フソバクテリア門

犬と猫のフソバクテリア門とは何か?

最終更新日:
公開日:2022/10/18

腸内細菌の1つの勢力として「フソバクテリア門(Fusobacteriota)」というグループが存在します。この頃少しずつ問い合わせが増えてきたため、犬や猫にとっての「フソバクテリア門」について概要を書きます。

※当記事は関連文献および、自社ラボでの犬/猫の腸内細菌解析事例(16S rRNA解析)を元に執筆しています

※フソバクテリア門は、現在はフソバクテリオータ門が正式な名称です。

犬や猫にとってフソバクテリア門は有害か

有害な側面が多いが、人間の場合ほどではない

結論から書くと、「フソバクテリア門」というグループは犬や猫にとってもそれなりに有害な存在です。ただし、人間が多く保有している場合と比べると、犬や猫の場合はある程度共存ができているようで、許容の幅が広い傾向があります。

一方で、世の中には「フソバクテリア門」を善玉菌のように紹介している事例もありますが、完全にミスリードです。「フソバクテリア門」は炎症で減少する事が多く、炎症による消化器トラブルの個体では枯渇する場合があります。この場合、炎症の鎮静/消化器トラブルの回復とともに「フソバクテリア門」も増加しますが、これは健康に寄与しているわけではありません。(バロメーターのような側面はある)

また、メトロニダゾール(フラジール)などの抗生物質で減少することから、過剰な投薬を受けてきた疾患個体においても「フソバクテリア門」が減っているという事例が多くあります。これは「フソバクテリア門」が減ったから疾患に至ったのではなく、投薬のダメージを体現しているに過ぎません。因果関係を見誤ると解釈が真逆になるので注意が必要です。

関連記事:犬と猫のフソバクテリア門は増やせるか?

フソバクテリア門の中にも多数の種類が存在する

人間にとっては有害性の目立つ「フソバクテリア門」ですが、ひとことで「フソバクテリア門」といっても、グループ内には多くの種類の細菌が存在します。

「フソバクテリア門」グループの中で何を保有しているのか? 何が増えると有害なのか? など、実は状況によって異なります。「フソバクテリア門」という大きな枠でとらえるのではなく、科や属といった、もっと小さな属性で捉える事で真相が見えやすくなります。

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そもそもフソバクテリア門とは?

Fusobacterium

腸内の主要な常在メンバー

順序が前後しますが、そもそも「フソバクテリア門」って何だ? というところを書きます。

「フソバクテリア門」は、人間や犬、猫の腸内で主要な細菌グループの1つです。腸内で主要なのは下記。(門というのは目や科よりもさらに大きな分類)

  • バシロータ門(Bacillota:旧ファーミキューテス門)
  • バクテロイドータ門(Bacteroidota:旧バクテロイデス門)
  • シュードモナドータ門(Pseudomonadota:旧プロテオバクテリア門)
  • アクチノマイセトータ門(Actinomycetota:旧アクチノバクテリア門)
  • フソバクテリオータ門(Fusobacteriota:旧フソバクテリア門)

このうち、「フソバクテリア門」は通常は4,5番目くらいの勢力に位置します。健康な犬や猫の場合、通常は4〜6%くらいですが個体差が大きく、上限10%くらいまでであれば不具合には至らない場合が多いです。

犬や猫の腸内で主要なF. mortiferum

人や犬、猫の腸内で検出される「フソバクテリア門」グループの内、大半は「F. mortiferum」(フソバクテリウム モルティフェルム)という細菌です。

この細菌は、実は何をしているのかよく分かっていません。と言うより、何もしていないように見える事が多く、そういう場合おそらくは宿主とうまく共存しているのだと考えて良さそうです。

しいていえば、近縁の「F.nucleatum」(フソバクテリウム ヌクレアタム)の増減と相関するとか、上述のように腸内の炎症が進行すると姿を消すといった挙動がある他、一部の株はサルモネラ菌を抑制する成分を出す、一部のIBD(炎症性腸疾患)で大幅に増えているパターンが存在する、過剰な増加で食糞に影響する、一定の条件下で生食との関連が見える、などの事例があります。

口腔内感染症とF. nucleatum

ぼんやりしてよく分からない「F. mortiferum」(F.モルティフェルム)に対し、上で触れた「F. nucleatum」(F.ヌクレアタム)は非常に重要な存在です。

この細菌は歯周病など口腔内感染症の原因となり、非常に問題のある種として知られています。さらに近年の研究では口腔だけでなく全身の疾患に関与している事が分かってきました。

悪性腫瘍との関連が報告されている

F.nucleatum」(F.ヌクレアタム)の悪名が高いのは、歯周病に加え、結腸癌に関与している事が報告されたという点も挙げられます。初期の腫瘍からこの細菌が検出され、癌の進行とともにこの細菌も増加していく事が確認されています。さらにはアルツハイマー病への関与の可能性も複数報告されており、無視できない存在です。

上記は人間の事例ですが、健康課題のある犬や猫の腸内からも「F. nucleatum」(F.ヌクレアタム)が検出される事例はしばしば見られます。このとき、先出の「F. mortiferum」(F. モルティフェルム)も便乗するかのように増加する傾向があります。(※細菌たちは近縁種同士で徒党を組んで増加する)

その他、上記以外にも「レプトトリキア属」や「シュードレプトトリキア属」といったグループが、「フソバクテリア門」の細菌として、健康課題のある犬猫の腸内でしばしば検出されます。

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フソバクテリア門が有害な事例

歯周病など口腔内感染症

上述した内容と重複しますが、「F. nucleatum」(F.ヌクレアタム)は歯周病などの口腔内感染症を引き起こします。他にも「F. necrophorum」(フソバクテリウム ネクロフォーラム)や「F. hwasookii」(フソバクテリウム ファソキー)といった「フソバクテリア門」の細菌たちが、口腔内感染症に関与している事が報告されています。

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炎症性腸疾患への関与 1

IBD(炎症性腸疾患)の1つであるUC(潰瘍性大腸炎)の一因として「Fusobacterium  varium」(フソバクテリウム バリウム)の存在が指摘されています。

この細菌は酪酸を産生することから、宿主にとって有益な「酪酸産生菌」の一種と報告する文献もありましたが、その後の研究でこの細菌の生み出す酪酸は例外的に有害な事が分かってきています。マウスの研究では腸内で炎症性サイトカインの増加を誘発し、潰瘍性大腸炎のような症状を引き起こした事が報告されています。(F.バリウムを抑制すると症状はおさまった)

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炎症性腸疾患への関与 2

記事前半で登場した、何をしているかよく分からない「F. mortiferum」(F.モルティフェルム)が、犬の腸内で全体の30〜40%くらいまで増えている事例はしばしば見られます。これらの個体はひどい皮膚トラブルや慢性の下痢といった不具合を抱えており、「IBD疑い」と診断される傾向があります。

ただし、「F.mortiferum」(F.モルティフェルム)に限らず、単一の種が全体の30%以上というのは明らかに異常で、これがどの細菌種であっても不具合が噴出するのはほぼ間違いありません。

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フソバクテリア門は減らせるか?

プレバイオティクスによる抑制

あくまで一般論になりますが、全粒粉(玄米など)や食物繊維の豊富な食事で「フソバクテリア門」は抑制が期待できます。(それを示唆する研究報告が存在します)

これは、表面的にはプレバイオティクスなどの食物繊維が「フソバクテリア門」を抑制したように見えますが、順序としてはプレバイオティクスによって腸内多様性が向上し、結果として「フソバクテリア門」に対する淘汰圧につながったと考えられます。

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10%を切るくらいであれば問題は無さそう

色々と書いたので恐ろしく感じられますが、犬や猫の腸内においては、「フソバクテリア門」は10%を切っているくらいであれば大きな問題は無いと考えて良さそうです。

ただし、腸内細菌はグループ単体を見るのではなく、他のグループとの関連も踏まえて全体で判断する必要があります。腸内で主要な「バシロータ門(ファーミキューテス門)」や「バクテロイドータ門(バクテロイデス門)」のバランスが健全である事が最重要項目であり、それに対して「フソバクテリア門」がどういう状況なのか? という視点で判断する目が求められます。

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1 thoughts on “犬と猫のフソバクテリア門とは何か?”

  1. こんにちは。フソバクテリア門はあまりよいイメージがないかもしれませんが、これを見ると、アトピーの犬には欠けていて、バクテロイデス門よりも少なく存在しているのが正常なように見えます。
    細菌について、もっと色々わかるようになるとよいなと思っています。
    https://research-er.jp/articles/view/122998

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