弊社事務所前の公園にて

オオカミフォーラムに行ってきました

少し前の話ですが、日本オオカミ協会主催のオオカミフォーラムが広島で開催されたので、講演を聞きに行ってきました。

日本オオカミ協会は、日本にオオカミを再導入しようという研究及び活動を行っている団体。オオカミの再導入は賛否両論ありますが、個人的にはとても興味のある分野です。この論は、賛成派の声を聞けばとても説得力があるように聞こえる一方で、反対派の声を聞くと「ああ、そうか」と感じることもしばしば。実際に話を聞きに行くのが一番だと感じた次第です。

日米独オオカミフォーラム2016

※全然関係無いですが、冒頭の写真は弊社事務所前の公園で撮影した落ち葉。オオカミとは何の関連もありません。山っぽい写真ですが”そこそこ街中”です。

日本オオカミ協会とは?

日本オオカミ協会は一般社団法人で、東京農工大学名誉教授の丸山直樹さんという方が会長をつとめています。

以下、オフィシャルサイトから協会紹介文を引用します。

1993年8月20日、「日本オオカミ協会」は、オオカミに対する誤解と偏見を解いて、その生態を科学的に正しく伝え、世界中のオオカミの保護と復活のために設立されました。
以来、任意団体として18年間にわたって活動してきましたが、2011年4月11日に一般社団法人の登記を行い、このほど新法人に移行しました。
これを機に、「オオカミの復活と、これによる自然生態系の再生保護、農林水産業の振興、獣害事故の防止等」を目指し、より一層、活動に励んでまいります。

日本オオカミ協会とは

すごく略して紹介すると「自然保護の観点、健全な生態系の維持のためにオオカミは必要。だから再導入について本気で考えませんか?」といった活動をしている団体だと私は認識しています。

オオカミというとどうしても危険なものという認識が強く、特に保守的な国民性の我が国においては「オオカミ再導入」は一種の暴論のような響きがあります。事実反対派も結構いるようで、検索すればアンチオオカミ協会みたいな人たちの記事がいくつかヒットします。

とはいえ、協会の主張は素人目線だとなかなか説得力があるように聞こえ、あとはその情報ソースの信ぴょう性、結局のところ運営する人たちの信頼性が重要なのでは無いかと思っています。

という背景もあり、自分の目と耳で日本オオカミ協会のフォーラムを体感してきた次第です。

イエローストーン国立公園の事例

イエローストーン国立公園

By Karthikc123 – , CC 表示-継承 3.0, Link

今回のフォーラムでは、海外におけるオオカミ復活の事例と、それによって自然や生態系の姿がどのように変わったかという実例が、現場の研究者や関係者らによって報告されました。

中でも有名なのはイエローストーン国立公園の事例。これについてはForemaのブログでも過去に記載しました。

さらに、オオカミにとって変わっていたコヨーテがオオカミに捕食され、コヨーテの餌となっていた小型哺乳類(ネズミやジリスなど)が復活。するとこれらを捕食するキツネやアナグマ、猛禽類の立場が向上します。

しばらくすると、川辺が豊かになったせいかビーバーの個体数が大幅に増加。ビーバーダムによって従来の魚類や両生類にとって好ましい環境が整ったとされます。

オオカミは獲物の死骸を埋めないので、その他の肉食動物が残骸のおこぼれにあずかれるようになったのだとか。また大型鹿のエルクが減った一方で、中型の草食動物であるブロングホーンが増加。これはコヨーテ減少の影響と考えられるそうです。

オオカミ復活の事例 イエローストーン

※余談ながら今回のフォーラムによると、オオカミは180万年前にコヨーテから分かれたのだそうです。

他にもアメリカの別のエリアの事例、ポーランドやイタリア方面からオオカミが戻ってきたドイツの事例などを挙げながら、オオカミ復活前と後の自然の状態を写真やデータで詳しく紹介しており、なかなか説得力がありました。

オオカミフォーラムで得た知識

今回のフォーラムでは、今まで知らなかった情報も多く得られ、とても新鮮に感じた部分がありました。

以下、いくつかご紹介。

人間の狩猟とオオカミの狩猟は異なる

「オオカミがいなくても人間が狩りをすればいいじゃないか」という意見がありますが、それに対して以下のような解説がありました。

人間の狩猟とオオカミの狩猟は異なる。人間には掃除屋の役割は無い。 立派な個体しか取らないから。オオカミは弱い個体から狙う。そして弱った個体は疫病を持つ。それらを捕食する事で疫病の蔓延を防ぐ役割がある。また、人間は同じ場所、同じ季節でしか狩猟を行わない。その意味でも生態系において周囲に与える影響はオオカミと人間とでは比較にならない。

というもの。

自然界にはスカベンジャー(掃除屋)という役割があり、地味ながらも非常に重要な役割を果たしています。例えばハゲワシですが、この忌み嫌われる動物が人類の影響で数が激減した結果、疫病が蔓延したという実例があります。

ハゲワシ
By Photo made by User:Sebastian Wallroth, パブリック・ドメイン, Link

本来であればハゲワシが綺麗に平らげていた大型動物の死骸が、食べられずにそのまま放置され、腐肉に病原体が増殖。さらには害虫が大発生して感染症の蔓延につながります。ハゲワシの胃酸は病原体を無害化できるほど強力で、彼らが短時間に大量に死骸を処理する事で炭疽病や狂犬病などの感染症の蔓延を防いでいるといいます。

例えばインドの事例ですが、インドでは大半の人が牛肉を食べないので、昔から家畜の牛が死ぬと野外に放置されてきました。それらを片付けるのはハゲワシの役目でしたが、このハゲワシが激減した結果、牛の死骸が放置されっぱなしになり、それらを餌とする野犬が多く増える事に。結果、狂犬病が蔓延し、インド社会に大打撃を与えたそうです。

以下、ナショナルジオグラフィックより引用。

ライバル(ハゲワシのこと)がいなくなった事で野犬が繁殖し、11年間に700万頭増えて2,900万頭に達した。人間が犬に噛まれる被害も推定3,850万件増加。狂犬病による死者は5万人近く増え、それによりインド社会が被った経済損失は約4兆円にのぼる。

ナショナルジオグラフィック2016年1月号

話をオオカミに戻しますが、報告者のスティーブ・ブラウン氏によれば、オオカミにおいても、頂点の捕食者という役割以外にスカベンジャーの役割を大きく担っているとのことでした。

人身事故はほとんどない

オオカミによる世界中の人身事故は、116年間で23事故。うち18は旅行会社が観光客に餌付けをさせようとしたなどの愚行が原因だそうです。実際には統計に出ない数値も多いとは思いますが、それでも一般人が想像する数字よりも実際にははるかに少ないようです。

これはホホジロザメと同じような構図で、日本にいると「海外では年間何十人も食べられている」ようなイメージを勝手に想像してしまいますが、実際にはホホジロザメによる人身事故は我々が考えるよりもずっと少ないそう(※)。というか、日本全域はホホジロザメの生息域で、海外よりも日本人そのものがホホジロザメの当事者だったりします。

※ホホジロザメが実際に人間を殺した記録は過去100年間に74件だけ(国際鮫被害記録)。

最近の研究によると、カリフォルニア州沿岸でサーファーがホホジロザメに襲われる確率は1700万回に1回となっている。泳ぐ人が襲われる確率はさらに少なく、7億3800万回に1回しかない。

ナショナルジオグラフィック 2016年7月号 “有名だけど、謎だらけ ホホジロザメ”より

ホホジロザメについては、2000年4月号でも特集がされており、これが非常に興味深いです。ジョーズの原作者も登場。
200004
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/bn/200004.shtml

ドイツより日本の方が森が多い

日本の森
緑豊かな日本の森。これは広島県の安芸太田町の山林。人工林の杉が多いのは問題。

東欧経由で野生のオオカミが戻ってきたドイツですが、日本と違って大半が平地で、人が住んでいないところがほとんど無いそうです。日本は狭いからオオカミは無理だ、との意見が多いですが、実際には「むしろ日本の方が森が多い」のだそうです。

ちなみにドイツのオオカミは1800年代後半に絶滅するも、2000年に入ってポーランド方面から1グループが戻ってきた経緯があります。これはEUの法律の影響(※)が大きかったのではないかとのこと。

2016年の時点で56グループ。イタリア地方から戻ってきたグループもあるそうです。当フォーラムにはドイツ人研究者も参加しており、日本の反対派の声よりは説得力がありそうです。

※自然と野生生物の保護に関する協定 の事だと思われます。

欧州でも人身事故はほとんどない

欧州でのオオカミによる人身事故は69年で9件。そのうち4件は狂犬病によるもので、残り5件は人が餌をあげようとしたため。逆に言うと狂犬病の抑制がオオカミの人身事故抑制につながるという事なのかもしれません。

なお、狂犬病は私たちが子供の頃は割と身近にあったもので、定期的に飼い犬の予防接種があったのを思い出します。

広くても狭くてもそれなりに適応

オオカミの生息には広い面積が必要と言われていますが、実際にはかなり適応の幅が広いそうです。具体的には1グループで25平米〜1000平米と、実に40倍の開きがあります。オオカミは環境適応能力が高く、北国から比較的南方(北緯18度で南限)まで、また山奥から海辺・島嶼部まで実に幅広く生息しています。このあたりもホホジロザメと共通していて興味深いです。

海辺で暮らすオオカミについてはナショナルジオグラフィック 2015年10月号で特集あり。

下記はWeb版。
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/magazine/15/091800009/092100005/

ニホンオオカミとタイリクオオカミ

小型だったニホンオオカミの代わりに別種で大型のタイリクオオカミを導入して大丈夫か?という意見があります。私も気になります。これに対し、DNA分析の結果、ニホンオオカミもハイイロオオカミと同種であることが確認されたとのこと。岐阜大学応用生物学部の石黒直隆教授のDNA分析で明らかになったそうです。

これについては日本オオカミ協会のページにも掲載がありました。
http://japan-wolf.org/content/2013/04/22/オオカミ移入種説にピリオド:ハイイロオオカミ/

朝日新聞デジタルにも掲載があったようです。
http://www.huffingtonpost.jp/2014/09/04/japanese-wolf_n_5763558.html

個人的な所見

極力中立を保つよう努力しながら客観的に話を聞いて感じたのは、「再導入すればいいのでは?」ということ。

日本では何をやるにしても反対派や良識派が立ちふさがり、

・管理できるのか?
・事故が起こったらどうすんだ!
・責任取れるのか?

というような論になります。「○○したらどうすんだ!」 と。こういう声はオオカミに限らず、何をやるにしても、何年議論してもなくなりません。であれば一部の行政を巻き込んで再導入特区のようなものを設置してさっさと実例を積み上げていくのも手では無いかと思います。

変化においては恐怖症のような過敏な反応が多数をしめる堅実な国民性が、これまでの日本を着実に発展させてきた一方で、何かを変えよう、修正しようとしてもなかなか上手くいかないという負の側面が現在の日本を追い詰めているように感じることが日々多くあります。IT業界の片隅に身をおいていると、日本人のスピード感の遅さ、変化を嫌う気風は凄まじく、今の時代においては明らかに足かせとなっており、国力を削いでいるように思います。

安全の検証は必要ですが、机上の1000日は現場の1日にも劣ると私は考えています。すでに海外で実例が多く出ているのであれば、オオカミ再導入もどんどん実施し、トライアンドエラーの繰り返しで問題点は改善していけば済むだけの話のように思えてなりません。猪や鹿の駆除に数百億円を費やすよりもよほど健全だろうと感じた次第です。

人間主体の視点でみるか、自然界の一員としての視点でみるかによって結論は異なります。私は後者の視点を支持したい。

「頂点の捕食者が消滅すると生態系に大混乱が起こる」

これは現代の生物学会では常識なのだそうです。この言葉が今の日本の生態系の全てを物語っているのではないかと思います。

 

※追記

この記事について、別の角度から続きを書きました。↓↓

オオカミ再導入について、少し意見が変わったという話

3 thoughts on “オオカミフォーラムに行ってきました”

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