正していくしかないようですが(数世代かかるという説も..)、そうも言っていられない場合に(?)先端的な取り組みとして、冒頭でも触れた「便移植」という選択が登場しています。

話がそれますが、人間の帝王切開の場合、本来産道(や出産時の糞便)から得られる菌の洗礼を受けないため、それらを取り込む機会が失われます。結果、帝王切開で生まれた子供は成人後に肥満の傾向が高まるという調査結果があるそうです。この調査は現在も継続中で、彼ら彼女らが今後年月を重ねていく中でどのような推移を辿っていくのかが追跡されているとのこと。

抗生物質は悪か? アレルギーは回避できるか?

近年激増しているアレルギーやペットの涙やけも、ともに免疫由来の症状であり、それはマイクロバイオームの撹乱が原因として指摘される代表的な疾患であることは知識として持っておいた方が良さそうです。マイクロバイオームの撹乱の一つの要因として、当記事では抗生物質による治療および残留抗生物質(←どちらかと言うと、本当はこちらを強調したかった)の影響の可能性について触れました。

治療による投薬は仕方ないとして、コントロールできるとすれば後者の残留抗生物質(つまり食材の選択)の方で、例えば安価なアメリカ産は回避する王道的な対処に加え、国産の家畜の場合も畜産業者を選ぶ(※)といった選択が必要になるのでしょう。※必然的にスーパーでの購入という選択が除外されてしまう

弊社のサービス(野生鳥獣の療養食としての活用)の話になってしまうのですが、牛・豚・鶏といった安くて一般的な選択肢がある中で、わざわざ野生の鹿や猪を選ぶ理由があるとすれば、まさに抗生物質の投与と人工飼料(=抗生物質配合)、そして食品添加物(主にドッグフード)とは無縁であるという点ではないでしょうか。

当記事ではあえて抗生物質を集中的に取り上げましたが、決して否定しているのではなく、また国が定めた基準を糾弾する似非リベラルを展開しようとしているわけでもありません。

ただ、マイクロバイオーム分野の研究がここまで急速に発展している中で、先人たちが積み重ねてきた叡知の賜物である現在の「科学的根拠」を、早急に最新版にアップデートしていく必要があるのではないかと考えている次第です。

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