岡山県の奥地にある西粟倉村に行ってきました。
全人口1,500人の西粟倉村は、かつて過疎化が進む中で平成の大合併を蹴り、自力で活路を見出すことを選んだタフな歴史を持っています。
外部の人間を受け入れた村、 西粟倉村
これといった産業がない過疎の自治体が選んだ道は、木材という資源のフル活用。生き残りをかけた戦略の中で、村は外部の力を受け入れる方法を選びました。
中でも中核となるのが、旧小学校校舎をそのまま使用して設立された森の学校(現エーゼロ株式会社)で、数々の木材商品を開発、外部へのPR及びアウトプットを進めながら現在の基盤を築いてきました。取り組みが先進的で珍しかった事もあり、全国の尖った人たちから静かに、少しずつ注目されるように。以後、時を経て少しずつ移住者が増えはじめ、村内で起業し、それらがわずかな成功を積み重ねているのを見てさらに新しい人材が入ってくるという流れが定着しつつあるようです。
エーゼロの関係者は、この現状を「最初のペンギンが海に飛び込み、次のグループが飛び込み、今は第3世代が定着して芽を出しつつある段階」と言っていました。
ジビエ料理のお店
最初のペンギンの一つとも言えるのが、ジビエ料理も扱うお店、フレル食堂。オーナーの西原氏が森の学校に参加した事がはじまりだったようで、その後岡山の美作市で開業。この訪問の数日前に西粟倉村の旧小学校校舎内へ移転して(戻って?)きたのだそうです。
ここ女性オーナーはとても不思議な魅力のある方で、過疎地とは思えない敏感な感度を持ち合わせている様子。関係者が冗談めかして「彼女は解体マニア」と評していましたが、料理だけではなく、以前は博物館の剥製を作るお仕事にも携わっていたのだといいます。
今回は閉店間際という時間的制約から食事をすることができなかったのですが、なかなかの敏腕で食べた人を唸らせるのだという話。ご主人は木工作家との事で、お手製の木製食器が店内で使用、また販売もされています。暖房もまきストーブですし、あらゆる面で自然と密着したお店なのだと感じました。
フレル食堂(旧影石小学校内 駐車場あり)
090 – 6830 – 2130 (Fri → Tue 11:00~17:00)
〒707-0503 岡山県英田郡西粟倉村影石895
宿泊もできる温泉施設、元湯
温泉施設も紹介したいと思います。元々温泉の出る西粟倉村で、古くから土地の老人たちに利用されてきた湯池施設が老朽化。そこを今風にアレンジして若返らせた湯場兼ゲストハウスが元湯。やはり県外から移ってきた若い夫婦が営んでおり、今年で3年目。今では村外の若い人材も移住して加わっており、さらに活気が加わっているようです。
この日私は、高速道路の長距離運転でくたびれていた事もあり、温泉に入らせて頂くことに。冬場の過疎地で独り占めする温泉の贅沢さは筆舌に尽くすは困難至極でありました。
ここは温泉とは言いながらも、組み上げた時点では17度の冷泉らしく、そこからマキを燃やして温めているのだそうです。マキはもちろん村内人工林から得た間伐材を利用したもの。他の温泉施設向けにもマキを出荷しており、元湯を運営しながら、マキの生産出荷という新たな仕事を作り出しています。
さて、温泉で疲れを癒した後に新たな来訪客に出会ったのですが、聞けばわざわざ千葉からいらしたとの事。メディアによく取り上げられることから、県外からの来訪者が多いのだとか。外部の人間が活躍して外部からの誘客を果たしている現状は、過疎地の中における成功モデルと言っても過言ではないように思えます。
岡山県英田郡西粟倉村影石2050
0868-79-2129
0868-79-2120
http://motoyu.asia/
人工林が大半の山、そして鹿が駆け回る
西粟倉村であたりの山々を見渡すと、一面がスギやヒノキの針葉樹林で、山全体が黒々としています。これは地域にとっての財産である一方、生態系・生物多様性の観点ではあまり好ましい状況とは言えない負の側面もあります。果実をつけない杉や檜の森は、それを餌にする野生動物にとっては砂漠同然の環境であり、鳥類はもちろんですが、特にツキノワグマのような大型の哺乳類にとっては住みずらい場所だと言えます。また、冬場でも落葉しない針葉樹の密生は、大型猛禽類にとって狩の難しいフィールドと化します。
鹿よりも猪の勢力が強い傾向のある西日本ですが、西粟倉村においては鹿の方が圧倒的に多いようです。これは隣町の林業王国、鳥取県智頭町においても同様です。理由として考えられるのは、鹿の方が寒冷な気候に適している点に加え、薄暗い人工林においても熊笹は下草としてある程度生えている点。鹿は木の芽や若葉を好んで食べる一方、餌の少ない時期には熊笹が重要な食糧源となります。
猪やツキノワグマは雑食性ですが、鹿は草食性。食べられる草木ならばなんでも食べられる強みがあります。熊笹がなければ木の皮を剥いで食べ、それでもなければ落ち葉まで食べて飢えをしのいでいるケースもありました。
また、世界遺産で有名な安芸の宮島では、海辺に打ち上げられたワカメを美味しそうに食べているシーンを日常的に目にすることができます。こういった背景もあって鹿の勢力が強いのではないかと推察できます。
人工林の今後は?
国内の山林の大半を占める人工林は、戦後の国策の負の遺産という側面が大いにあります。国産材の価格崩落や林業家の高齢化によって伐採・出荷が行われず放置された山林の現状は「山林の荒廃」と言われ続けて久しいです。とは言え、人工林が悪いというのではありません。自然界ではありえないほど画一的に同一種を植え続け、それらが国土の大半を覆っている状況こそが問題であり、しかも活用の予定がない。これはまずいです。
逆に言うと、これらを積極的に活用している場合においては、負の遺産も宝となり得る。古い世代の人たちが昔の価値観と昔のやり方で諦めたものを、新しい外部の人たちが新しい方法と価値観で再チャレンジしているのが西粟倉村だと言えるのではないでしょうか。
山は海と繋がっており、その海も海洋資源枯渇がもう後戻りができないかもしれないギリギリのところに来ています。使う予定のない人工林は早急に自然林に復元し、「使う予定のある一部の人工林に絞って」有益に活用していく事が生態系にとって正常な状態であり、自然と人間が調和しながら生きていく上での必須の条件であるように感じました。
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。