ニホンアナグマ

ニホンアナグマの駆除は乱獲か

以前「アナグマの駆除数急増が懸念されている」というような記事を書きました。このままでは個体数が激減し、近いうちに絶滅危惧種になる可能性が高そうだ、と専門家が指摘しています。

乱獲かもしれない..ニホンアナグマの駆除について

特に鹿児島県では過去10年強で駆除数が43倍にも増えており、個体群にとって強烈な駆除圧になっている模様。科学界の権威であるネイチャー紙でもこの件について、先出の専門家の論文が紹介され、静かに、しかし着実にザワザワし始めているようです。

とは言え、まだまだ分からない事が多いとの事。なのでいろんな地域の現場の方からアナグマについての情報を集めてみました。

(冒頭写真:By Alpsdake, CC 表示-継承 4.0, Link )

アナグマ被害と駆除についての現場での聞き取り

すごく大雑把ではありますが、九州エリアの狩猟関係者からの聞き取りです。市区町村の中でもあくまで一つのエリアをピンポイントに聞き取っただけなので、そのエリア全てというわけではありませんが、全体の大まかな傾向をやんわり掴めればと思っています。

福岡県の場合

添田町の人工林
添田町の人工林。英彦山のふもとを通って日田に抜ける途中のエリア。

南東部エリア-田川郡

まず最初に話を聞いたのは福岡県南東部の田川郡。英彦山をのぞむのどかな農山村エリアです。ここでは害獣駆除も管轄している役場の農林振興課の方に伺いましたが、この地域では農林関係者の間でもアナグマ被害の話はあまり聞かないらしく、むしろアライグマの被害が深刻とのこと。

アライグマはかつてのラスカルブームでペットとして飼われていたものが逃げ出し、野生化したもの。東京や大阪などの都心でひっそりと生息している例もありますが、都市部から近い近郊から郊外で活路を見出して繁殖しているケースが増えています。

その流れか九州でも大都市のある福岡県での被害が顕著です。それがじわじわと南下し、現在は大牟田あたりでも被害が増えているのだそうです。

福岡県南西部-糸島エリア

福岡といっても佐賀県境に近い糸島エリアの熟練猟師さんにお話を伺いました。山岳も急峻でもともと猪の勢力が強い地域。福岡市からは比較的近いながらも自然が豊かな土地柄。アナグマは時々罠にかかるらしく、秋のピークの頃は週に1,2匹くらい入る事もあるそうです。

特にアナグマを積極的に駆除しているわけではなく、小動物用の罠に時々かかっている程度との事。これまでの猟師生活で出荷した事もないそうで、少なくとも駆除圧にはなってなさそうです。

福岡県全体ではどうか?

福岡県全体の農作物被害額を俯瞰したところ、アナグマという項目自体がなく、「その他」に分類されているようです。代わりに目立ったのがやはりアライグマ。

アライグマの被害額は平成20年から激しく増減を繰り返していますが、全体として増えている様子。被害額の内訳が野菜から果物へ大きくシフトしており、これが防護策の恩恵なのか、単に統計の撮り方や分類が変わっただけなのかは不明。

アライグマの被害額-福岡県(単位:千円)
年度H20H21H22H23H24H25H26H27H28
被害額2,2965,8857,74213,0557,0485,5968,06010,5417,214
被害
(野菜)
05,5745,8147,2234,6214511,5917,1012,605
被害
(果物)
2,2962917794,7021,2924,0005,2472,2034,337
被害
(その他)
省略

宮崎県の場合

宮崎県児湯郡-西米良村

宮崎県は児湯郡の西米良村の方から情報を頂きました。このあたりは野生動物の宝庫らしく、猪王国の九州にしては珍しく鹿が特に多い土地柄なのだそうです。当然農作物被害も多いのですが、アナグマ自体は滅多に見ないそう。被害もないので駆除していないという話でした。

そもそもアナグマは穴に潜っているので、いたとしても滅多に見ないものなのかもしれません。逆に人口が少ないので被害が少ない、もしくは勢力図的に他の野生動物の方が優位、という可能性もあります。

このあたりは、その地域が何の野菜(もしくは果実)を育てているかによっても違うのだと思われます。

宮崎県全体では?

宮崎県全体でのデータも見当たらなかったのですが、延岡市にアナグマのデータがあったのでサンプルとして拝借。

被害額は27年度で320千円
これは猪に比べてもわずか4.5%、鹿との比較でも2.9%、それどころかトビと比べても13%(8分の1程度)と、害獣被害全体のごく一部と見て良さそうです。

また、市の資料には下記のようなコメントもありました。

アナグマに関しては、猟友会各支部の協力のもと、有害鳥獣捕獲班を編成して、被害農地周辺で箱わなによる捕獲を行っている。また、捕獲獣は殺処分のうえ焼却や埋設の処置をしている。
被害の相談はあるが、箱わなに限りがあり、対応しきれていない。

一方、アライグマについての言及もあったため、あわせてご紹介。

アライグマに関しては、地域住民からの目撃情報や痕跡調査等を基に、現地確認やセンサーカメラ等による生息状況調査を実施している。
地域住民からの目撃情報の中には、アナグマやタヌキ等、他の小動物と混在している事例がみられる。

長崎県の事例

県の南央部-諫早市

猪がとても元気な長崎県は、諫早市の猟師さんに情報を頂きました。海と山の距離が近いこのエリアは今年も猪がよく育っており、個体数も多く体格も良いそうです。そんな中、アナグマは時々罠にかかっているのだとか。

なぜ罠にかかるかというと農作物被害が出ているから。「良くわからないが狸か何かが畑を荒らしている」という事で農家から対策依頼が出され、小型動物用の罠を仕掛けてみるとアナグマがかかっていた、という事がしばしばあるそうです。実際にアナグマがあらしたかどうかはあくまで状況証拠で判断するしかないのですが、タヌキではなくアナグマが罠にかかっているのだからそう判断するしかないのだと思われます。

こちらでも過去に出荷していた事はなく、食べられずに廃棄処分される事が多かったため不定期で出荷を試みているところです。

尚、野菜の他にも特に柿を良く荒らす事が多く、それに対しての駆除依頼もあるようなお話でした。アライグマについては見かけないそうで、北部の方で「出るという話は聞く」との事でした。

長崎県全体ではどうか?

長崎においてもアナグマのデータは少なかったのですが、直近のものがあったのでご紹介。併せてアライグマの数値も。

農作物被害額 長崎県(単位:千円)
年度H27H28
アナグマ6,79412,399
アライグマ4782,472

アナグマの駆除数自体は不明なのですが、被害は大きく増えているようです。個体数が増えたからなのか、単に分類方法が変わったのかは不明。個体がいてしばしば荒らしているという猟師さんの証言と一致します。アライグマについてはまだ少ないようで、こちらも概ね証言と合致。

大分県の事例

九重町の山林
大分県南部、九重町の山林。北部とは明らかに山の相が異なる。

水と自然に恵まれた日田市

日田杉と日田天領水で知られる、自然と人がうまく折り合いをつけている地域。北部は鹿、南部は猪とそれぞれ個体数が豊富でよく肥えた野性事情。お話を伺ったのは南部の熊本県強に近い山間部で、アナグマはいるみたいですが特に被害とか駆除とかいう話にはなっていないようです。

大分は全国でも特に杉や檜の人工林が多いのですが、日田南部では広葉樹の自然林やクヌギ(大量のどんぐりをつける/椎茸の原木として活用)の人工林も多く、食料が大変豊富で猪にとってとても住みやすいようです。一方、林業主体だとアナグマの活動が被害につながらない(=駆除対象にならない)という背景があるのかもしれません。(日田市全体でのアナグマデータは無し)

温泉と野焼きで知られる玖珠郡九重町

お話を伺ったのは温泉も近い九重町の猟師さん。このあたりは阿蘇山にも比較的近く、山以外に何もない日本昔話のような土地柄。昔から山焼きが行われていた事もあり、常に野山が原野のような姿。これは生態系的にも昔ながらの日本の里山に近い状態で、野ウサギの生育に適した環境(草の背が低く見通しが良いので疾走しやすい)。

人里近くで暮らすアナグマにとってもおそらくは快適だと思われますが、事実多く生息しているという話でした。アナグマに限らず、鹿も猪も良く肥えており、とにかく人よりも野生動物の方が圧倒的に多いのだとか。

この猟師さんは昔から猟をやってきた熟練者ですが、高齢のため現在は罠猟のみ。週に1,2度鹿や猪などの対応をするペース。特にアナグマを積極的にとっているという事もなく、かかれば捕獲して食用に解体するという昔ながらの猟。数も多くいるという事なので、個体減とは無縁のように思えます。

大分県全体ではどうか?

ここまで見た限りでは大分でも平穏なようですが、県全体のデータをみるとそうでもなさそうです。被害額も乱高下していますが、特筆すべきは駆除数。平成22年〜28年で駆除数が激増しています。特に平成23年から27年の間だと駆除数が123.6倍に。

こ、これは一体何が起こったのか????

害獣対策の政策の影響か、単に統計の’あや’か? しかし大量に駆除した割には被害額の低下は緩やかで、どこかの数値に誤りがあるか、もしくはこれまで表面化(申請)していなかった数値が現れただけ、という可能性もあります。

大分県で実際に話を聞いたのは2箇所だけなので断定できませんが、市区町村ごとに駆除数の内訳を洗っていくと真相が見えてくるのかもしれません。

農作物被害額 大分県 (単位:千円)
年度H22年H23年H24年H25年H26年H27年H28年
アナグマ3,5148,9925,63111,34110.9887,5658,749
アライグマ30607688791,0565721,772
駆除数 大分県 (単位:千円)
年度H22年H23年H24年H25年H26年H27年H28年
アナグマ36221162831,2642,7912,519
アライグマ022953157259

島根県浜田市の事例

島根県の浜田誌奥部にて。
島根県の浜田誌奥部にて。

九州ではないですが、島根県は浜田市の奥部の事例です。浜田市は日本海が素晴らしい地域ですが、大合併で中国山地の最奥近くまでが”市内”となっており、そんな奥部で猟師さんにお話を伺いました。

このあたりはアナグマは普通におり、しばしば遭遇するので狩りの途中であれば捕獲する事もあるそうです。この猟師さんは犬追い猟なので専ら猟犬が活躍するのだとか。で、アナグマに限らず、ツキノワグマにも普通に遭遇しますし、もちろん猪もとても優良な個体がゴロゴロいるというお話でした。鹿はこの頃出没し始めた様子で、とにかく自然の力が強い地域。

私が訪問した時なども大きめの猛禽類がすぐ近く(5mくらい横)に急降下して何かを仕留めていましたし、少し向こうの方では中型猛禽類(トビではないもっと小回りがきくやつ)が小鳥を追って低空で凄まじいドッグファイトを繰り広げていました。

つまり人間が出る幕ではなく、自然の力が圧倒的でした。ちなみにこのあたりのアナグマはやはり柿の実をよく食べるらしく、晩秋になると柿の恩恵でとてもよく太って抜群に美味しいのだそうです。

鹿児島県の事例

西部の海沿い 阿久根市

最後に、ネイチャー誌の論文でも指摘のあった鹿児島県は、西部の海岸に面した阿久根市の猟師さんに伺いました。ここは昔からアナグマを捕獲しているらしく、要望があれば出荷も可能というスタンス。もともとよくとれるのだそうですが、農作物被害(ボンタン?)があるので駆除依頼があり、小型の罠で捕獲するという一般的なながれ。よくとれるといっても毎日わなにかかるというものでもなく、やはり週に1,2度くらい。

で、アナグマ乱獲の背景として、ジビエ人気が原因ではないか?という仮説もあるのですが、こちらの猟師さんにおいても、積極的に捕獲や出荷をしているわけでもなく、需要があるなら出せる、くらいのスタンス。ただ、他のエリアと異なるのは、廃棄せず自家消費している点。赤酒で煮ると臭みも取れて非常に美味しいのだそうです。

このお話を聞く限りでは、この地においては乱獲の様子はなく、伝統的(?)にアナグマの生息が多い、という土地なのだろうと解釈しています。

鹿児島県全体の数値

鹿児島県全体のアナグマについてのオフィシャル数値は下記の通り。平成19年に比べても被害が大きく増えています。

アナグマの数値 鹿児島県 (単位:千円)
年度H19年H24年H25年H26年H27年H28年
被害額3,74116,29313,3029,61911,49912,952

一方の駆除数ですが、オフィシャルの数値が見当たりません。ハフポストに投稿されたネイチャージャパンのブログによれば、2016年度の駆除数は4,354頭で、平成5年度の100頭に比べると43倍の増加。そしてこの数値が「乱獲ではないのか?」と問題視されている所以です。

ただし、平成5年のデータは古すぎるのと、オフィシャル数値なのかどうなのかは不明という側面もあります。とはいえ、駆除数は増えており、そして被害も増えているのが現状です。

逆にいえばこれだけ駆除しても被害が減っていない(=個体がたくさんいる?)という、大分県と同じ構図が見えます。

当然ここでも虚偽申請の可能性は考慮する必要があるように思えます。以下は産経新聞からの引用。

イノシシ1頭を別の場所や角度で撮影して捕獲数を水増しするといった手口が多く、鹿児島県霧島市は30日、うその報告が252件あったと発表した。確認の甘さを突く不正がまだ潜んでいる恐れがあるとみて、農林水産省は全国一斉の実態調査に乗り出した。

駆除の鳥獣水増し 報酬の不正取得相次ぐ 仕留めた1頭の写真、角度を変えて複数に見せかけ

http://www.sankei.com/west/news/170530/wst1705300063-n1.html

現時点での大まかなまとめ

島根県の阿佐山
島根県の阿佐山。山頂付近は樹氷が見事。

以上の話から、ニホンアナグマは、いるところには昔からいるし、いないところにはそんなにいないという、どうもはっきりしない様子。

駆除数が激増した地域でも農作物被害が減っていないという現状があり、まずは駆除数の根拠を改めて精査する必要があるように思えます。

一方で、アナグマの出産数が変化している可能性も考慮するべきかもしれません。ニホンアナグマは一度の出産で2〜4頭を生むそうですが、詳しい研究者によれば実際には1〜2頭なのだとか。

これが温暖化だったり食料事情の変化から特定の地域でMaxの4頭に増えていたと仮定すれば個体数が激増したとしても不思議ではありません。(昨今の鹿や猪のように)

猪においては豊かな地域では春と秋に2回出産する個体もいるという”伝説(※)”もあるように、人間のしらない部分がまだある可能性も否定できません。もちろん気候の変化によって野生動物の生態が変化している可能性も大きいでしょう。

結局のところ、ニホンアナグマにおいては細部のデータが足りていないというのが引き続いての実情だと言えます。

最後に、気になるのはやはりアライグマの存在。固有種であるニホンアナグマと侵略的外来種であるアライグマの関係性や力関係は一体どういったものなのか? アライグマが進出してきた時、ニホンアナグマの生態にどのような影響を与えるのか?

個体群にとっては人間の駆除も脅威に違いはありませんが、むしろ生態系の枠組みの激変の方が、水面下で進行するだけにより深刻なようにも思えます。

侵略的外来種 アライグマの駆除と生態系について考える

この記事を読んだ人にオススメしたい商品

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です