愛犬に鹿肉を与える大きな理由の一つとしてアレルギー対策が挙げられます。多くの食材を試し、最終的に鹿肉にたどり着いたというケースは少なくありません。
では、特にアレルギー症状のない健康なペット犬にとって、鹿肉はどんな意味合いがあるのでしょうか? ここでは自然界における鹿の立ち位置という観点から、ペット犬と鹿肉について記載します。
目次
野生の犬にとって、鹿は主食である
鹿はどこにでもいる重要な捕食対象
イヌ科の分布はとても広いです。中でもオオカミは寒冷地から赤道直下まで、非常に広い分布を見せます。
鹿も同様に広く分布する生き物。そしてあらゆる地域で頂点捕食者に捕食されています。生態系の中において、鹿は”被”捕食者として非常に重要なポジションにいると理解できます。(ただしアフリカにはいない)
分布域が重なる限り、イヌたちは鹿を狩ってきました。いや、厳密には鹿の分布に対して捕食者が追いかけて広がっていったと見るのが自然でしょう。
鹿肉で得られる栄養分
人間目線だと、鹿肉は「高タンパク低カロリー」の優良食材とされています(※後述)
ただし自然界においては、超点捕食者たちは鹿のお肉だけを消費しているわけではありません。オオカミの場合、ワピチ(=アメリカアカシカ)などの大型草食動物を仕留めた際にアルファと呼ばれるリーダーが最初に内臓を食い破るケースが多いそうです。
レバーから先に食べるという説もありますが、鹿や牛などの反芻(はんすう)動物が獲物の場合は「第一の胃袋」から平らげるのだそうです。おそらく時と場合によるのでしょう..。
反芻動物は胃袋が4つあるとされていますが、我々と同じ胃袋の機能を果たすのは第四の小さな胃袋。一方、一番大きなのは第一の胃袋で、ここが食べた植物を分解する工場。ビタミンB12をはじめとする有益な成分や酵素、細菌類、そして細菌類によって消化・代謝された有益タンパク質が多量に存在します。(ビタミンB12も細菌類によって産生される)
オオカミに限らずトラなどの肉食の大型捕食者は内臓を切に求めており、これらを摂取する事で肉食一本でもやっていけるというわけです。
雑食性の進んだイエイヌの場合は、他の食料からある程度植物性の成分を得る事ができますが、オオカミやトラなどにとっては鹿の内臓は必須の食材と言えます。(※アフリカには鹿が不在のため、ライオンの場合は鹿ではなくインパラやスイギュウなどのウシ科)
犬は内臓類を食べるべきか?
自然界における生食環境であれば、リスクも含め、清濁合わせ飲む形で内臓類を食べていくわけですが、ペット犬においては加熱を前提で考えるのが妥当の様に思えます。
ただ、加熱してしまうと消化酵素や細菌類(プロバイオティクス)は壊れてしまうため、食料としての本来の機能は損なわれてしまうとも言えます。
よって熱心な愛犬家の中には勉強し、慎重かつ大胆に内臓の生食を導入している人たちも存在します。
- 内容:グリーントライプ 100g x 3
- 種類:ホンシュウジカ / キュウシュウジカ / エゾシカ
- 産地:西日本/九州各県/四国各県/長野県/北海道
- 部位:鹿の第1〜第3の胃
野生の犬は鹿肉以外も食べるか?
野生の犬は馬も襲う
イヌ科は馬も襲います。ただし、優先順としては鹿が先です。明治の初頭に明治政府がエゾシカを大量に狩り、さらに明治12年の大雪でエゾシカが大量死(※)した事でエゾオオカミの飢餓が深刻になりました。結果、捕食対象が馬産地の仔馬にシフトし、そのうち母馬までもが狩りの対象となり始めた事が記録に残されています。(現在の日高エリアの話)
結果としてエゾオオカミに対しての毒殺が始まり、駆除に対しての高額報奨金も相まってエゾオオカミの絶滅に直結していきます。
※明治期の激減以後、北海道ではエゾシカが保護対象となり、その間に鹿を捕食するアイヌ文化も衰退。100年少々の時を経てエゾシカが大増殖しています。
野生の犬は牛も襲う
明治初期、すでに馬産地として発展し始めていた北海道では馬の被害が中心でしたが、肉牛育成に着手していた岩手エリアでは、オオカミ/野犬被害は牛たちへ。最初は比較的小柄な和牛、やがて大柄な洋種の牛へとシフトしていきました。
時代は流れ、オオカミ再導入の先駆けとなったイエローストーン国立公園においてはオオカミが順調に増え続け、いまや公園外へも生息を広げ、隣接する牧場の羊、やがて仔牛にも牙を向き始めています。
自然界でのオオカミはバイソンなどの大型の牛も襲いますが、基本的には子供を狙います。大人の個体は成功率は低く、時に返り討ちにあってオオカミ側が死ぬことも。牛そのものがハイリスクな相手なのは間違いありません。
私がオオカミなら鹿を選びます。
野生の犬は猪も襲う
イノシシとイヌはライバルのような間柄だと言えます。猪猟では猟犬は大いに活躍しますが、時に猪に撃退され、怪我をすることもしばしば。それでも猟犬は猪に対して大いに挑み、褒美として猪の生肉を与えられる事も多いそうです。
猪肉を食べている犬の体格は立派で、分かる人には「見ただけで分かる」のだとか。(島根県の狩猟関係者談)
また、賢さにおいても猪は犬に追随します。犬の知能は人間の子供の5歳くらいとされていますが、近年の研究で猪の知能も人間の子供の5歳くらいだと報告されています。
ちなみに、オオカミと書いたりイヌ(犬)と書いたりするのは、一つにはオオカミとイエイヌが同じイヌ科で、かつ亜種の間柄だから。
が、もう一つ。国内の文献などでオオカミ被害として届けられているものの多くが、どうやら野犬の様だという実情があります。
残された絵や証言、描写がオオカミの習性とはかけ離れているものも多く、また当時の人たち(江戸期〜明治初頭)にとってはオオカミか野犬かという事は対して重要でなかったのだと思われます。
岩手でオオカミに懸賞金がかけられた際、意気揚々と役場に持ち込んだところ、役人に「オオカミとイヌの区別もつかんのか!」と猟師さんたちが追い返されたという記録も残っています。
また、オオカミとは別にヤマイヌという種が存在したという説を唱える研究者もいます。オオカミ、ヤマイヌ、野犬、この3種が混在していたのが日本の山林だったのだという論です。
鹿は捕食対象として魅力的だった
そんなわけで(??)、イヌもオオカミも主には鹿などを捕食してきた生態系の歴史があり、その意味では鹿肉というのは自然な選択なのだと思います。
鹿は基本的にはイヌよりも足が速いので逃げ切れるのですが、子供だったり弱っていたりする個体が長時間の追跡に耐えきれず脱落し、捕食されていくのが自然界のルールで、ここに運動と捕食という、黄金の健康モデルが成立します。
- 内容:500gパック x 2
- 種類:ホンシュウジカ / キュウシュウジカ / エゾシカ
- 産地:西日本/九州各県/四国各県/長野県/北海道
- 部位:切り落とし混合
高タンパク低カロリーについて
さて、鹿肉が栄養面で優れいている事は、愛犬家の方であればご存知かもしれません。
では、それは鹿肉に限った事なのでしょうか? 実は案外そうでもなく、馬肉でも似た様な数値を出しますし、豚の祖先である猪でも、鹿ほどはなくても優良な数値が出ています。この場合の比較対象は牛肉および豚肉です。
他の生き物との違いは何か? それは家畜であるかどうか。この点に尽きる様に思います。
家畜のデメリット
人間が美味しい様に品種改良されている
美味しいかどうか、高く売れるかどうかに主眼が置かれてきたのが家畜。健康にとってどうか、捕食者の腸内細菌に与える影響はどうかなどを主眼に開発された家畜はおそらく皆無ではないでしょうか?
美食家が、時にでっぷり肥えているように、良いお肉が必ずしも健康に良いとはいえないのは公然の秘密。
ストレス環境かつ丸々と太らされた家畜のお肉の数値が「高タンパク低カロリー」になりうるべくもなく、鹿と家畜の違いは「生息環境の違い」という点も非常に大きい様に思います。
抗生物質や肥育ホルモン、劣悪環境とストレス
家畜は管理されています。成長や病気など、完全に人のコントロール下に置く事で安定した品質を維持しています。コントロールは薬剤の恩恵でもあります。そうした薬剤は安全基準の内側で使用されているもののはずですが、いつの世も「安全基準」そのものは決して完璧ではない事に留意しておく必要がありそうです。
特に安い牛肉はほぼアメリカかオージー、一部カナダで、各国ともに畜産への薬物の基準は欧州よりも緩いです。
馬肉に関しては、国産の場合は本来食用でないので同じ家畜でも牛肉に比べるとクリーンなのではないかと思います。(競走馬用途だった個体が市場に流通する。競走馬の育成後の注射などについてはよくわかりません)
一方、馬刺用のお肉には中国経由で大量に粗悪品が入っているという話もあり、それらが熊本圏内の業者を経由する事で「熊本発」(国産とは書いていない)などのキャッチコピーで出回っていたりします。
中国はそれなりに規模の大きな馬産地らしいのですが、格安の馬肉はラオスなどの最貧国のものを中国が日本へ横流ししているだけの利鞘ビジネスで、それこそ何を食べてきたのか分からないのだとか。(以上は高級馬肉業者さんに聞いた話)
「ペット用の馬肉」として安く出回っている場合、ペット用となった背景は一体なんなんだろう? と思いを巡らせる余裕はあってもいいのかもしれません。
ということで、取り留めなくなってしまいましたが、犬と鹿肉について、大枠をつかんでいただければ幸いです。
- 内容:鹿肉500gパック x 1 / 猪肉500gパック x 1
- 種類:ホンシュウジカ / キュウシュウジカ / エゾシカ / ニホンイノシシ
- 産地:西日本/九州各県/四国各県/長野県/北海道
- 部位:切り落とし混合
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。