犬の血液検査には様々な項目があります。
なかでも、肝臓の数値を示すものはたくさんあり、どれがどういった意味を持つのか…イマイチよく分からないですよね。
この記事では、肝臓の数値の意味やよくある肝臓の病気とその治療方法などを解説しています。
「愛犬の肝臓の数値が基準から外れていました…」
「肝臓が悪いときにはどういった治療をするのですか?」
という飼い主さんは、ぜひ読んでみてください。
目次
犬の肝臓の数値には何があるの?高値、低値の場合
犬の肝臓の数値にはたくさんの項目があります。
そのなかでもGPT(ALT)、GOT(AST)、ALP、γ-GTP(GGT)の4種類は肝酵素と呼ばれて重要な検査項目です。
これらが高値の場合には何かしら病気がある可能性が高いですが、低値の場合には問題にならないことが多いです。
また、他にも肝臓に関連して上下する項目(ビリルビンや総タンパク、アルブミン、血糖値、血液凝固系など…)はたくさんあります。
血液検査では全体像を見ながら判断していくことが重要です。
(※以下でお伝えする血液検査の参照値は、測定機器によって若干の差異があります。)
GPT(ALT)
GPTは肝臓の障害に伴って、肝細胞から放出される酵素です。
今現在起きている肝臓の障害の程度を表す指標として用いられ、数値が高いほど障害の程度も重度となっています。
一方で、「肝機能の指標」ではないので、門脈体循環シャントや肝硬変といったすでに肝細胞の障害が終わっている状態では増加しないとされています。
犬におけるGPTの参照値は、17~78U/L程度です。
GPTが上昇した場合には、
- 急性・慢性肝炎
- 胆管肝炎
- クッシング症候群
- うっ血性心不全
- 腫瘍
- 中毒
- 薬剤(ステロイド、麻酔薬など)の影響
といったことが考えられます。
GOT(AST)
GOTは肝臓以外にも筋肉や腎臓、心臓、小腸などにも広く分布している酵素です。
そのため、肝疾患のモニターとして使用されるだけでなく、骨格筋や心筋障害なども示しています。
犬におけるGOTの参照値は、17~44U/L程度です。
GOTが高値の場合には、
- 急性・慢性肝炎
- 胆管肝炎
- クッシング症候群
- ショック
- うっ血性心不全
- 腫瘍
- 中毒
- 薬剤(ステロイド、麻酔薬など)の影響
- 筋障害
など様々な原因が考えられます。
肝障害の指標としてはGPTの方が特異度が高いです。
筋疾患を疑う場合には、CK、LDHなど他の数値もあわせて判断する必要があります。
ALP(アルカリフォスファターゼ)
ALPは誘導酵素といわれ、何かが生じたときに誘導されて放出される酵素です。
肝臓や胆嚢の障害をそのまま反映する逸脱酵素(GPTやGOT)とは異なります。
ALPは骨からも放出される酵素なので、成長期の若齢動物では高い傾向にあります。
特に1~2か月齢の犬では成犬の2~3倍程度高い値となります。
犬における参照値は、89U/L以下(1歳未満では24~117以下)程度です。
ALPは肝臓以外にも腎臓や骨、腸などいろいろな場所から出されるので、
- 急性・慢性肝炎
- 糖尿病
- クッシング症候群
- 薬剤の投与(ステロイド、フェノバルビタールなど)
- 胆嚢粘液嚢腫
- 若齢
- 骨腫瘍
- 品種による特発性(スコティッシュテリア、シベリアンハスキーなど)
- 食事の影響
といった様々な要因で上昇します。
γ-GTP(GGT)
犬においてγ-GTPは肝臓だけでなく、膵臓や腎臓にも多く含まれています。
犬におけるγ-GTPの参照値は、14U/L以下となっています。
γ-GTPは、
- ステロイド性肝障害
- 胆汁流出障害
- 肝壊死
などで上昇します。
ALPと同様に誘導酵素と呼ばれますが、ALPに比べて検査の感度は低いです。
一方で、薬による影響が少ないため、より胆道系の疾患に特異的な検査項目です。
アンモニア(NH₃)
アンモニアは腸管においてタンパク質が分解されることで生じ、主に肝臓で代謝されたあとに尿として排せつされます。
肝機能が重度に低下している場合や、腸管から肝臓以外に流入する血管がある場合(門脈シャント)に血中のアンモニア濃度は高値となります。
犬におけるアンモニアの参照値は、16~75μg/dLとなっています。
総胆汁酸(TBA)
総胆汁酸は肝機能を評価する検査となります。
アンモニアと同様に、肝機能が低下している場合やシャント血管がある場合に高値となります。
食後に数値があがるため、検査結果の解釈には注意が必要です。
犬におけるγ-GTPの参照値は、食前7.9(食後24.5)μmol/L以下となっています。
診断はエコー検査などをあわせて行う
肝疾患を疑う場合には、経過や症状、血液検査とあわせて、レントゲン検査やエコー検査を行うことが重要です。
特にエコー検査の精度は高く、
- 肝臓全体の状態(辺縁の不整や実質の粗造さ)
- 結節性病変の有無
- 胆のう・胆道系の状態
- 腹水の有無
といったことが迅速に確認できます。
また、他の疾患の除外をするためにも重要で、心臓を含めて網羅的にみて行く必要があります。
診断が難しいときや手術が必要な場合には、CT検査や肝生検を行うときもあります。
肝臓の数値が異常のときの治療方法と予後
肝臓の治療法と予後は病気によって全く異なります。
中毒性の肝障害や急性肝炎などの場合には、静脈内輸液が有用で、肝庇護薬(かんひごやく;肝臓の炎症を抑える薬)を加えながら治療していきます。
原因が分からない場合も多いですが、疑いのある薬物や毒物といった要因を、できる限り除外することが大切です。
肝性脳症(肝機能低下による意識障害)や凝固異常(血が固まりづらくなる状態)などの合併症が認められることもあり、毒素の排せつのため浣腸やラクツロースの投与、ビタミンKや血漿の投与を行う場合もあります。
急性肝炎や中毒の予後は発症時の肝障害の程度によってほぼ決まります。
発症時に重篤な肝障害を呈している場合の予後はあまりよくない傾向があります。
また、そのまま慢性肝炎に移行する症例もあるため注意が必要です。
犬の慢性肝炎の多くは特発性(原因が特定できない)であることが多く、免疫抑制剤の投与と食事療法を中心として、肝臓の炎症を抑えることとなります。
銅の蓄積による慢性肝炎の場合には、キレート薬(体内に蓄積した銅を排せつさせる薬)の投与が必要となります。
腹水や肝性脳症がある場合には、腹腔穿刺での腹水の抜去や利尿剤、ラクツロース等で治療を行います。
一般的に、腹水貯留や肝硬変がみられる症例や肝機能低下がある場合の予後はあまりよくありません。
腫瘍や門脈シャント、胆嚢粘液嚢腫など外科的な治療が必要な場合には、手術により対応します。
このように、肝疾患の種類や状態によって治療法は様々あり、状況に応じた処置が必要となります。
【まとめ】肝臓の数値について
肝臓の数値は、GPTやGOT、ALP、γ-GTPといった肝酵素、総胆汁酸やアンモニアなどを中心に、異常がないかをみていきます。
あわせてエコー検査などの画像検査を行い、診断と治療を行っていきます。
愛犬の肝臓の数値についての理解を深めて、しっかり対策と予防をしましょう!
参考資料
- FUJIFILM 動物医療検査サービス 生化学検査
- 桃井康行,どうぶつ病院臨床検査,ファームプレス,2009
- 辻本元,小山秀一,大草潔,中村篤史,犬の治療ガイド2020,EDWARD Press,2020
獣医学経験者。ペットに関することを、なるべく分かりやすくお伝えしていきたいと思います。