深入山山焼き

共生?それとも自然破壊?深入山に見る山焼きについて

最終更新日:
公開日:2020/04/29

山焼きという行為をご存知でしょうか? 文字通り山を焼くわけですが、国内では(場所によっては)1,000年以上前から行われてきた伝統的な取り組みでもあります。そして近年では自然破壊だ!と非難の声も上がっています。そんな山焼き(野焼き)について記載します。

なぜ大切な自然に火をかけるのか?

深入山麓のススキ野原。野焼き後の秋の景色

なぜ山を焼くかご存知ですか?日本の場合、大まかには以下の理由で野焼き・山焼きが行われてきました。

  • 牧草地の確保
  • 採草地の確保
  • 森林化を防ぐ
  • 病害虫の発生予防
  • (近年では)風物詩

主には農業や牧畜に活用するという目的で山を焼いていた事がわかります。日本は雨が良く降り風土も豊かなので、数年放置すれば原野にはすぐに木立が増え、十数年で雑木林に。数十年で山林へと変貌します。

一度開拓した山林を、自然に返さずにある程度人里のコントロール下に置く事で、人々の暮らしの維持に活用していたという事。近年では農業や牧畜用途での活用という点では必要性が極めて薄くなっており、観光の側面が大きいようです。

山焼きは自然破壊なのか?

熊本エリアの山地
野焼きで知られる阿蘇。九重から熊本方面に抜ける山地から阿蘇市街地を望む。

自然にとっては大きな負荷

山に火をかけることは、当然自然を破壊する事になります。今そこに住んでいる生き物にとっては最悪です。が、一定規模の山焼きであれば、山火事同様、すぐに次の生命を育む土台となります。

焼畑農業のように、延々と自然林を焼き尽くし、農地に変え、土地がダメになったら次を焼くという”使い捨て”とは異なり、特定の土地を定期的に焼くという行為は、人間の管理下における「活用」の部類に入るのかもしれません。

ほんと、いま住んでいる生き物からすれば最悪ですが..。

原野という生態系が存在する

すすき野。札幌ではない。

雑草類はすぐに回復する

山焼きが行われる事によってあたりは焦土と化すわけですが、灰は養分となり、また光を遮るものがないために雑草の回復は早いです。

Forema の廃校物流センターと同じ町内にある深入山という山で、以前山焼きの前後を定点観測した事があるのですが、わずか1ヶ月程度ですぐに雑草が生え、そのあとはススキなど背の高い草、そして熊笹などが生い茂っていきました。

山焼き前の深入山 3月
山焼き中の深入山 4月 前半
山焼き後の深入山 4月後半
山焼き1ヶ月後の深入山 5月後半
山焼き半年後の深入山 10月
山焼きから7ヶ月後、秋の深入山 11月
山焼きから10ヶ月後の深入山 2月

野焼きエリア内外の境目が明瞭。別々の生態系が隣接している状況は人工的な自然である一方、生態系の一員である「人」の手が入り続ける事そのものが生態系の一形態だとも言えます。

原野の生態系ではノウサギが増えやすい

アナウサギ 大久野島
これはノウサギではなく、大久野島のアナウサギ
木立が減り、遮るものの少ない原野はノウサギにとって好都合な生態系です。草の背が低いため見通しが利き、遠くの音も捉えやすく、かつ俊足で疾走しやすい点がノウサギにとって有利なためです。ノウサギがいればノネズミもいます。この場合の天敵はキツネやテン、猛禽類などの捕食者です。

猛禽類にとって有利

おそらくは跳躍前進によるノネズミの足跡。この時の積雪は1.5mほど。

猛禽類、特に大型のイヌワシやクマタカにとって、見通しの良い原野はハンティングに有利です。捕食対象はノネズミやノウサギなど。原野はウサギにとって有利と書きましたが(←キツネやテンに対して)、大型猛禽類にとっても有利。

繁殖力で(=つまり頭数において)ノネズミやノウサギが対抗しているため、生態系のバランスが維持されていると言えます。原野が増えすぎると猛禽類が営巣する大木やノウサギの隠れる木立がなくなるので、原野と山林双方のバランスが重要なのだと理解できます。

山林という生態系

ブナやミズナラ、コナラの広葉樹林に混在する針葉樹。安芸太田町
ブナやミズナラ、コナラの広葉樹林に混在する針葉樹。秋太田町

広葉樹林の場合

原野から木立が育ち、背の高い草木で占められるようになると、ウサギの数は減っていくとされています。いなくなるのではなく、山林という生態系に適した生息数に自然調整されていくのだと思います。

広葉樹林の場合、冬になると葉が全て落ち、下草は雪で覆われるので、ノウサギにとっては走りやすい一方で、猛禽類からは丸見えとなります。なので、冬の広葉樹林はノウサギにとっては正念場と言えます。

安芸太田町の丸子頭 山頂
安芸太田町の丸子頭 山頂
大型猛禽類だけでなく、キツネやテン、イタチなど、捕食者は数多いです。そんな中、ノウサギが捕食者を巻く方法として、足跡による撹乱という技があります。これは、足跡を付けながら進んだ後、元きた足跡をたどって後に引き返し、また別の方面に向かうという技。1頭しかいないはずのウサギの足跡を追っていくとん、なぜか複数の方向に分かれて行き、急に行き止まり、みたいなトリッキーな技です。

針葉樹林の場合

一方で、針葉樹林(日本では大抵が杉・檜の人工林)の場合、冬でも落葉しないので猛禽類にとっては餌場となりづらく、生息にとって不利に働きます。本来の日本の奥山であれば、よほどの高山帯でない限り針葉樹の割合は多くはなく、周辺の広大な広葉樹林が餌場になるのですが、現在の日本では森林の4割が人工林なので、大型猛禽類にとっては捕食面で厳しい生息環境だと言えます。

林業大国、鳥取県智頭町の人工林。
西日本でも有数の林業大国、智頭町の人工林。鹿の生息数が大きく増えている

一方でノウサギやその他の生き物にとっても、果実をつけない針葉樹の人工林は砂漠同然で生物多様性は広葉樹林に比べて大きく低下します。数少ない例外が鹿で、隠れやすく、針葉樹林の下草であるクマザサが餌となる上、冬季には檜の皮をはいで食べる事でどうにか飢えをしのぐ生存スキルを獲得しています。

鹿の増えすぎは戦後に狂ったように植えられた杉と檜の人工林も大きな一因でしょう。

生態系の撹乱の結果

撹乱が生物多様性を後押しすることもある

疾走するアカネズミ(?)。原野と山林の住人。

近年、開発や温暖化などで環境が大きく変化し、そこに外来種が入り込む事で従来の生態系が大きく変異し始めています。日本古来の自然を守るという観点であればこれは由々しき事ですが、一方で、気候が変わるという不可抗力の前においては生態系の変化はごく当たり前のこととも言えます。

外来種が増えるのは、従来の生態系に隙間ができたからであり、外来種が生態系に穴を開けて潜り込んでくるという事例は、実際にはほとんどありません。(離島のクマネズミとアホウドリの事例は、劇的かつごくごく例外的なケース)

無駄な山林開発はやめるべきですが、開発がきっかけで撹乱された環境が落ち着いたのちに新たな種(しゅ)が入り、在来種がそれに拮抗することで新たな生態系のバランスができ、結果的に(動物植物問わず)共生する種が増える事例が多々あります。生物多様性の観点では決して悪い事ではありません。

山焼きも人の手による撹乱の一種

山野に火を放つ、山焼き/野焼きも人の手による生態系撹乱そのものですが、それが人の暮らしと共にあり、かつ数百年も続いているとそこに根ざした生態系が生まれるというのは道理なのだと言えます。人々が山に芝刈りに入る事で形成された里山もしかり。

また、2000年以上も水田稲作を繰り返した結果、田んぼを中心とした生態系が広がったように、人が(節度を持って)手を加える事は、それが派手な炎上であったとしてもいわゆる自然破壊とは意味合いが異なるのだと感じます。

逆に、節度のない農薬の垂れ流しっぱなしの現代農業は、田んぼ周辺の生態系のみならず、はるか下流域にまで及ぶ水系、土中細菌、そして人体の腸内細菌叢にまで悪影響を与え続けるという点において自然破壊そのもので、さっさと縮小してしかるべきものなのだと思います。ダメージは山焼きの比ではない。

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