漠然と「アメリカ産のお肉=肥育ホルモン」とか「危ない人工飼料..」、そんな不安をお持ちの方も多いはず。その表現が正しいかどうかは別として、アメリカの畜産業界は薬剤や資料に対しての規制が緩いという実情があります。
そうした背景を元に、ここでは人工飼料と抗生物質について触れてみたいと思います。
目次
人工飼料とは何か? それは悪いこと?
牛は本来、トウモロコシを食べない
家畜である時点で、飼料は人工と考えて良いでしょう。問題は、それがどこから来たか。何が含まれているか、という点ではないかと思います。
牛の場合、本来の飼料は牧草ですが、実際にはとうもろこしを原料とした飼料が多かったりします。ここで牛はとうもろこしを食べるよう進化していないという背景は重要です。ルーメン(牛の第一胃)における急速な発酵は良いものではなく、牛の健康とルーメン細菌/腸内細菌への影響、ひいては全身への大きな影響があると考えられます。
英国に端を発したかの狂牛病は、飼料の肉骨粉が原因でしたが、元の食性を無視した飼料という点においては、(あくまで観念的なものですが..)とうもろこしも同じ軌道上にあると評せます。
人工飼料に含まれる抗生物質
家畜の飼料には、微量の抗生物質が含まれている事が知られています。これは感染症の治療という理由での使用ではなく、「なぜか成長が早く、大きくなる」から。
家畜飼料への抗生物質の配合は日本でも行われており、基準値はアメリカよりは厳しく、欧州よりは緩いというもの。欧州では家畜飼料への抗生物質天下は禁止となっており、それを過剰という声もありますが、ともあれ欧と米の違いが出ている興味深い事象だと言えます。
抗生物質が成長を促す?
抗生物質が発見されたのは1920年代のお話ですが、製剤として量産され世に登場したのは1940年代の事。抗生物質の投与が家畜の成長を促すことは、アメリカの研究者たちの間では比較的早い段階でから知られていましたが、理由はよくわかっていませんでした。
一方で近年の研究によって「細菌類との戦いが有利になることで、本来そこに費やされていたエネルギーが成長に使われるようになった」という説が浮上しています。
もちろんそれは家畜だけのお話ではありません。
日本人の体格が良くなった
第二次大戦以降、日本人の背がどんどん伸びているのはご存知かと思います。これは、「正座をしていた文化」から、「椅子と机を使う欧米式の生活様式」に切り替わったからという説が有力でした。
その側面は当然あるでしょう。
ところが、生活が欧米式に切り替わった後の70年代と比べても、現在の平均身長は伸びており、女性のバストサイズもどんどん大きくなっているのだそうです。
先進国全般で見られる
これは日本だけでなく先進国共通の事象で、栄養価が高くなった事が主因と考えられています。一方で飽食の時代になって以降も数値が伸び続けているため、別の事情があるのではないかとの仮説で研究をした学者がいます。
結果、仮説通り「抗生物質の投与と成長に相関関係あり」という研究結果が出ています。具体的には、生後まもない段階での「抗生物質投与群」の方が、体格や成長の伸びが早く大きかったというもの。
マウスでの実験および、人間の追跡調査で明らかになっています。
細菌が減る事でエネルギーが節約できた可能性
その研究者は、抗生物質投与で成長が早まった理由として、体内の細菌たちの存在を指摘しています。幼少期は、良い細菌、悪い細菌ともどもまとめて体に取り込み、それらは淘汰を繰り返しながら体内免疫系とのやりとりを経てマイクロバイオーム(体内の微生物生態系)が組成されていきます。
この時、抗生物質の投与によって宿主に不利な細菌群が制圧されてしまうことで、本来これらと戦うことに費やされていたエネルギーが”節約”でき、その分を成長に回すことができるという仮説が成立しています。
これだけ聞くと良い話なのですが、抗生物質は悪い細菌だけでなく、良い細菌もまとめて滅ぼしてしまいます。
細菌の制圧は決して良い事ではない
腸内細菌の異変
人々の体格が良くなっていくのに合わせて、自己免疫疾患の増加も報告されています。長い間、自己免疫疾患の増加の理由は不明とされていました。
一方で、近年の研究においては抗生物質の使用、そして腸内細菌の異変/バランス崩壊が大きな要因である点が非常に多くの論文で指摘されています。
善玉/悪玉という概念の欠陥
また、良い細菌、悪い細菌という安直な仕分けも概念として大きな欠陥を含みます。例えばいわゆる悪玉菌たちが、必ずしも絶対悪とは限らない事例が多く存在します(その逆もまたしかり)。
例えば胃がんの原因として絶対悪のようなピロリ菌は、実際に悪制度が高いのは一部の株であり、しかもリスク要因になるのは中年以降の話です。逆に幼少期にピロリ菌が不在の子供は小児喘息の罹患率が高いという研究結果があります。
また、絶対正義のようなビフィズス菌は暴走によって腸粘膜のムチンを過剰に消費したり、また乳酸菌群は、過剰な増加によって一部の自己免疫疾患に関与している事例があります。
体格はよくなるが、マイクロバイオーム の組成にダメージ
上記をまとめると、抗生物質の投与で家畜も、人間の子供たちも体格的な成長が加速しますが、体内のマイクロバイオームの組成に問題が起きるリスクが上昇し、結果として内側の成長(というか健康)に問題が起こるという構図です。
家畜においては、とうの昔にこの問題にさらされていたと見て良いのかもしれません。
残留抗生物質はあるか?
人工飼料に含まれる抗生物質(=微量)が、実際にどの程度食肉に残留するのかは分かりません。(量的には検出されるものではないと考えられます)
一方の治療用途の構成物質使用においては一定期間の残留があるため、厚生労働省では抗生物質の残留基準値が厳しく設定されています。もちろん日本国内でのルールです。米豪加(アメリカ・オーストラリア・カナダ)のお肉の基準はもっとゆるい可能性があります。
ファミレスのメニューで、下の方に小さくお肉の産地が書いてある事があるのですが、米豪加ばかりの印象があります。(近年は全くファミレスで食事をしないので違っていたらご指摘ください)
これは米豪加のお肉を使うファミレスがけしからん、という意味ではなく、ただ「安さ」の背景には事情があるという事です。
地球環境をぶっ壊してまで育成している大型哺乳類たちを格安で食べるという行動様式は地雷そのものだと感じています。
抗生物質汚染について
自然界に溶け出す抗生物質
家畜の人工飼料に抗生物質が含まれること、また感染予防などで過剰に投与される抗生物質は、お肉とは全く別のところにも問題を生じさせます。それが抗生物質汚染です。
家畜に使用された抗生物質はやがて排泄物として流れ、水系に流出し自然界に溶け込みます。
抗生物質はそこにある細菌類を制圧するわけですが、その中に一定数、抵抗力があって生き残ってしまう細菌が存在します(薬剤耐性)。
生き残った薬剤耐性株はその抵抗力を維持したまま増殖するため、抗生物質の効きにくい細菌が自然界で一定数誕生している可能性があります。
通常はマイノリティ故にすぐに在野の細菌群に制圧されますが、そうならない場合もあると考えておくべきでしょう。

株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。
