細菌たちの分類の1つにプロテオバクテリア門(Proteobacteria)というグループが存在します。
ここでは、プロテオバクテリア門の一般的な概要に加え、犬や猫にとってどういった存在であるかについて記載します。
※複数の文献及び、Foremaラボでの解析結果を元に記載しています。
目次
プロテオバクテリア門の概要
プロテオバクテリア門は細菌グループの1つ
プロテオバクテリア門は、細菌の大きなグループの1つで、腸内細菌に限らず、土中細菌や汚泥の細菌など、自然界に広く存在します。
属にいう悪玉菌が多く含まれており、疾患のある個体の腸内で増えている事例が多々存在します。
こんな特徴があります
プロテオバクテリア門の特徴を大まかにまとめると..
- 自然界に広く存在します
- 病原性細菌が多く含まれます
- 動物の腸内にも存在します
- 自然界では腐敗などの分解を担うものも多くいます
食中毒や感染症の原因になる細菌の多くはプロテオバクテリア門に分類されるため、どうしてもネガティブな存在に見えてしまいますが、自然界の中では重要な役割を担っています。
そもそも「門」ってなんだ??
門というのは、生き物の分類の階層の1つ。人間であれば、脊索動物門(せきさくどうぶつもん)というグループに分類され
脊索動物門 >哺乳綱>霊長目>ヒト科>ヒト属>ホモ・サピエンス
となります。タコやイカは軟体動物門(なんたいどうぶつもん)、昆虫たちは節足動物門(せっそくどうぶつもん)というグループに分類されます。
平家一族のことを平家一門というように、大きなグループという意味で「門」という言葉が採用されたのでしょう。(先人らがそう和訳した)
※ 2022年に分類の名称が変更され、「プロテオバクテリア門」は「シュードモナドータ門(Pseudomonadota)」という名前に更新されています。「プロテオバクテリア門」はあくまで通称であり、現在は「シュードモナドータ門」が最新の正式名称となります。
プロテオバクテリア門にはどんな細菌たちが存在する?
具体的な例として、ごくごく一部ですがご紹介します。
エンテロバクター科
エンテロバクター科は、日本語では「腸内細菌科」と表記されることもあります。プロテオバクテリア門の中でももっとも身近なグループの1で、腹痛や下痢に関与していることも。下記のような細菌たちが含まれています。
- エシェリヒア属(大腸菌など)
- シゲラ属(赤痢菌など)
- クレブシエラ属(肺炎桿菌など)
- サルモネラ属(サルモネラ菌)
- プロテウス属(IBDの原因となることがあります)
Foremaラボでの腸内細菌解析においては、アレルギー疾患のある個体の腸内で増加している事例が多々あります。また、薬剤耐性を持ちやすいという特徴もあります。
シュードモナス科
このグループは食中毒の原因にもなる一方で、自然界では腐敗を始めとする分解の役割を担っています。下記のような細菌たちが含まれています。
- シュードモナス エルギノーサ(緑膿菌)
- シュードモナス フラギ(腐敗菌)
これらは土中から多く検出される一方、腸内細菌としても一般的に検出されます。外飼の犬や「生食」をしている犬/猫で検出が増える傾向があります。
モーガネラ科
モルガン菌(モーガネラ モーガニー)を代表とするグループ。尿路感染症や肺炎などの原因にもなるグループです。
モルガン菌は、近年ではIBDの要因になることや、腸内透過性を増大させること(リーキーガット)、そしてマウスの研究では腫瘍を悪化させることなどが分かってきています。
サテレラ科
微量ながら、人や犬、猫の腸内から検出されます。土中からもごく微量に検出されることがあります。
サテレラ科の細菌(サテレラ属)は自閉症と関連し、自閉症の個体や内向的なヒトの腸内での検出比率が高い傾向があります。
腸内環境の悪化とともに増加する事例が屡々見られます。
デスルフォビブリオ科
硫酸塩還元菌とも呼ばれるグループの1つで、硫黄を分解し、硫化水素を生み出します。自然界の中では海底の汚泥などに存在し、無酸素下での有機物/無機物の分解などを担っています。
硫酸塩還元菌は鉄の腐敗にも関与し、建築や土木の領域でも注目される存在です。
自閉症にも関与
サテレラ科と並び、デスルフォビブリオ科も自閉症に関与します。また、このグループが産生する硫化水素は毒性があり、悪性腫瘍リスクの増加にも繋がります。
カンピロバクター科
食中毒の原因として知られる細菌グループ(カンピロバクター属)。「らせん菌」というと耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか?
家畜やペットの腸内に生息しますが、健康な犬や猫からの検出は低い傾向があります。
モラクセラ科
土壌や水などに存在する、普遍的な自然界の一員。一部は結膜炎など感染症の原因にもなります。下記のような細菌たちが含まれています。
- モラクセラ属 (雑巾の匂いの原因)
- アシネトバクター属 (腐敗や化学物質の分解にも関与)
時々犬や猫の腸内からも検出されますが、特にアシネトバクター属の突出した検出は不自然かつ不穏なものです。
パスツレラ科
かのパスツールの名前にちなんで命名されています。特に「パスツレラ属」はパスツレラ症でも知られるグループで犬や猫の口腔の常在細菌でもあります。常在菌が感染症の原因として牙を向くのは宿主が弱ったときであり、健常個体の場合、口腔内での比率は高くありません。
ナイセリア科
淋菌や髄膜炎菌が分類される不穏なグループ。腸内からの検出は少ない一方、口腔内では比較的頻繁に検出されます。健康課題が多い個体ほど検出比率が高まる傾向があります。
エルシニア科
ペスト菌が分類されるグループ。時々ペット犬や猫の口腔から微量に検出されます。
プロテオバクテリア門が多いとどうなる?
増加によってみられる症状
腸内で「プロテオバクテリア門」が増えてしまった場合、さまざまな不具合が表面化します。
- 軟便や下痢
- ひどい時には血便
- アレルギー症状の増加
- 皮膚トラブルなど
- IBD(炎症性腸疾患)
- 蛋白漏出性腸症
ただし、プロテオバクテリア門で一括りにするのは乱暴すぎるというのも事実です。どの科のどのグループが増えるかによって意味合いは大きく異なってきます。
先述のように、外飼いの個体や、屋外で過ごす時間の長い固体でシュードモナス属が増えるのは自然な事である一方、ほぼ室内にいる子で同じ事が起きたのであれば何らかのトラブルの可能性があります(痛んだお肉を食べたなど)。
「プロテオバクテリア門」はなぜ増える?
加齢による増加
個体差もありますが、一般的には加齢によって増えていきます。腸内年齢を定義するのであれば、その1つの指標とも言えるかもしれません。ただし繰り返しになりますが、どのグループが増えるかによって意味合いは異なります。
お肉が痛んでいた
腐敗菌としてお肉の分解に携わる「シュードモナス属」などは、好冷菌の側面があり、冷蔵庫でも増殖します。よって長めに保管したお肉を生焼けで食べることで、腸内で増加する事があります。生食で「シュードモナス属」が増えるのも同じような背景と考えられます。ただしこれは一時的なもののため、慢性の炎症といった深刻な事例にはなりにくい傾向があります。
薬剤耐性菌
特にエンテロバクター科は薬剤耐性を持ちやすく、抗生物質治療の副作用として大幅に増殖している事例がしばしば見られます。このパターンは長期化し、自然治癒が厳しいという強い傾向があります。
母体の問題
幼少期に、すでに腸内細菌組成が崩壊し、プロテオバクテリア門が大幅に増えている事例があります。「エンテロバクター科」や「エンテロバクター目」である事が大半で、幼少期の投薬、もしくは母体の段階での投薬や、母体そのものの深刻なトラブルの可能性があります。
母体の腸内細菌バランスが崩壊していた場合、それはそのまま子供に引き継がれます。
「プロテオバクテリア門」は減らせるか?
減らせます。
基本的には食事と環境を改善するのが重要です。
抗生物質で叩くという選択は(緊急で重篤な場合をのぞき)さらにトラブルにつながる可能性があります。
Foremaとしては、犬と猫の「プロテオバクテリア門」抑制に主眼を置いたサプリとして、「腸内免疫プロテオ」を販売しています。
改善事例などは商品レビューをご参照ください。
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Foremaのラボメンバーが主体の編集チーム。犬と猫のマイクロバイオーム(腸内細菌/口腔内細菌)関連を中心にお届けします。