猫の腸内細菌の話Vol.2 食物繊維のトラブル

最終更新日:
公開日:2022/08/13

おなかの調子が良くない猫の腸内細菌の事例でしばしば目にするのが、植物質由来と思われるトラブル。キーワードは「ルーメン」です。

※当記事は関連文献および、自社での16S rRNA解析事例を元に執筆しています

猫の腸内で増加するルーメン細菌

牛のいる牧場の風景
牛のいる牧場の風景

ルーメン細菌とは何か?

「ルーメン」というのは牛や鹿など、胃袋が4つある「反芻動物(はんすうどうぶつ)」の第1胃袋のこと。ここには植物の繊維や木質、細胞壁を分解する細菌たちが生息おり、時間をかけて草木を発酵分解していきます。

牛や鹿、ヤギなどは、自分で植物を分解するのではなく、細菌たちを胃袋に住まわせ、消化できる形に分解してもらった上で消化/吸収しています。第一の胃袋は植物の発酵工場で、4つの胃袋の中でも突出して一番大きい事からもその重要性が分かります。

ルーメン細菌が増えてしまう猫

「ルーメン」に住む細菌たちは、反芻動物や草食動物に特有の細菌たちと言っていいでしょう。が、なぜか「ルーメン細菌」を多く保有している猫がいます。それもバランス良く保有しているのではなく、単独の1,2種を不自然に多く持っているなどの事例が目立ちます。

Forema ラボでは

「はて? この細菌たちはどこから来たのだろう?」

となり、多数の事例を調査してきたわけですが、それらの猫に共通する事項として「○○療法食」とか「ダイエット」「食物繊維」をうたったフードを食べている実情に辿り着きました。(犬でも同じ傾向ありますが、雑食性の進んだ犬に対して、完全肉食性の猫の場合は状況が深刻と言えます)

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トウモロコシを食べさせられている猫

Forema 農園のとうもろこし
Forema 農園のとうもろこし。

この子はコーンを食べている..

不自然に増えたルーメン細菌の素性を調べていくと、それらは硬い種類の木の葉っぱや茎、ワラ、芯などを分解するのが得意な細菌種というパターンが多いです。それが腸内で増えているという事は、

「この猫は茎やらコーンやらを食べている」

という結論に至ります。

で、実際に飼い主さんから聞いたフードを調べてみると、多くの事例で主原料がトウモロコシや小麦だったりします。

猫の写真
これまで犬のマイクロバイオーム/腸内細菌のことばかり書いてきたので、そろそろ猫について書きます。1回目となる今回は、犬との違いについて。 ※当記

猫がトウモロコシを与えられる理由

ルーメン細菌が増えている猫には、ざっくりですが2パターンの背景があります。

  1. 腎臓病などの療法食として、脂肪やタンパク質を回避している場合
  2. ダイエット文脈で植物質を与えられている場合

です。

1の療法食の場合お肉が削減されるわけですが、その代替としてどういうわけか穀物やトウモロコシが登場してきます。アメリカの主要作物であるトウモロコシは大半が飼料用として活用/輸出されており、その次の用途がコーンスターチです。ともにペットフードでよくみる表示ですね。(この時点でおかしい)

2のダイエット文脈の場合、人間目線の「食物繊維を与えましょう」的なキャッチコピーが使用されている商品が目立ちますが、肉食性の猫にとって食物繊維(※)の取りすぎは大きなデメリットとなります。

※ペットフードメーカーのいう食物繊維は、実際には植物性繊維であり、私たちが想像する食物繊維とは全く別物と考えるのが妥当でしょう。

トウモロコシは繊維として活用できる幅が非常に広く、人間や家畜用途であれば芯までもが食物繊維として活用できる有益な資源です(アメリカ)。ただし猫にとっては食物繊維でもなんでもなく、ただの異物混入という可能性があります。その結果として、猫の腸内で増えるはずのないルーメン細菌が実際に増殖し、その個体で下痢や血便、嘔吐が起こっています。

猫の腸内に有益な食物繊維類(プレバイオティクス)と、穀物やトウモロコシの芯、ビートパルプ、その他植物性繊維全般は、細菌レベルでは全くの別物です。

これを産業目線で”食物繊維”と一括りにしている点に不幸の元凶があるのかもしれません。

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