広島県内でバックカントリー(スキー/スノーボード)の聖地として知られるのが深入山。北海道並みに冷え込む八幡高原にもほど近い独立峰で標高は1152m。バックカントリーのコース研究も含め、素晴らしい青空のもと地形空撮を行ってきましたので簡単にレポートします。撮影:2018.2.14 7:20頃
目次
孤高のハゲ山 深入山
強風直撃の高峰
全国の豪雪雪山を知る人にとっては1000mそこそこというのは「ちょっと高い山」程度だと思います。が、1000m級の山が少ない中国山地においては深入山は高山に該当します。日本海経由で大陸から吹き付ける寒波が遮るものもなく、もろに直撃するので、厳冬期などは富士山山頂の「雪が吹き飛ぶ絵」みたいなのが深入山でも展開。その厳しさと秀麗さが比較的至近距離で拝観できるので目を奪われます。
また、どういう理屈かわかりませんがこの界隈はピンポイントでギンギンに冷え込み、ここから数キロ先の八幡高原などは広島なのに−20℃以下をしばしば記録。広島なのにダイヤモンドダストが見られるという、一種異界の様相を呈しています。
山焼きによる原野状態
深入山が人気の理由として、例年行われる山焼きでハゲ山状態が維持される事による登山のしやすさ、滑走の爽快さが挙げられます。野焼き、山焼きというのは、本来は牧草の育成だったり、わらびなどの山菜が取れやすくするため、また害虫の繁殖を防ぐなどの理由で行われてきた歴史があります。が、近年では過疎地の観光イベントとして行われる事が大半で、時に「自然破壊ではないのか!」という批判も出たりします。
そこに住んでいる動植物にとってはたしかに環境破壊ですが、しかし一山程度の火事であれば生態系にとっては必ずしもダメージであるとは言い切れません。というのも原野には原野の生態系があり、例えば野ウサギにとっては成長しきった山林より、下草が適度に茂った程度の原野の方が疾走しやすく、巣穴も作りやすいのか繁殖にも適しているとされます。
同時に見通しの良い原野は猛禽類にとっても狩りがしやすく、増えたウサギは貴重な食料となります。また、ウサギがいればそれを捕食するキツネも集まるわけで、この日もキツネの足跡が雪原に残されていました。
尚、広島県ではイヌワシは姿を消しましたが、クマタカはまだ健在で、繁殖も確認されている一方で繁殖成功率は激減。森林開発が大きな要因と言われていますが、それは宅地開発だったり、増えすぎた人工林の影響であるように思います。
深入山の空撮
寒冷地のドローン撮影
弊社で使っているドローンは動作温度は0度〜40度までで、バッテリーに関しては−10℃まで耐えられる仕様です。理論上は。これまでの実績としては−8℃くらいまでならしっかり作動しているので、−10℃の本日も問題ないと判断し、早速離陸しました。山頂は何℃か知りませんが。
事前にバッテリーと機体を十分に温め、極寒の空へ離陸。万が一不時着してもいいように、スノーシューとザック、トレッキングポールを用意して挑みました。(過去にひどい目にあったことがあるので・・)
山頂まで4分程度
歩いて登れば1時間強の道のりも、ドローンによる直線飛行であればわずかに4分。さっそく山頂上空から滑走エリアを俯瞰します。
絶景なり。
深入山で気をつけなければいけないのは、ハゲ山かつ急勾配ゆえの雪崩の多さ。見ればこの日も雪面に巨大な断層が現れており、えもいわれぬ不気味さを感じさせます。写真だと縮尺がわかりにくいのですが、近くにあるスキーの滑走跡と比べると大きさがよく分かるかと思います。
強風で挙動が危うい そして緊急着陸
山頂は強風です。挙動が怪しく操作もままならない上、バッテリーの消耗も激しく、今回は満足な撮影が行えませんでした。が、ある程度の俯瞰図は動画も含めて収録。今まであまり見られたことがないであろう絵は確保できたように思います。
・・と安心しているとバッテリーが危険水域まで減少し、緊急帰還を促すアラームが! にもかかわらず逆風が強くて速度が出ません。
結果的には帰還は叶わず、どうにか麓の平地まで降りてきたところで不時着。スノーシューを履いて回収に向かった次第です。
バックカントリーについて
バックカントリーは歩いて上がれ
バックカントリーは自ら歩いて上がるのが基本なのだとされます。実際、歩いて上がる過程で地形や雪質、危険な場所などの情報が得られ、事故や道に迷うリスクを大きく減らすことができます。
が、リフトで上がってコース外の原野を走る場合はそうはいかず、特に迷った時の平常心の喪失は深刻な事故に繋がるように思います。よって、もしリフトから原野に降りるのであればそれなりの装備と体力と「だいたい道に迷う」という前提および対策が必要なように思います。
バックカントリー否定論者の宴
昨今、バックカントリーは悪、みたいな風潮があります。登山も同様ですが、事故でレスキュー隊が出動すると、遭難者たちが(ヤフーコメントなどで)バッシングされる風景は日常と化しました。
なぜ被害者が罵られるのかと考えたところ、山をナメた装備で安易に出かけ、人様に迷惑をかけた、世間を騒がせた、という点が問題なのだと思います。が、実際には、それはごく一部で、珍しくかつネタになるからニュースになるわけです。が、全く興味がない人たちがそれを見て、全く興味がないから「けしからん!」と怒っているのが実態のように思います。(救助された後の態度や風貌炎上することも多い)
昨今の日本の風潮で問題なのは安全至上主義という価値観です。「◯◯したらどうするんだ!」「◯◯になったら責任取れるのか!?」みたいな正論がまかりとおっており、リスクをとって失敗した人を袋叩きにして溜飲を下げるという末期症状のような実情があります。実際にはそういう「袋叩き仕事人」たちはごくごく一部で、しかしなぜかヤフーなどに熱心にコメントするものだからそれが世論であるかのような錯覚が起きているのが実態です。
社会とはリスクが溢れるものです。優れたリーダー、有能なビジネスパーソンほど、実はリスクマネジメントに秀でており、そのリスク管理のスキルはアウトドアやトレッキング、ウィンタースポーツなど、リスクのある趣味、レジャーから得ていたりします。そのプロセスの初期で、自然をなめて痛い目にあっている人はかなりいるはずで、むしろその経験を糧に優秀なアウトドアマンとして英知を蓄積していっているように思います。逆に自然界のリスクから隔絶されたところにいるビジネスパーソンは、頭は良くてもリアリティにかけており、それらがイニシアチブを取ると物事は誤った方向に進むと私は確信しています。(昨年そういう人たちとたくさん会いました)
人間は、その能力を伸ばし育てていくためには一定のリスク下で揉まれるプロセスが必須であり、そしてそのトレーニング環境は自然界にたくさん存在します。
バックカントリーは素晴らしいもので、それは自然に対する憧憬と愛着、そして畏怖がゴリゴリとDNAに刻まれていく、人間として大変有益な所業です。そのためにも事前に装備など勉強し、知識を集めて現場経験を積んでいくことは必須。その過程で事故が起きそうになったとしたら、それは不幸スレスレですが、スキルアップの学習というラッキーな側面も大いにあります。(そしてリスクには一種の中毒性があり、再びそれを求めて自然界に飛び込むというサイクルが存在する)
遭難者をどうしていくべきか
いくら上級者でも、自然界においては遭難のリスクが常にあります。事前に準備をして、経験を積んで、それでもレスキューが必要になるケースはゼロにはなりません。ではどうすればいいのか?
それはレスキューをビジネス化する事。
あくまで持論ですが、以下の鉄則を元に、レスキューで大いに収益を上げることで過疎地経済を活性化させるのも一案です。
- 遭難者は出るという前提
- レスキュー費用は(利益分を上乗せして)しっかり頂く
- 助けらる時しか助けない
助けた分だけ地元に大金が還元される仕組みができれば過疎地は潤い、富裕層をどんどん呼び込むという選択も生まれます。助ける側、助けられる側、双方が上記項目を共通認識として持っていればヤフーコメントパーソンたちに非難されるいわれはないでしょう。(それでも非難する輩は非難する)
スキー場で事故が起こるとスキー場そのものが非難にさらされる事もあるようですが、それらはマスコミによるミスリードで、そのマスコミの神通力はもはや霞(かすみ)なので、これからの日本人はバンバンリスクをとって、多少怪我をしながらゴリゴリ強くなっていくべきです。
戦前の日本人は強かった。台風や洪水なども含め、自然界に揉まれてリスクをたくさんくぐり抜けてきたから。それでも太刀打ちできない自然に対して畏怖の念を持ち、無常観という心のあり方を育て、”諦念”と共に”足る事”を知って謹んできた長い歴史があります。リスクを恐れて河岸を全てコンクリートで固め、身の回りをすべて滅菌して自然界から隔絶された今の日本は二流国だというのが私の持論です。(マスメディアとワイドショー/タレントコメンテーターの功罪)
尚、アウトドアグッズはモンベルがおススメです。理念が素晴らしい上、私は何度も助けられました。
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。