広島でバックカントリーと言えばこの山。深入山のトレッキング&滑走を行ってきましたので簡単にレポートしたいと思います。
目次
深入山に登る
パウキチさんの聖地
深入山は登山初心者にも優しく、ここで登山デビューする人もいるようです。春や秋などは老若男女が多く集まり散策を楽しんでいる山。ふもとには温泉があり、しかしツキノワグマも普通に出没するという、人間界と自然界の入り混じる緩衝地帯のような場所でもあります。
そんなセラピースポットも、冬場になると豪雪が人の侵入を阻み、一切の無人状態となります。一部の人たちを除いて・・。
雪が降ると仕事を休んでまで(?)集まってくるパウダークレイジーな人々、パウキチさんたちにとってはここは聖地。豪雪をかき分けて登攀し、そこからハゲ山にラインを刻む無上の喜びこそが生きる証と感じる人が、この世には確実に存在します。
そんな愛しの深入山は、しかし先週(2018.2.14)ドローン撮影した時点で既に雪面に巨大な亀裂が生じていました。ハゲ山だから少しの気温上昇で雪崩が起きやすいのです。
そして今回、別件で通りがかったところ南面が激しく崩落しており、今シーズンは既に終了の容貌が露呈。これはまずいと思い急遽登山に踏み切った次第です。
最短距離から登る
登山ルートはいくつかありますが、今回は山頂をまっすぐ目指すせっかちで急勾配のルートを選びます。
雪はすでに脆く、一歩一歩は重いもの。愛用しているスノーシューは面積が大きいタイプなので、平地では浮力が稼げますが急な登りでは適性が下がります。それをカバーするのがトレッキングポールの役目で、雪上の四足歩行によって人類も快適に雪山を移動する事が可能になります。
トレッキングポールの使い方は杖と同じだと思いがちですが、実はただの杖にあらず。正しく使うと特に上り坂で強力な推進力を稼ぎ出します。以前この界隈で開催された100キロウォークに出場した際、省力歩行のためにポールウォークをそれなりに習得したのですが、それらは雪山でも通ずるもの。肘・腰の使い方によって劇的に登坂が楽になります。
亀裂が危うすぎる
一心不乱に登っていると、いつの間にやら標高は高くなり、斜面は急に。と、その角度に耐えきれなくなった雪面が突如崩落しているシーンに出会います。ハゲ山ならではの皮を剥いたような雪崩で、これは巻き込まれたら非常に恐ろしいです。
もろに崩落している場合はむしろわかりやすのですが、急斜面では今から崩落するであろう不気味な亀裂が突如現れるので狼狽します。写真ではわかりづらいですが、この亀裂はポール(120cm)が底に届かないくらい深く、落ちたら最悪です。雪は圧縮されて岩石のようになっているので、落ちている時に雪塊がズレて挟まれたら圧死します。
春に雪が緩んで起こる雪崩と、厳冬期(の終わり)にハゲ山が硬いまま崩れる雪崩は雪質に違いがあるのかもしれません。
上部は強風
デトックスのように汗が滴り落ち、体内は高温に。そしてその頃には山の中腹を超え、気温は下がって風が強くなります。木がない事もあってか、吹き付ける風は容赦無く、ハイシーズンなどは麓からでも雪が吹き飛ばされる絵をしばしば目にすることができます。
中腹からふと西を眺めると、遠くに見えるのは恐羅漢スノーパーク。恐羅漢は深入山より200m近く高いのですが、こうして眺める限りはなだらかで同じくらいの標高に見えます。
恐羅漢の山頂および上級者ゲレンデからも深入山がよく見えるもので、潜在的に親しみを感じているスキーヤー・ボーダーも少なくないように思えます。地元の山と自然に感謝。
そうこうしているうちに山頂が近づきます。このあたりは周辺に何もないので砂漠のような気持ちに。目線も下を見がちで、ふと顔を上げるといつの間にか山頂が迫っているという驚きを何度か繰り返し、ようやく山頂部に到達します。
山頂はハゲ
深入山の山頂はなだらかです。そして常に吹き付ける風によって頭頂部は薄く、雪の減った今回は地肌が露呈していました。上の写真は1週間前の早朝にドローンで撮影したもの。以後暖かい日が続き、今回の山頂は岩石ゴロゴロ。絵としてはあまり美しいものではありませんでした。
山頂からは東面、北面、西面など色々な下山(滑走)コースがあるのですが、今回は登って来る途中である程度状態を把握できた南〜南東面を地味に下ります。
広がる雪面はロマン。パウダーではありませんが、未整備(と言っても先人らの軌跡が多数)の自然非圧雪コースは無上の喜び。自然大好き人間にとっての成功報酬とはこの事。
深入山を滑ってくだる
遮るもののない非圧雪ダウンヒル
上から眺めるとしっかり整備されたゲレンデ同然で、一部のファンが熱狂するのも分かります。一見自然の恵みですが、実際には自治体や関係者が登山者のために地道な整備を繰り返した結果今があり、しかしその自治体(安芸太田町)は広島県でもっとも過疎が進む「もう後がない」状態。グリーンツーリズムで人とお金が集まる仕組みの強化がますます急務となっています。
やはり亀裂が危うい
滑走を開始するも、登る時に見てきた亀裂が頭をよぎり、及び腰の滑走に。ここは数日前に残されたとおぼしき「先人の滑走跡」の近くを滑って安全運転を心がけます。・・が、道は狭まり、亀裂は突如現れます。先人の滑走跡からも明らかに狼狽の様子が伺え・・。
峰の左右は谷。正面は亀裂。仕方なく一度ウォークに切り替え、難所を突破するに至った次第です。
バックカントリーに中毒性はあるか
今回は南〜南東を滑走したわけですが、そこから眺める限り東面は無傷で、斜度も緩いのでまだまだ十分楽しめたであろうと思います。
斜面が緩い面はまだ崩落も起きておらず、中級ゲレンデのような快適な環境。整備されたゲレンデではなかなか出会えない「起伏の多い面」にはいくばくかの中毒性あり。
これがパウダーかつツリーランであった場合、その時の非日常感、スリル感には格別なものがあり、だいたい日本人の1割程度といわれる冒険者DNAの持ち主にとっては強い中毒性を発揮するのは間違いありません。
冒険者DNAの持ち主というのは人類の中に一定数存在するらしく、全体の3〜5%とか、1割〜2割とか色々言われていますが、日本人の場合、だいたい1割くらいという説を耳にしたことがあります。これは私の所見ともだいたい同じで、安定したサラリーマンに満足できず、あえてリスクのある独立/起業に飛び込む「いわゆる馬鹿者」の割合とだいたい同じです。(そのうち大半は死亡するが、一部が大成し、さらに一部が時代を切り開く)
私自身含め、日本において起業・独立している人は能力とか努力とか以上に、気質によるものがもっとも大きく、リスクだったり人がやっていない事に対しては異常に興奮を覚えるようなタイプが非常に多いです。だいたい10人に1人いるかいないかくらい、学校ではクラスでは1,2人くらいいる変わったやつの事。
そういう人間は、学校では問題児として扱われ、日本の高度成長期には窓際に追いやられ、しかし時代が不安定となった21世紀以降は「起業家」として再び光が当たり始めます。振り返ればこの人種は、戦後の混乱期や時代が混乱した幕末などに台頭し、しかしそれ以前の江戸の太平の時代には底辺で忍耐し、さらにその前の戦国時代にはやはりメキメキと台頭してきた歴史があります。
さらに遡ればベーリング海峡を徒歩で超えた人類の祖先、太平洋に漕ぎ出していった一派、さらにはアフリカの大地溝帯からサバンナに踏み出した猿人の最初のグループがそれに相当します。
現在の日本において、電車が全く遅れず、地震が来てもほとんど倒壊せず、新幹線の部品に問題があっても事故につながらないなど、高度な文明を支えているのは「冒険者DNAを持っていない人たち」のおかげです。「安住の徒」である9割の日本人が我が国の文明を高度に維持し、しかしそれが機能しなくなった時、1割程度の「いわゆる馬鹿者」たちが必要とされる瞬間が訪れます。
雪山バックカントリーは、そんな1割程度のマイノリティーにとっての数少ない安息の場ではないかとすら思った次第です。
下山。登山者に出会う
コンディションも劣悪で気候も冴えなかった平日午後、登山者などいるはずもなく、登りも下りも単独での登山となったわけですが、ここにきて何と下山グループと遭遇。年長者1人、若者2人の異色メンバーで、私が突如斜面から登山道に落ちて来たものなので向こうも驚いたかもしれません。
熟練者の話では「まさかこんな日に・・」という時に限って山中で別のグループに遭遇することがあるそうです。向こうも「まさか・・」という顔をするのだとか。
そういう行動様式の人が一定数存在するという分かりやすい事例だと思います。
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。