誰もが嫌がる排水溝の掃除。あの”ぬめぬめ”にはいったい何がひそんでいるのか?
各家庭に潜む闇の世界を解明すべく、ぬめぬめの微生物叢解析をForemaラボで実施しました。
目次
細菌たちの王国
バイオフィルムというもの
何度洗っても数日で復帰する排水溝の“ぬめぬめ”。これは正式にはバイオフィルムというもので、細菌によって作られています(代謝物といいます)。
これは細菌たちが外敵、主には他の細菌から身を守るために作ったバリアで、非常に強力です。では、人の家で勝手にバリアを作っているのは一体どんなヤツらなのでしょうか? さぞかし悪質な悪玉菌が潜んでいるのでしょうか?
300種類を超える細菌たちの群落
蓋を開けてみれば、あの”ぬめぬめ”の中にはなんと300種類以上の細菌たちが生息していました。排水溝のバイオフィルムは、極悪な1種類の細菌が作っているのではなく、暗くて湿潤な環境を好む排水溝の住人たちが共同で築いた都市国家のようなものでした。
糞便の場合、米粒1つくらいでだいたい100億個/200〜400種の細菌が含まれていると推定されています。排水溝も概ね同じと考えると、数千億はくだらない細菌たちがそこに安住している計算になります。
排水溝の住人の素性
プロテオバクテリア門たちの宴
排水溝のぬめぬめから検出された300種を超える細菌たちは、いったいどんな素性の連中なのでしょうか? 簡単にご紹介します。
ぬめぬめ王国の主な勢力は「プロテオバクテリア門」という、土中や沼地などに生息するグループで、中でも、特に過酷な環境で生き残るタイプの細菌たちが目立ちました。大腸菌やサルモネラ菌、赤痢菌なども「プロテオバクテリア門」に含まれますが、これらは生物を宿主として生存しているのに対し、ここではほぼ検出されていませんでした。
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細菌たちのニッチ
では、排水溝の細菌たちは、なぜこんなところに生息しているのでしょうか?
それは長い進化の過程において、表世界の過酷な競争を避け、ようやく安住の地を見つけたのが冷暗所だったという事なのでしょう。こういう隙間領域での棲み分けを生物学的用語でニッチといい、世に言うニッチの語源となっています。
”ぬめぬめ”は排水溝の中だけではありません。
口の中の歯垢や歯石もバイオフィルムの一種で、歯周病菌が根絶しづらいのもバイオフィルムの防御力によるものです。
また、バイオフィルムではありませんが、腸内の”ぬめぬめ(腸内粘膜)”も外部からの病原体に対する防御線として機能しており、この”ぬめぬめ”には宿主にとっての防衛部隊たる有益な細菌たちが待機しています。
腸内粘膜と細菌
リーキーガットという災難
腸内の防衛ラインとして機能している腸内粘膜(ムチン)。何らかの事情で腸内バランスが崩れると、このぬめぬめが分解され、防衛ラインが崩壊し始めます。腸壁が無防備になった事で、それまで腸管にいた細菌たちが腸から漏れ出し、体内に浸出を始めると状況は戦乱を迎えます。
それまで無害だった細菌たちが、場所を変える事で急遽重大な感染源へ変わってしまうのです。(リーキーガットと呼ばれています)
これは、その細菌が悪質というよりも、居場所が変わってしまったために意味合いが変わってしまったという事です。
居場所を間違えると不幸が起こる
かの有名な大腸菌も、病原性があるのはごく一部の株のみで、基本的には無害な存在です。しかしながら、腸壁から漏れ出すなど、大腸以外の場所で感染症の原因となります。
ビフィズス菌の一部や、有名な某乳酸菌も、実は感染症の一因になるということはあまり知られていません。
これだけを見ても、善玉菌、悪玉菌という考えが、必ずしも正確ではないという事がお分かりかと思います。
重度のアレルギーなど、不具合のある人や犬,猫の腸内では、腸内細菌の勢力図が大きく崩壊し、いるべきではないグループ、増え過ぎるべきでないグループが極端に増えているといった事例が多々あります。
話を戻しますが、排水口の”ぬめぬめ”は、そこにいるべき細菌たちがひっそりと生きているという、命の証なのでした。手や口に入らないよう、注意しましょう。
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株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。