2012年のカナダでの話。二十歳の女性がボーイフレンドとキスをした直後に死亡するという事故がありました。原因は、男性が数時間前に食べたピーナッツバター。女性は重度のピーナッツアレルギーだったそうです。
1950年代にはとても珍しい症状であったピーナッツアレルギーも、現代では子供の50人に1人の割合にまで増加(アメリカ)。同じ食品加工場でピーナッツ(および特定のアレルギー関連物質)の扱いの有無を記載しなければならなくなりました。
昔はほとんどなかった疾患/症例がなぜか急増している..。この観点で、ペット犬とアレルギー、そしてグルテンフリーについて語ります。
目次
アレルギー疾患の本質は本当にアレルゲンか?
有害なものに対してアレルギー反応が起こるのは正常な事ですが、無害なものに対して反応するのは免疫の誤審です。アレルギーの治療は抗ヒスタミン剤などで免疫機能を抑制したり、食物アレルギーでは低アレルゲンの食事に切り替える方法で対処してきました。
が、それらは「なぜ誤審が起こるのか」の根本には目を向けない対処療法であり、西洋医学にありがちな「森を見ない」価値観に思えます。 この辺りは前回の記事をご参照ください。
ペットフードのグルテンフリーをどう考えるか
昨今のフードを俯瞰すると、「グレインフリー」や「グルテンフリー」という言葉がキャッチコピーとして定着しています。
- グレインフリー:穀物を含まない
- グルテンフリー:小麦やライ麦の主要タンパク質(=グルテン)を含まない
ということです。
グレイン/グルテンフリーの製品が増えているということは、それだけ需要が増えていると考えるのが自然。小麦製品が原因で皮膚の痒みや下痢などを発症する個体が増えたのだと解釈できます。しかしなぜそんな事が起こるのでしょうか?
ヒントは人間界にあります。
近年急増のセリアック病
発症リスクは抗生物質の投与回数と相関
セリアック病はグルテンに対してアレルギー症状を引き起こす病気で、1950年以降、アメリカでは患者数が4倍に増えている疾患。とくに21世紀に入ってからの伸びが大きい病気で、自己免疫疾患に分類されます。
スウェーデンでの調査で、セリアック病を発症した人(データは数千人分)は、発症しなかった人に対して「発祥に先立つ数ヶ月間に抗生物質を投与された割合が40%も高かった」というデータがあります。
そして「抗生物質の投与回数が多いほど、セリアック病のリスクは高まった」と。
中でも「メトロニダゾール」を処方された人は、そうで無い人に比べて危険性が2倍も高かったのだそうです。他にも、帝王切開で生まれた人はセリアック病のリスクが高いという研究結果もあります。
メトロニダゾール とは何か?
メトロニダゾールはピロリ菌根絶などに使用される抗生物質で、ピロリ菌だけでなく、腸内細菌全般に対して強い効力があります。ピロリ菌は胃がんの原因として知られますが、一般的にはそのリスクはシニアになってからの話。
一方、若年時にピロリ菌が不在だと「喘息の罹患率が高い」というデータがあり、また「セリアック病患者」は「ピロリ菌の不在」の割合が高いといった研究結果もあります(=ピロリ菌がセリアック病を抑制している可能性)。
ちなみにメトロニダゾールはペットにも使用される事が多く、ネット通販でも普通に手に入るもの。調べてみると「愛犬が下痢をするので使っています」といった商品レビューをはじめ、一般の飼い主さんらが「便利に使っている」実態が垣間見得ました。
抗生物質で治してさらに悪くなる
知人に、長期間謎の体調不良で苦しんでいる人がいました。話を聞く限り、ぜんそくとアレルギーと軽度の鬱(※)の併発で、マイクロバイオーム 関連の書籍で紹介されていた「自己免疫疾患で苦しんでいる人の症状」と一致していました。※鬱は炎症(=サイトカイン)と深い関連がある事が分かっています
抗生物質は、体内の病原菌を駆逐する一方で、その他大勢の有益な細菌類にも打撃を与えて去っていきます。特に腸内細菌は免疫系が正常に機能するのに大きな役割を果たしており、抗生物質投与によって逆に免疫に不備が起こりやすいという深刻な副作用があります。
これらは、病院や薬局では一時的なものとして解説を受けますが、実際には数年先まで影響が残ることもあり、若年であるほどその影響は深刻である事が複数の研究で明らかになっています。
抗生物質による治療で免疫に不備が起こった場合、新たな疾患や症状が起こりやすくなり、それに対してまた抗生物質を使うという悪循環があります。また、抗生物質を生き延びた薬剤耐性菌によって逆襲を食らうというリスクもあります。
さて、そういう可能性も踏まえてその知人の話を聞いていると、さっそく新たな抗生物質を処方されて「今飲んでいる」という事でした。
それが何の薬で、なぜ処方されたのかは知りません。過去にどれだけ抗生物質を服用してきたのかも知りません。不具合の原因は全く別のところにある可能性もあります。
とは言え、人も犬も免疫系の不具合が増えており、それに対して抗生物質が安易に使用され、使用量がひたすら増え続けているという点は脅威でしかありません。
私たちは自分たちの免疫、つまり腸内細菌/マイクロバイオームに対して本気で向き合うべき時に来ているように思います。
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。