昨今、違法ジビエという言葉が聞かれるようになりました。ジビエに合法も違法もあるのでしょうか?また、法令遵守に徹する国民性の日本でなぜ違法ものが流通するのでしょうか?違法ジビエの背景と今後について書きたいと思います。
目次
そもそも何が違法なのか?
違法ジビエとは、通称なので厳格な定義はありませんが「保健所が定めるガイドラインを満たさないプロセスで流通」しているジビエ全般を指します。ジビエとは野生動物のお肉のこと。鹿と猪が主流です。
従来の食品流通の仕組みは家畜であることを前提に組み立てられており、いわゆるジビエ食材は法律の隙間に位置していました。結果、法律が追いついていないグレーゾーン〜無法地帯の状態が続いてきたと言えます。
近年の害獣問題深刻化の背景を受け、農水省主導で食としての活用が推進されていく中、流通のためのルールが整えられたのは比較的最近の話です(※)。具体的には保健所の許可を得た野生鳥獣解体処理施設(以下、解体所)で処理したものしか市場に出してはいけないというもので、ここで求められる衛生基準は一般の飲食店と同様の水準が求められます。(※ラベル表示のルールについては未だ未整備で2018年現在総務省が策定中)
現在活躍している熟練ハンターの多くは高齢で、保健所のガイドラインが登場する以前から現役で活躍してきた方々。そこに後から厳格なルールが適用された事もあり、多くが「定義としては違法」状態になったという過去があります。
違法ジビエはどれくらい存在するのか?
山間部ではまだまだ多くある
違法ジビエについてのオフィシャルな統計は、調べた限りでは見当たりません。が、実際には未だ多く流通しているのが実情だと言えます。例えば山間部の飲食店では普通にイノシシ鍋が振舞われていますが、「その地域にガイドラインを満たした解体所は存在しない、でもメニューとして出されている」という事は普通にあります。多くの道の駅でもそうですし、地域起こしイベントなどでも同様です。厳密な統計を取れば山間部は大半が違法モノという結果が出るように感じます。とは言え、狩猟肉を恵として頂く行為は従来から存在した山間部カルチャーなので、保健所も黙認というのが実情のようですし、そのスタンスは理解できます。
都市部でも普通によくある
一方の都市部飲食店ではどうでしょうか?これが、やはり普通に違法モノが出回っています。弊社は飲食店専用の仕入れサービスForema Proを運営している関係から多くの飲食店とのやりとりがあるのですが、例えば首都圏の高級店ほど独自の仕入れルート(個人猟師)を持っており、聞けば結構な割合で「解体所が無いはずの地域」から独自に仕入れていたりします。
違法ジビエが流通する理由
法令遵守がそのまま国民性となっているような日本において、なぜ違法モノが流通するのでしょうか?それは先にも触れたように、後からルールができ、結果として違法となっているケースが多いのが最大の要因に思えます。そして必ずしも「違法=粗悪品」ではないという現実も状況をややこしくしています。
都市部の高級レストランは結構な割合で独自の仕入れルートを確保しています。それは自らの足で開拓したものもあれば、師匠から引き継いだものもあるのでしょう。そういう場合、シェフも一流なら猟師の腕も一流で、解体スキルや衛生基準の判断も上等なのだと思われます。ただそれを数値化できない。それでも高品質である事はお店も了承済みだから長年の慣例で違法状態でも取引が継続されているのが実情なのだと推察されます。
料理人は独自の仕入れルートを他人に明かさず、また猟師も自分の販路を猟友会仲間にすら漏らさないという閉鎖性もあり、”高品質かつ違法”という”秘密の花園”のような領域が未だ多く存在するようです。
逆に違法かつ粗悪というケースは淘汰が進んでいるように感じます。自家消費などにまわっているのかもしれません。
違法ジビエの将来について
熟練ハンターの退場とともに無くなる
現在残っている違法ジビエの中でも、特に高級店に流通しているであろうものは、近い将来消えて行くことが予想されます。というのも、「高品質かつ違法」な国産ジビエは熟練ハンターの所業によるもので、その多くが70代〜80代に突入しているため。彼らが現役の舞台から退場した時、結果的に違法モノとして流通しているジビエが淘汰され、ガイドラインに準拠したものだけが生き残るのだと予想されます。
新たに違法になるものも出てくる?
ただし未来はそこまで単純ではないかもしれません。というのもガイドラインがどんどん厳しくなっているからです。例えば2000年代中頃にガイドラインに沿って許可を得た解体所が、現在の基準だとアウト、というような後出しジャンケンみたい事例があり、今後もますます増えて行くように思います。
さらに大きなハードルとなるのがHaccp(ハサップ)です。Haccpは衛生面における国際基準で、近年中にハサップ準拠が、飲食店のみならず野生鳥獣解体処理施設にも義務化されます。これも後出しジャンケンで、現場としては基準を満たすための新たな設備投資が求められる事となります。
北海道Haccpの事例
国産ジビエ先進エリアの北海道においては、早い段階でHaccpと同様のガイドラインである北海道Haccpというものが独自に設定され、道庁も積極的に推進してきました。結果、現時点で13の解体所が北海道Haccpを取得しています。北海道Haccpの取得によって北海道庁がオフィシャルに後押しできるのだそうです。
が、これについて道東のとある生産者さんは「うちの規模だととてもじゃないが対応できない」とこぼしています。基準にを満たすための設備投資ができないのだそうです。この点について北海道庁の担当者に質問したことがあるのですが、回答は「Haccp取得にお金はかかりません」という内容でした。設備投資と運営負荷に苦慮している現場と、取得手続きの費用について話している北海道担当者の間に若干の温度差を感じたのは言うまでもありません。
これはどちらが悪いというのではなく、ガイドラインを強化して行くと、必ずドロップアウト組が生まれるという話のわかりやすい事例。同じことが、近い将来全国的に多発する可能性があります。
Haccp準拠は本当に必要か?
Haccpは欧州が定めたルールであり国際基準という事になっていますが、現実の運用を見てみると欧州勢の貿易を有利に進める(他国の輸出を締め出す)ための側面が強いという声もあり、安易に盲信するのはちょっと違うのかもしれません。飲食店においても解体所においても運用するのは人であり、ガイドラインだけ厳しくしてそれが形骸化するのであれば、役人のためのガイドライン、HaccpのためのHaccpというありがちな結末になりかねません。(すでにHaccpコンサルみたいなビジネスが始まっています)
現在、合法施設の関係者が違法ジビエの猟師さんを悪く言ったり、逆に熟練ハンターが、合法だが未熟な解体施設を冷めた目で見ていたりと、ちょっとした分断が起きているようにも見えます。今後Haccpの有無で訳の分からないヒエラルキーが登場しないよう願うのみ..というのが現在の所見です。
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。