降雪がぱったり止んで早3週間。春も間近な3月初旬の恐羅漢〜旧羅漢山でバックカントリーを行ってきましたので簡単にレポートします。(※初心者の方は絶対に真似をしないで下さい)
目次
恐羅漢山頂と旧羅漢山
まずは恐羅漢山頂へ
広島県で最も高い山、恐羅漢の山頂はスキー場最上部から歩いて300mくらい。雪が少なくなってきた今の時期は丁寧に圧雪までしてあり容易に到達できます。こうなると情緒も何もなく、ただのゲレンデ同然なのですが、それでもやはりゲレンデとは隔絶された無音状態で空気は引き締まります。
麓からハイクアップして上がるストイックな、本当の意味でのバックカントリーではない一方、ビギナーにとっては導入の手引きともなる非常に貴重な山。初心者が安易に入ってしまうというマイナス要因はあるものの、山を愛する人が増えるという点においてはまこと有益な場所だと勝手に思っています。
熊対策? スノーシューで歩こう
快晴続きの3月初旬ともなるとスノーボード用のシューズでも楽々進めますが、ここはあえてスノーシューとポールでガシガシ歩いて時短に努めます。スノーシュー&ポールの組み合わせは4足歩行のようで体力の消費も少なく、純粋に楽しいので無条件でおススメです。また万一迷ったり悪路に阻まれた際などには機動力(および体力温存)は死活問題なので、安全保障の観点からも必須と言えます。
また、春になるとツキノワグマと遭遇のリスクが少しずつ増えてくるわけですが、遭遇戦となった際にはポールの存在が大いに役に立ちます。
これはポールで熊と戦うという意味でなく、戦闘回避のための威嚇手段として棒状のものが良いのだとか。(試したことはありません…)
ツキノワグマにはオスの子殺しという生態があり、子熊はとにかく大人の雄を怖がる習性があります。棒状のものを振り上げる事でこちらが急に大きく見え、かつ振り上げた棒が雄熊の手と爪を連想させるのではないかと推測されています。同時に大声で怒鳴りつけると驚いて逃げていく(確率が高い)そうです。
恐羅漢山頂に到着
山頂は前回来た時よりも1m近く積雪が減っており、いくばくかの寂寥。春が近づくとどこか寂しさを感じるのは私だけではないはずです。
と、見ればいつのまにか山頂に滑走禁止のロープが。これは旧羅漢山方面および台所原(ゲレンデと反対側の谷)方面への滑走を抑止するためのもののようです。
仕方がないので超えます。
ここだけ見ると「ルールを守らない一部のダメ人間」みたいな話になるのですが、これらの抑止ロープは、何も知らない素人さんが誤って危険な方に滑って遭難する事故を防ぐもの。天候も良好な春先の朝に、下準備を整えて滑るのは自己責任においての自由です。3月にもなると普通に団体の登山者も通る場所なので、ゲレンデの禁止エリア滑走とは趣旨が異なると理解しています。(救助依頼を出した時の数万円〜の請求も覚悟して行くのが大人。そして雪崩に注意)
旧羅漢山方面へ滑走
ここから先は危険区域なわけですが、実際には緩やかな斜面と「すごくちょうどいい間隔」のブナの木立。快適なツリーランエリアがしばらく続きます。とは言え尾根を滑っているので端の方は急激に谷に切れ込んでおり、落ちれば当然危険です。
そしてその場合、誰にも発見されない点こそが初心者が安易に滑走してはいけない大きな理由の一つ。
という事で滑走していくとすぐに平らな杉林に。雪の重みで落ちた枝の散乱がひどく、ボードがガツガツと引っかかって何度も転倒。しかたなくスノーシューへ履き替えます。
杉の木は実は弱く、台風や豪雪で一番に倒れるのが杉なのだそうです。ここでも例に漏れず、折れ過ぎというくらい枝が折れ、木が折れ、台風の後のような様相。雪解けがもう少し遅ければ快適な平地ゾーンだったと思います。
旧羅漢山へ登る
スノーシューに履き終えて立ち上がると、ふとどちらから来たかわからなくなります。前も後ろも同じ風景。太陽も雲に隠れて正確な方向は不明。こういう事はわりと普通にあります。だからこそ地図とコンパスは必要で、念のために方向を確認し、再び進みます。
しばらくすると登りに差し掛かり、ここをハァハァいいながらガシガシと登っていきます。こちらも適度なブナ林で、ツリーランに適したエリア。
そして登る事10分少々。旧羅漢山山頂へ到着です。
時刻は9:30で、恐羅漢山頂入り口から30分くらいの時間でした。ここで非常食として持参した鹿肉の干し肉を試食。非常食なのに普通に消費するあたりはまだ詰めが甘いところです。
山頂から滑走
旧羅漢山から恐羅漢へ
旧羅漢山からはさらに南に滑走し、ぐるっと回って谷底に出る登山道があります。そのルート付近は10年くらい前にボーダーグループが迷って遭難したエリアに繋がる方面ですが、ちょうどこの時、老人男女の登山グループがそのルートで登って来ているのに遭遇しました。
装備して道に沿っていけばお年寄りでも楽しく登れるルート(といっても結構きつい)も、装備なしで無鉄砲に滑っていると(天候が荒れれば)簡単に迷ってしまうという雪山の恐ろしさ。教訓としたいです。
ちなみに南ルートは、今回は時間の都合と雪不足(というかボコボコ)で断念しました。というわけで元来たルートへ引き返します。ブナ林をまあまあ快適に滑走し、杉林を抜け、恐羅漢への斜面をガシガシ登ります。
そして再び恐羅漢山頂へ。そこで先ほどの老人グループらと再会。お弁当タイムだったようなので邪魔せずそのまま尾根に沿って北東に下ります。
恐羅漢山頂から尾根筋コース
山頂から尾根に沿ったコースは無雪期は登山コースとなっており、適度な密度のブナ林が続きます。前回豪雪明けの時には景色が一変していましたが、本日は何事もなく通過。ゲレンデへの接続路をスルーしてひたすら尾根に沿って山林を進みます。
音のない山の尾根を春めいた日差しの中、緩やかに滑走する。この行為に魅せられて人は山に入っていくのだろうと思います。
恐羅漢のトレッキングコース
この辺りの一部は数年前にゲレンデの延長として「トレッキングコース」という名で上級者に解放されましたが、ソロの行方不明者が出たことから昨年閉鎖扱いになりました。(行方不明者はビバークで夜を明かして自力で帰還)
行方不明になる理由としては、コースというよりもただの山林のため、そのまま山奥へと吸い込まれていくリスクがあるから。そういう危険要因があるからこそ事前に準備をし、慎重に乗り越えることで社会を生き抜く訓練となり、滑り終えた際の喜びも倍増します。最悪の事態を何パターンか準備しておき、どこまでならいけるというリスクヘッジの実践と改良の繰り返しがそのままセルフ人材育成に直結すると信じています。
上述のソロの行方不明者はこの地域常連のベテランで、職業は消防局員というタフな人。自力で林道まで出た後、ハイシーズンの山中で夜を明かしています。結果としては捜索隊が出動したわけですが、ご自身で色々想定してリスクヘッジをした結果、自力で麓まで生還したのだと思います。
そんな背景のある恐羅漢周辺エリア。山頂の尾根を東方へ滑り、そこから「トレッキングコースへ復帰」。この日はこの後打ち合わせが入っていたのでそのままゆるゆると林を抜けてオフィシャルコースへと生還した次第です。
スキー場関係者はバックカントリー野郎には(表向きは)厳しいですが、しっかり準備してレベルに応じた場所への入山であれば暖かい眼差しで迎えてくれます(少なくとも恐羅漢では)。
山に入っていると浮世の雑念が吹き飛び、時に物事の本質がよく見え、下界に戻った後に「正しい判断ができる」場合が多いです。いくら高学歴で頭脳明晰でも、自然界から隔絶されたところにあると必ず判断を誤ると私は確信しています。
(河岸を全てコンクリートで固める…、エゾシカ対策で硝酸塩入りの餌をまく…、理念のないビジネスに投資マネーが群がるetc…)
今期の雪山シーズンは予想外に早く終わりを迎えそうです。次はまた9ヶ月後と思うと名残惜しいものです。
※初心者の方は絶対に真似をしないでください。何かあった際、スキー場関係者にとって大打撃となります。最初は上級者との同伴で経験を積み、末長く山と付き合っていく事が人生にとっての幸せ、ひいては国益にも適っていると思います)
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。