アライグマ

侵略的外来種 アライグマの駆除と生態系について考える

最終更新日:
公開日:2018/02/08

愛くるしい表情と仕草で可愛らしい存在として知られるアライグマ。が、近年は野生化した個体が繁殖し、農作物被害が増えるなどの問題が顕著になっています。

本来愛すべき存在として持ち込まれたこの動物の、過去と今について書きたいと思います。

冒頭写真:© Hans Hillewaert / , ウィキメディア・コモンズ経由で

アライグマとは何者か?

北米原産のタヌキ?

アライグマは北米産の生き物で、もともと国内にはいなかった外来種。ぱっと見はタヌキに似ており雑食性でなんでも食べる点も類似。タヌキの仲間みたいな物のように思えますが、アライグマ科という別種。タヌキはイヌ科で、またタヌキに近いアナグマはイタチ科。それぞれ進化の収斂(しゅうれん)によって違うルーツのものが同じような形態に収まっている事例のように思います。

環境省の資料によれば、1962年の動物園飼育個体逃亡が最初の(認知されている)野生化例らしく、以後ペットブームを経て多くのアライグマが国内の野に放たれ現在に至っています。国内にはアライグマとカニクイアライグマの二種(共に外来種)が存在するのだそうです。

侵略的外来種

外来種の中には在来の固有種を駆逐し、既存の生態系に大きな負荷を与える種が存在します。それらは侵略的外来種(環境省用語では特定外来種)と呼ばれ、もとからあった生態系を激変させてしまう驚異的な存在として一般外来種と区別されています。アライグマなどはまさにこの侵略的外来種に該当し、農作物被害だけではなく、在来種への”見えない影響”こそが本当の問題だとも言っていいでしょう。

環境省が定める特定外来種は哺乳類だけでも25種存在し、有名なところではヌートリアやマングース、そしてヤギなど。ヤギは中国共産党が強奪を目論んでいる尖閣諸島で大繁殖しており、すごくわかりやすい環境負荷を展開しています。

哺乳類以外ではヨーロッパアカミミガメやカミツキガメ、ウチダザリガニなどがよく知られています。

ウチダザリガニ
侵略的外来種という言葉があります。 これは外来種の中でも、特に生態系への影響の大きいものをワースト100とし、日本生態学界がそれらを定めています

ペットブームの負の遺産

アライグマが国内に多く存在するのは70年代にヒットした「あらいぐまラスカル」によるペットブームが原因とされています。大量に輸入されたアライグマが都市部を中心にペットショップで販売され、手先が器用なためにカゴから逃げた、または凶暴な性格が災い(幸い?)して捨てられたなどして野生化しました。それらの中で環境に適応した個体が生き残り、いまでは何世代も繁殖して生態系に溶け込んでいるようです。

侵略的外来種の問題を突き詰めていくと必ずペット産業にたどり着くわけで、もちろん業界の責任(そんなものが存在するのか??)は重大ですが、ブームに流されやすい国民性、言わば民度の指標が侵略的外来種という形になって具現化しているとも評せます。

近年では温暖化の影響もあってか生息域をどんどん広げており、これまで存在していなかった地域での目撃例が相次いでいます。

農作物被害について

猟師さんや役場の農林関係者に聞いた話や、行政で公表されているデータを大まかにまとめ、傾向を考えてみました。話を聞ける対象が中国地方と九州に偏っているため西日本だけです。

全国での数値や分布

アライグマ分布図
アライグマ分布図。環境省の資料より。平成25年2月時点。

https://www.env.go.jp/nature/intro/4document/files/r_araiguma_kyusyu.pdf

福岡県の事例

九州では福岡においてアライグマの被害が深刻かつ増加傾向にあります。県発表のオフィシャルの数値が以下。

年度(平成)被害額(千円)
20年2296(野菜/果実=0/2296)
21年5885(5574/291)
22年7742(5814/779)
23年13055(7223/4702)
24年7048(4621/1292)
25年5596(451/4000)
26年8060(1591/5247)
27年10541(7101/2203)
28年7214(2605/4337)

野菜の被害が減っているように見える一方で果物は増加傾向にあるようですが、かなり乱高下しており、統計の取り方によるアヤの可能性があるのかもしれません。とは言え現場の猟師さんたちは「アライグマは増えている」と感じているようです。話を聞いた限りでは、山岳部より、平野部の過疎地に多い印象があります。

例えば浮嶽のある糸島市(山がち)の猟師さんは「アライグマはおるけど滅多にかからん」という一方、農業地帯の添田町では狩猟関係者が「アナグマよりアライグマの被害が深刻」と断言します。

また、農作物被害を見ても、それがタヌキかアナグマかアライグマかの違いが熟練者以外にはわかりにくいという問題もあるのかもしれません。

長崎県の事例

長崎で直接話を聞いた中部エリアでは、今の所アライグマは見たことが無いそうですが、「北部では出始めたというのは聞いている」とのことで、福岡エリアの個体群が少しずつ南下しているように見えます。

数値としてはごく近年の農作物被害額が件のオフィシャルデータとして公開されています。

年度(平成)アナグマ(千円)アライグマ(千円)
27年6,794478
28年12,3992,472

直接話を聞けたのは諫早市の熟練猟師さんのみですが、数値としては激増路線を辿っていると見て間違いなさそうです。

鹿児島県の事例

鹿児島北西部の猟師さんにお話をうかがったところ、まだアライグマは見ないとの事。県のオフィシャルデータにもアライグマの被害額についての数値が見当たりませんでした。

が、実際には目撃例が出始めている様子。

鹿児島県庁: 注意!県内で特定外来生物アライグマが確認されました

また、動物園から逃げ出したという古典的な事例もあったとの事。

 本日朝8時30分頃、脱出したアライグマを発見し、9時30分頃無事に捕獲しましたので報告します。朝、見回りをしていた職員がアライグマ舎そばの雪の上に足跡を確認し、数人で付近を捜索したところ、近くの樹上にいるのを発見しました。直ちに周囲を取り囲み、捕獲しました。命に別状はありません。

引用:平川動物公園

無事に見つかり、「保護されてよかったね」と一件落着する、本来であれば愛すべきアライグマ。これが野生化して生態系に溶け込んだ結果、全力で駆除される対象に変わり果てる不条理が滲み・・これはなかかな切ないです。

大分県の事例

大分県のアラグマ分布図
大分県のアラグマ分布図。大分県オフィシャルサイトより。(温泉県のデザインがすごいことになっている・・)

図は大分県HPより http://www.pref.oita.jp/soshiki/13070/araiguma.html

大分県の日田市南部(山がち)で猟師さんに聞いた話では、アライグマはまだ見ないということでしたが、すでに日田を含む大分県内での目撃例が増えています。

 県自然保護推進室によると、2016年度に県内で確認されたアライグマは314匹。14年度に比べて3倍以上に増えた。当初、多かった大分市は市独自の対策効果もあって、40~50匹台で横ばい。県北西部で急増し、16年度は中津市で144匹、日田市で110匹が捕獲された。隣接する宇佐、玖珠、九重の3市町でも生息が確認されている。

引用:大分合同新聞

被害額と駆除数については、以前アナグマの記事でも記載しましたが、以下の数値が県の資料で公表されています。

農作物被害額 大分県 (単位:千円)
年度H22年H23年H24年H25年H26年H27年H28年
アナグマ3,5148,9925,63111,34110.9887,5658,749
アライグマ30607688791,0565721,772
駆除数 大分県 (単位:千円)
年度H22年H23年H24年H25年H26年H27年H28年
アナグマ36221162831,2642,7912,519
アライグマ022953157259

わかりやすいくらい増えていますね。

ニホンアナグマ
以前「アナグマの駆除数急増が懸念されている」というような記事を書きました。このままでは個体数が激減し、近いうちに絶滅危惧種になる可能性が高そうだ、と専

以前も書きましたが、アライグマが増えた結果、既存の類似生物との競合がどうなるのかという点が非常に気になります。アナグマとタヌキは進化の収斂(しゅうれん)の結果、同じような所におさまって共存と住み分けのバランスを維持しているわけですが、そこに新たに競合生物が登場した時、何が起こるのか?

普通に考えれば食料の奪い合いと領土紛争が勃発するわけですが、外来種が入って来る事で在来種が淘汰される例は実はごく少数で、大半の事例では生物多様性が以前よりも高まっていると指摘する声もあります。(Ken Thompson, Chris D. Thomas, Fred Pearce etc..)

全体をまとめると・・

熊本エリアの山地
九重から熊本方面に抜ける山地から阿蘇市街地を望む。地表50mくらいから撮影。

今回は九州だけですが、全体をまとめると当然ながらアライグマは増えているようです。しかも近年急激に。これは外的要因としては温暖化があげられますが、内的要因としては、これまで認知されていなかったアライグマの存在および被害がようやく表面化し、統計に現れ始めたという事だと言えそうです。

アメリカの事例では、コヨーテ駆除によってアライグマが増えた結果、鳥の巣がことごとく襲われて「森からさえずりが消えた」という報告があります。

学者がそれに気づいたのは、すでに鳥が消えて何年も経ってから。おそらくは同じことが日本でも進行していると思われます。農作物被害が目に見えてわかりやすいのでそちらばかりが注目されますが、生態系の崩壊は水面下で進んでいるであろう点、そしてそれを調査する機関や団体が少ない(と言うか存在するのか??)という点が問題の本質ではないでしょうか?

過疎地の行政は(協力隊などで)外部人材を呼び込む際に、森林保護官や生態系研究者のような職種/ポジションを用意すべきだと強く感じます。

この記事を読んだ人にオススメしたい商品

愛犬、愛猫の腸内フローラ検査
ここまで分かる! 愛犬 愛猫の腸内細菌解析

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です