人間はおろか、いまやペットのあいだでも深刻な問題になっている食物アレルギー。食物に含まれるアレルゲンと呼ばれるアレルギー物質に対し、免疫が過剰反応してしまう事によって、痒みや下痢、嘔吐、その他様々な不具合が起こります。
アレルギーの原因としては、アレルゲンおよび、それに反応する抗体を持っているかどうかが指摘されます。が…。
根本の問題として、なぜ免疫が過剰反応、いや暴走してしまうのか? そしてなぜ近年になってそれが急増しているのか? という問いに、医療現場は答えられていません。
そんな中、アレルギー反応および免疫機能の暴走(自己免疫疾患)にマイクロバイオーム(腸内フローラと同義)が深く関与していることが、アメリカなどの先端研究から分かってきました。
目次
例えば..アナエロスティペス・カカエ
牛乳アレルギーの反応を抑制
一例として、アナエロスティペス・カカエという腸内細菌を紹介します。この細菌が発見されたのはごく近年の話なのですが、牛乳アレルギーの反応を抑制する事が分かってきています。健康な乳児はこの腸内細菌をしっかりと保有して成長していきます。
一方で、この細菌を保有できていない乳児は牛乳に対してアレルギー反応が出てしまいます。牛乳はアレルギーの要因ではあっても、それが引き金を引くかどうかはアナエロスティペス・カカエの存在が左右しているという事。
そして、この乳児の腸内細菌の組成(アナエロスティペス・カカエがいない細菌群)をマウスに移植したところ、そのマウスも牛乳に対してアレルギーの反応が出てしまうことが実験で確かめられています。
免疫の暴走を鎮静する役割
アレルギー反応の抑制というのは「免疫の暴走による炎症」を沈静させる事。免疫機能の中では「T-reg(ティーレグ)細胞」がその役割を果たします。が、何らかの不具合によってT-reg細胞がうまく働かない事が増えており、結果として牛乳に限らず、ありふれた様々なものに対してもアレルギー反応が起きてしまうというのが近年の実情だと言えます。
このT-reg細胞の挙動に影響をあたえる一例として、アナエロスティペス・カカエという細菌の存在があります。
例えば..バクテロイデス・フラジリス
バクテロイデス・フラジリスという腸内細菌は、多くの人が普通に保有している腸内細菌ですが、やはり炎症を抑制する働きを持っています。食物繊維を多く取る事でこの細菌に有利な腸内環境となり、結果的に腸炎などの”災害”に強い体となります。
自閉症スペクトラムの子の腸内にはこの細菌がごっそり抜けているという研究結果もあり、マウスの実験においても自閉症と腸内細菌の組成の関連が強く示唆される結果が出ています。
T-reg細胞という存在
先にも書きましたが、炎症だったり自己免疫の暴走の抑制にはT-reg細胞が関与しています。これは私たちや動物たちが普通に持っている免疫機能の一部で、正常に働いていれば我々は日々健やかに暮らしていく事ができます。
が、機能していないとアレルギーやアトピー、クローン病や肥満(!)といった自己免疫疾患が発症してしまします。これは人間だけでなく、ペットにも共通なのだそうです。
致死的な免疫疾患であるIPEX症候群の患者に制御性T細胞(T-reg細胞)が欠けているのと同じように、アレルギーをもつペット動物にも制御性T細胞の不足が見られる。
10% Human 152P アランナ・コリン 著
T-reg細胞が機能不全を起こすのは腸内細菌の生態系/マイクロバイオームの撹乱が大きな要因で、その原因は帝王切開や抗生物質の誤用、食事などの生活習慣(添加物や農薬などの摂取も含む)だという説が有力です。
アレルギー反応や炎症を抑制するには?
上で触れた2つの腸内細菌はあくまで例であり、実際には多くの腸内細菌がそれぞれ炎症を抑制、厳密にはT-reg細胞などの免疫機能の正常化に貢献しています。
例えば、納豆など大豆類を食べる事で数を増やすエクオール産生菌は老化の抑制や免疫機能の向上に大いに貢献しますし、酪酸産生菌と呼ばれるグループは、別のメカニズムでやはり免疫機能の正常化に役立っています。それらを増やすには、野菜をよく食べ、お肉は少なめに。代わりに魚を摂取し、納豆や味噌汁をよく食べ…。
と、見れば当たり前の日本食にたどり着きます。早い話が、欧米型の食事をやめましょうという事です..。
犬や猫などペットのアレルギーの場合はどうか?
ペットのマイクロバイオーム
人間同様に、近年になって犬や猫にもアレルギーが増えている事を考えれば、背景は人間と同様と見て間違いないように思います。が、現時点ではペットのマイクロバイオーム研究はあまり進んでおらず、解決の糸口は見つけるのも容易ではなさそうです。
が、先述のように、ペットにもT-reg細胞の不足が起こっている(人間と背景が同じ)のであれば、ここでも欧米型の食事をやめれば炎症や自己免疫疾患の軽減が目指せるのではないでしょうか? (※帝王切開や抗生物質はまた別の問題として存在)
ペットにとっての高脂肪食はペットフード?
ペットにとって欧米型の食事(ハンバーガーやインスタント食品/高脂肪食)に該当するものといえば、やはり既存のドッグフード/キャットフードから目を背けるわけにはいきません。
多くの飼い主さんが手作り食に移行しているのは、ペットフードに対しての不信感もありますが、そもそもアレルギー反応などで食べられなくなったという実情も少なからず影響しているようです。
犬の手作り食については、近年ではその分野の資格も登場しており、効用やレシピなども充実するようになってきているので、この場に乗じてご紹介↓↓↓
マイクロバイオーム の撹乱はなぜ起こるのか?
先に触れた「アナエロスティペス・カカエ」や「バクテロイデス・フラジリス」など、特定の細菌がいない、もしくは大幅に減ってしまうといった現象はなぜ起こるのでしょうか?
遺伝と腸内細菌との相性もあるようですが、後天的な理由としては上述のように帝王切開や抗生物質の誤用、食事などの生活習慣だという説を補強する研究結果が多く出ています。また、特定の食品添加物が腸内細菌に影響を与えている事を示唆する報告や、農薬が土中細菌に甚大な影響を及ぼしている事実(=腸内でも同じ原理が働くと考えられる)を踏まえても、食による影響は計り知れません。
アレルギー反応はあくまで結果であり、その前段階として存在する、自己免疫が暴走してしまう下地(腸内細菌の乱れ)が根本の原因だと言えそうです。マイクロバイオーム は幼少期に組成が決まり、成人以後は恒常的に変える事はできないと考えられています。(ただし常に良い食事を食べ続ける事で”一時的に良い状態”を維持し続けることは可能)
腸内細菌の組成を変える創薬分野の研究も少しずつ進んでいるようなので、現状で困難を抱えている人やペットにとっては待ち遠しい限りですね。
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。