人も人間も、増え続けるアレルギー。原因はアレルゲンと呼ばれるタンパク質であるとされており、対策として低アレルゲンの食事に切り替える方法が一般化しています。
が、逃げ続けることがアレルギーの根本の対策なのでしょうか?
そもそもなぜ増えているのか?(特に子供たちや幼犬)
近年の先端研究で、アレルギーを始めとする自己免疫疾患の違う側面があらわになってきましたので概要を記載します。特にペット犬のアレルギーに困っている人の参考になれば幸いです。
目次
問題の本質はアレルゲンではない?
アレルギー反応とは、アレルゲンと呼ばれるタンパク質に対し、動物の免疫が過剰反応して炎症反応が起きる事。痒くなったり下痢をしたり、嘔吐をしたり..。獣医さんと話をして「アレルゲンと抗体獲得」の説明を受けた方も多いと思います。
そして、低アレルゲンの食事への切り替えというのが一般的な流れです。
では、なぜ近年になって人も動物もアレルギーが急増しているのか? これに対して明確な回答をしているドクター(人間/ペット双方)は決して多くないように思います。
衛生仮説は間違い..!?
近年のアレルギー急増は、「衛生環境がよくなりすぎたため」という説が一斉を風靡した事があります。これを「衛生仮説」といい、免疫が攻撃する相手がいなくなったのでもてあまして暴走している(or 機能停止している)、とか、免疫が学習する機会を失った、という趣旨の考え方です。
この説が合致する場合もあるのですが、もっと攻撃すべき対象がある場合でも、先に花粉や食物などの無害なものに異常に反応するなど、この説には矛盾が多く、研究者のあいだでは下火になっています。(古い医師はいまだこれを主張する。情報をアップデートしないので)
本質は免疫機能の誤審/不具合
アレルギー反応の本質は免疫機能の誤審と不具合です。
- 間違えた相手を敵と認識し
- 必要以上に武力で制裁を科す
- 体内が戦場と化し(=炎症反応)
- かつ鎮静役も機能していない
炎症反応は、外敵をやっつけるための必要な防衛措置ですが、戦争をすると周辺にも当然被害が出ます。
昨今のアレルギー(および自己免疫疾患)は、相手がいないのに戦争を始め、同士討ちをしながら市街地を破壊し続けている、そういう状況です。そして静止する人がいない。
無政府状態の紛争地域同様で、どう見てもクレイジーです。この不具合と向き合わない限り、食べ物を変えて逃げ続けても、次のアレルギー反応に悩まされるのは時間の問題と言えます。
不具合の主因は腸内細菌にあり
不具合の原因は、遺伝的な疾患を除けばほぼ腸内細菌に由来しており、すごく平たく言うと「腸内バランスが崩れた」から。
もう少し具体的に書くと、例えば特定の腸内細菌群が増えすぎた、もしくは減りすぎた結果、腸壁の粘膜(バリアーの役割がある)に緩みが生じ、腸壁の外側に待機している免疫細胞との情報伝達の仕組みが崩れてしまった事などが挙げられます。(他にもケースは多々あり)
免疫細胞は、腸内から外敵や味方の情報を得ており、それを元に体内に警備/巡回の網を巡らせます。このとき、大元の情報伝達が間違っていると、敵でもないものに反応して戦争を始めたり、戦争を終える役目の細胞(炎症を抑える=T-reg細胞)が別の場所に行ったりと、各種不具合が発生します。
アレルギーやアトピーをはじめとする自己免疫疾患の多くは、発生にも抑制にも腸内細菌が深く関与することが開閉され始めています。(その他、肥満や喘息、そして鬱病までも..!)
では、腸内細菌そのものは何によって左右されているのか?
それは食べ物、そして抗生物質です。
抗生物質の疑惑
食べ物で腸内細菌の組成が変わるのはわかりやすいですね。私自身、自分の腸内細菌を定点観測し、その都度食べ物を変えて変化を俯瞰しています。
ただし、大人になってからの食糧によるコントロールはあくまで対処療法で、根本の治療にはなりません。根本の治療するにはすでに手遅れなのです。(とは言え、健康食を維持し続ければOKと解釈できます)
腸内細菌の組成が崩れる根本の原因は、乳幼児期の抗生物質である事を強く示唆する研究結果が多く上がってきており、もはや否定できない状況にあるように思います。
抗生物質は、致命的な感染症から命を救う場合には極めて有効な手段ですが、副作用として有益な細菌群までも殺してしまうため、抗癌剤同様に究極の選択だと言えます。
が、近年では風邪などでも安心のために処方されているのが実態。(抗生物質はウイルスには効果がない。患者がわめくからとりあえず処方するという話も..)
この濫用こそが事の本質だと言えるでしょう。
幼少期の抗生物質が健全な免疫構築に影響を与える
大人の場合、抗生物質で腸内細菌が壊滅しても、事故らない限りは(※)数週間で回復する事が分かっています。意外にも盲腸が腸内細菌のバックアップの役割を果たしている事が解明され、21世紀に入ってからは虫垂炎でも盲腸は(基本的には)切断しない事になっているそうです。
※抗生物質で腸内細菌が一掃されガラ空きになっているタイミングで、運悪く病原性の細菌が進入するケースが稀にあります。また、特定の腸内細菌だけが生き残り、単一で大増殖するという悪性度の高いケースも有り(ex.クロストリジウム・ディフィシル感染症)
ところが、乳児期〜幼少期の体内は、免疫機能が作られている途中過程。免疫の一旦を担う腸内細菌群と免疫細胞の綿密なやりとりがあり、健全な免疫機構が出来上がる大変重要な時期と考えられています。
この過程で抗生物質が入り腸内細菌群(および体内の細菌群)を撹乱させてしまうと、健全な免疫組成に影響が出る可能性が高く、事実、子供の場合は抗生物質投与から3年経過しても腸内細菌の組成は撹乱されたままだったという研究報告があります。
また、デンマークで行われた大規模な調査(対象の子供57万人以上を6年間追跡調査)では、子供たちの抗生物質投与量とその後の疾患の関連性が研究され、抗生物質を一定量以上処方された子供たちは、炎症性腸疾患の発症率やクローン病の発症リスクが数倍高まっていたことがわかりました。
カナダで行われた研究では、「生後1年以内に抗生物質投与を受けた子供の喘息発症リスクは2倍になる」という結果が報告されています。(Chesct Journal より)
また、21世紀に入ってアメリカで使用量の急増した抗生物質アジスロマイシンは、肥満率の高い地域で多く使用されている傾向があり、その傾向はマウスの実験とも一致するのだそうです。
他にも類似の研究結果は多く存在しています。
..幼少期に免疫の根底が揺さぶられている、いやそもそも正常な構築が疎外されているのがアレルギー問題の真相だと言えます。
ペット犬(猫)が抗生物質にさらされるのはどこか?
ある意味ここからが本題です。
老犬になってアレルギー反応が出始めるのは、昔からある老化の一貫とも言えます。人も動物も、老化で腸内細菌の組成は大きく変わっていくからです。
が、近年の人間やペットの場合、子供のうちからアレルギー反応が出る事例が急増しており、抗生物質濫用の可能性が大いに指摘できます。(人間の場合は幼児期の抗生物質使用量が増え続けているので、すでに証明済みとも言えます)
では、子犬の場合はどこで抗生物質にさらされるのでしょうか? おそらくは繁殖現場、そして出荷〜流通の現場です。
悪質なペットブリーダーの話は多くの方がテレビやネット記事でご存知かと思います。そういう場で、無理やり繁殖させ、無理やり生存させるのであれば、疫病抑止のためにも強制滅菌に近い抗生物質は不可欠だと想像できます。そういう環境で薬漬けになっている可能性は決して低くはないと想像します。
日本の畜産現場は環境が劣悪だとしてよく海外から槍玉に挙げられますが、まさにそれと同じで、畜産のお肉の残留抗生物質が問題になっているのをご存知の方も多いかと思います。
とは言え、ペットの繁殖現場で抗生物質が濫用されているというのはあくまで仮説でしかありません。見ていないので邪推です!
さて、ここで、弊社が実施した一般向けアンケートがあります。
主には、「アレルギー症状の有無」「何歳から症状が出たか?」「ペットの入手経路」この3点を問うたアンケートです。横軸は割合、縦軸が入手経路です。
アレルギーの有無は、出身による違いはあまりありませんでした。
が、子犬期からアレルギーが出ているグループに限ると、ペットショップ出身の犬の割合が高まりました。
ちなみに最も健康だったのは「知人からもらった犬」! この差は一目瞭然で驚きます。
ペットショップもブリーダー経由なので、生まれは同じと考えることもでき、なんだかモヤモヤっとしますね。これ以上は書きませんので、今ある情報から読み取っていただければと思います。
我々ができることは何か?
では、私たちができることは何なのか? それはペットショップで犬や猫を買わないこと。これに尽きます。(せめてメダカくらいにしておこう!)
近年エキゾチックアニマル(※)の密猟/密輸が世界的な問題になっています。もちろんペット用途です。最大市場はアメリカですが、日本も密猟組織の上得意客だという事実に、私たちはそろそろ向き合わなければなりません。
※エキゾチックアニマル:ペット用途における、犬/猫以外の生き物のこと
「人気の動物番組」が保護犬に慈善活動を施したとしても、猛獣と撮影できる施設をポジティブに紹介したり、コツメカワウソを「かわいい!」ともてはやすのであれば、それは現地での密猟に大いに拍車をかけていると断言して間違いありません。
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。