犬の腸内細菌 Vol.6 バクテロイデス フラジリス

最終更新日:
公開日:2021/09/29

犬のマイクロバイオーム/腸内細菌について語るシリーズ。今回はヒトやマウスの研究では有名どころとも言える細菌「バクテロイデス フラジリス」。犬の腸内からも時々検出されます。

※当記事は関連文献および、自社での16S rRNA解析事例を元に執筆しています

写真:public health image library

なんで有名になった? バクテロイデス フラジリスという腸内細菌

T細胞のコントロールと炎症の抑制

バクテロイデス門というグループは、人の腸内では最大勢力であることも多く、犬においては2番目の勢力である事が多いです。

そんなバクテロイデス門の中の細菌の一つ「バクテロイデス フラジリス」は、人間の腸の中では頻繁に目撃される一方で、犬の腸内においてはそんなに目立つ存在ではありません。

この細菌が注目される理由の一つとして、どうやら炎症を抑制する作用があるらしいという点があります。最近の表面にあるPSA(ポリサッカライドA)が作用しているのだそうです。

「バクテロイデス フラジリス」は、犬の腸内では野菜や穀物を食事に多く取り入れている個体でしばしば見られますが、その場合でもバクテロイデス門の中での比率はそんなに高くはありません。

自閉症を抑制する?

もう一つ有名なのが、「バクテロイデス フラジリス」の増加によって自閉症特有の行動が減ったという研究によるもの。おそらくは炎症が抑制されたことによる副次的な作用と思われます。

また、炎症の抑制によって、自閉症に関与している他の細菌が抑制されたたという可能性も指摘できそうです。

自閉症の子供の腸内で多く検出される細菌については複数の種類が特定されており、それらが原因なのか結果なのかは断定が難しいのですが、ともあれ、要因そのものに何らかの作用を及ぼしたのでしょう。

不安を和らげるとの説

自閉症と関連するのですが、「バクテロイデス フラジリス」など、炎症を抑制する細菌のいくつかは、不安を和らげ、メンタルケアにつながるとされています。これまで脳内で作られると考えられていたセロトニンなどの幸せホルモンは、8割以上が腸で作られる事がわかってきており、そのプロセスに腸内細菌が深く関わっています。そんな中の一つに、バクテロイデス フラジリスという存在があります。

尚、腸内細菌のケアでメンタルを整える領域を、サイコバイオティクスといいます。

メリットだけなのか? バクテロイデス フラジリスの別の側面とは?

感染症の一因にもなりうる

バクテロイデス フラジリスは薬剤耐性を持つ上、感染症の原因にもなります。この細菌に限った事ではないのですが、単独で増えすぎたり、居場所を間違えたりすると突如有害な存在になったりします。世の中では「善玉菌」「悪玉菌」といった単純なパターン化が浸透していますが、多くの細菌には複数の顔がある事を知っておいた方がよいでしょう。

片方で優良だった存在が、時と場合によって深刻な疾患に関与していたりします。自閉症の流れで言うと、例えば宿主にとって有益な酪酸を産出するラクノスピラ科の細菌が、同時にプロピオン酸を産出する事で一部が自閉症の発症に関与しているらしいという報告もあります。(プロピオン酸そのものも本来は有益な代謝物)

必ずしも不安を和らげるだけではない?

分離不安の傾向がある犬の腸内で、バクテロイデス フラジリスが大幅に増えている事例がありました。元々お腹の調子も良くない個体で、バクテロイデス門内における多様性も低く、全体的なバランスも一般的な組成からは逸脱しており、少なくとも腸内は健全な状況ではありませんでした。

この場合、「バクテロイデス フラジリス」の増えすぎが分離不安と何か関係があるのか、全くの別件かはその後を追ってみないとわかりませんが、少なくとも不安を和らげるという効能はいきていなかったようです。

もちろん、分離不安という判定自体が飼い主さんや獣医さんの誤認という可能性もあるのですが…

誤認ついでに書くと、「鬱の犬」の腸内から、自閉症に関連する腸内細菌が複数検出された事例もありました。この場合、自閉症の行動様式を鬱と誤認したとも言えますが、鬱と自閉症には明確な境界線がないという表現も可能かもしれません。発達障害も同様です。

私なども幼少期から発達障害の傾向が強かったのですが、自閉症に関連するとされるサテレラ属やデスルフォビブリオ属の細菌を、いまでも比較的多めに保有しています。

犬のメンタルの不安定さ、行動障害は、腸内細菌を調べてあげるのがようように思います。もちろん人間も。ケアの選択肢はきっと増えます。

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