先日購入した表題の書籍。とても秀逸かつ様々な考察を含む良書だったのでご紹介します。
過去に人が熊に襲われた事例と背景、解説がひたすら列記されており、えもいわれぬ胸騒ぎを覚える「一種の啓発本」のような側面があります。前書きを引用すると
「・・被害者総数2,255人の事故を読み解くと、本書のタイトルを『山でクマに襲われる方法』としたいくらいで、ほとんどは襲われるべくして襲われていた」
とあります。読み終えた後、熊鈴を買いに走ったのは言うまでもありません。
Foremaの事務所がある広島は、実は熊が多いです。かつて西中国山地の個体群は数が激減し、環境省が「絶滅のおそれのある地域個体群」に指定しました。それを受けて広島、島根、山口の三県が保護活動を行い、結果として個体数が回復した実績があります。九州では絶滅したとされ、四国では残り推定50頭未満という報告もある中、西中国山地個体群は自然保護の成功例と言えます。
参考1:WWF より引用 http://www.wwf.or.jp/activities/2013/11/1168612.html
日本国土のおよそ半分に生息するクマ。しかし、それぞれの地域により、クマの生息状況や行政の対応など、クマを取り巻く環境は大きく異なります。種としての「ツキノワグマ」は、環境省のレッドリストに指定されていませんが、全国で5つのツキノワグマの地域個体群が「絶滅のおそれがある地域個体群」として記載されています。そのうち4つは、かつて森林開発や害獣駆除などによってツキノワグマの生息数が減少してしまった西日本に集中しています。
参考2:WWF 島根でのフィールドプロジェクト/西中国地域のツキノワグマ について
http://www.wwf.or.jp/activities/2013/11/1169315.html#ys01
1998年~1999年に行なわれた調査では、クマの推定生息頭数(中央値)が約480頭、生息域が5,000平方キロメートルだったのが、2009年~2010年に行なわれた調査では、約870頭、7,700平方キロメートルと回復傾向にあります。
Foremaは「ジビエブームを背景に始まったビジネス」みたいな捉えられ方をする事が多いのですが、実際のスタートは法人設立前の2010年まで遡ります。記録的なナラ枯れの影響から全国で熊出没が相次いだ年です。お腹を空かせて人里に降りてきた親子グマが猟友会に駆逐されるシーンが東北を中心に展開され、それを見た私が「人類と自然界の紛争緩和」について深く考え始めたのがきっかけです(そして熊よりも鹿・猪との紛争の方がさらに苛烈という現実を知った)。
とは言え、野生の熊はクマモンみたいなアットホームな存在ではなく、殴られれば頭蓋骨骨折もあり、爪と犬歯で肉をえぐられ、ナタで反撃すればさらに逆上して殺される事もある、破壊神のような存在です(季節差あり:穏便な時もある一方、出会った時点で逆上している時期もある)。近年事故が増えているのは、都会育ちの人たち(主に退職組)が大量に山に入っているという背景もあるらしく、それを考えると自然界との紛争を回避する最良の手段は「相手を深く知る事」だと気付かされます(生息地の保護と安息は言うまでもありません)。
昨年〜今年も熊出没年にあたり、東北では人身事故が相次いでいます。一方で秋田県の現役のマタギの方に以前伺った話によると「近年は大きな熊がめっきり減っており、昔のような大物はもう何年も見ていない。今後も見ることはないだろう」という事でした。
話が戻りますが、熊鈴はmont-bellでも購入可能です。ガチャガチャ鳴るタイプより、チーンと高音が澄み渡るタイプの方が熊の聴覚に届きやすいとのこと。972円 税別。
https://webshop.montbell.jp/goods/disp.php?product_id=1124340
書籍のご購入は下記から。
「熊が人を襲うとき」 米田 一彦 (著)
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。