農作物に深刻な被害をもたらす猪。過疎化に伴いますます数が増え、山間部の大きな課題となってきました。
ところが近年、出没や捕獲が減り始めています。背景として指摘できるのが豚熱(旧称:豚コレラ)です。豚熱は、日本では長らく撲滅されていましたが、2018年に26年ぶりに発生し、以後全国に広がり続けています。
豚熱にやられた!?
豚熱は、豚や猪以外には感染しない一方で、タイプによっては致死率が高く、養豚場も野生の猪も打撃を受けます。
豚熱が出た地域では野生猪の食肉加工ができなくなるため、捕獲という行為も減少しますが、にもかかわらず猪の出没はむしろ減る傾向があります(個体数が増えていない)。厳密な統計はありませんが、豚熱による自然死が増加している可能性があります。
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再び猪が希少となる
豚熱が出た地域では、清浄化するまで猪の再出荷は見送られます。そして今のところ、何年経っても再出荷には至っておらず、今後の出荷も現状では厳しいようです。豚熱の再発が人災なのか自然現象の一環なのかは不明ですが、伝染病による淘汰という事象自体は、増えすぎた個体に対する自然界の揺り戻しのようにも見えます。理由はどうあれ、ここままでは猪は再び希少なお肉となり、流通が大幅に減少してしまうかも知れません。
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さらに致死率の高いアフリカ豚コレラ
豚と猪にだけ感染するアフリカ豚コレラという病気もあります。これは日本の豚熱(旧豚コレラ)とは全く別のウイルスによるもので、文字通りアフリカ起源の伝染病です。豚熱よりも悪性度が高く、豚と猪の致死率は90% とも言われています。
この危険なアフリカ豚コレラは、アフリカを出たのちに東欧、そしてロシアに渡りました。2014年頃の米国の経済制裁によって、豚肉を輸入できなくなったロシアが、筋の悪い方面から大量に豚肉を輸入した事が感染拡大に影響したという話もあります。
ロシアでアフリカ豚コレラが猛威を振るう中、今度は中国でアフリカ豚コレラが蔓延し始めました。ロシア国境から流入したとも、またロシアが中国に粗悪な豚を売りババを引かせたとも言われていますが、真相は定かではありません。
どうであれ、アフリカ発祥の伝染病が、もう海の向こうまで迫ってきています。
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日本にも上陸するか?
2018年に再発した豚熱は、疫学調査の結果、海外から持ち込まれた可能性が高いとされています。つまりウイルスはさまざまなルートで海を超えてきます。日本はこれを食い止めるために検疫を強化していますが、今後どうなるのかは誰にも分かりません。
もしもアフリカ豚コレラが上陸した場合、山林からは猪が大量に消えるでしょう。山間部の様相は大きく変わるのかも知れません(益々鹿が増える??)。その上でウイルスに抵抗力のあるごく一部の個体が生き残り、再び適正な個体数まで回復していくというのが自然界のサイクルです。
人災と自然界の摂理が複雑に絡み合う伝染病の舞台。自体は現在も進行中です。
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株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。
