台風が過ぎるごとに気温も下がり、秋の気配を感じられる季節になりました。そしてジビエの季節がもうじき到来となります。
例年この時期になるとメディアではイノシシ鍋が登場すると同時に、ジビエ生食等に関しての注意勧告が目立ち始めるもの。果たして、ジビエはそんなに危ないのでしょうか?
目次
危ないと言っている人たち
それは誰が言っているのか?
飲食店関係の人ならば食品衛生の講習会などで学んだと思いますが、肉の生食は何のお肉であってもリスクが高いもの。中でも野生鳥獣はその極み。鹿は野生動物の中でも最もクリーン(感染が少ない)と言われていますが、それでも確率が低いというだけの話。100%安全というものではありません。これが鹿ではなく猪の、特にレバーやハツなどに至っては、高い確率で寄生虫等の感染があると言われており、販売を禁止している自治体もあります。が、ここで重要なのは、
誰が危ないと言っているのか?
という話。
往々にして注意喚起をしているのは役所の人たちであり、逆に「大丈夫よ!」と生食を続けているのは猟師さんだったりその周辺の人たち。
猟師さんに言わせると「ど素人の役人(保健所の人たちなど)に何がわかるか?」という事になりますし、行政の監督局の立場からすれば「リスクあるものを放置できない」という論。一種のイデオロギー闘争のような、しかしどこかすれ違いがちな感もあり、そして年々e型肝炎の発症数だけが増えているという現実があります・・・。
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実際のところ、危ないのか?
危ない?そんなこたぁ無い
先日、とある熟練の猟師さんに聞いた話では「猪のレバーは美味いよ!生で食うのが一番」と。猪のレバーに生息する寄生虫については、顕微鏡写真とともにその危険度を読んだ事があり、その際「人間にも寄生することがあり、時には脳にまで・・」と学んでいたので驚いたのですが、その猟師さんに言わせると「そんなこたぁ無い!」の一言。事実、もうじき80になるのにすこぶる健康で今も現役を貫いています。
もちろんその猟師さんは仕留める個体、解体して食にする個体(と言うか時期と場所)を厳選しているので、結果として感染の無い個体ばかりを食べているとも言えます。病気の固体、肉質がおかしい固体は即廃棄という鉄則あり。
リスクに対する価値観が違う
一方で、実は感染しているけれど気づいていない可能性、さらにはその地域の人たちは密かに抗体を持っている、というマサイ族のような真実が隠れている可能性も完全には否定できません(マサイ族にはツエツエバエへの抗体がある)。
とは言え、役所の言い分と猟師さんの言い分の食い違いは、突き詰めれば数値に対する捉え方の違いと言えそうです。100頭に1頭くらいのリスク(しかも自分の目で回避できるもの)などリスクではないとする価値観と、10,000頭に1頭であっても万が一の時の危険度が高いのであれば大きなリスクとする行政。捉え方次第でどちらも正しい解釈と言える気がしてきます。
ちなみに、e型肝炎が激増した2015年に報告された感染者数は212例、2016年はそれを1.5倍ほど上回るペースで推移しています。
http://www.nih.go.jp/niid/images/iasr/2016/07/437d02f01.gif
別件ながら、同じく2015年に大流行した手足口病は366,479人。静かな再流行と言われている梅毒は、2015年第1週から第43週までで累計2,037人。こう見ると、大流行と言ってもそれぞれ桁が違うことが分かります。何をもって流行とか急増、リスクとするかはとても難しい部分があります。
e型肝炎は結構感染しているらしい
抗体を持っていた人が5% …?
話をジビエに戻しますが、狩猟と駆除合わせ、年間160万頭の鹿・猪が仕留められ、そのうち5パーセントが食に回されたとして8万頭。上記のe型肝炎数は割合として、300頭に1頭くらいの割合で「あたった」という率だと推定できます。これを多いととるか少ないととるかは監督省庁の判断、また前例と比較した「適切な判断」が肝になるのかもしれません。
では前例とは何か?
これは過去の感染者数の推移が一つのベースだと思われますが、国内数箇所で計900人の血液検査を行った結果、5パーセントがe型肝炎の抗体を持っていたという調査報告があります。これは過去に感染し、気づかずそのまま直った可能性を示唆するものだそうです。つまり統計に乗っていない感染者が一定数(無作為抽出で5%)存在するという話で、であれば前例のよりどころとなる数値そのものが揺らいできます。
また、国内3つの地域で行った、健康な日本人900人の血液検査についての報告では、E型肝炎ウイルスに対する抗体陽性率は平均約5%でした。過去にE型肝炎ウイルスに感染し、症状が発現しないままに治っていた可能性を示唆するものです。
引用:北海道立衛生研究所
が、逆に言えば、人口の5%も感染していた可能性はリスクそのものであり、具体的リスクの指数は不明ながら、避けられるのであれば可能な限り避けるのが賢明という結論に至ります。あとは自己責任で、とは言えないのが行背の立場でしょうし、私の個人的価値観においても生で食べる選択は排除となります。(気づかずに治っていたならリスクでないとする考えもあり・・・かもしれない)
ただし、ペット用とにおいては必ずしも生=NGではない事も明記しておきたいと思います。
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。