とても気になる鹿肉の話。ペット用と人間用の違いって何?

最終更新日:
公開日:2019/06/02

この数年のジビエブーム(※官製ブームの側面が強い)で食材としての鹿肉の認知は随分と普及してきました。一方、愛犬家にとっても鹿肉が優良食材であることは常識となりつつあります。では、人間用とペット用の違いはどこにあるのでしょうか?

ペット用鹿肉と人間用鹿肉の違いについて

ペット用の鹿肉
ペット用の鹿肉。モモやスネである事が多い。

実は明確な線引きはない

いきなり結論から書くと、ペット用と人間用に明確な線引きはありません。一般的には質の低いお肉がペット用に分類されるのですが、ではどこからが質が低いのかについては生産者の主観でしかありません。その根拠も実に様々なのですが統一見解が存在しないので、産地によって基準が異なっているのが現状です。

参考記事:ペット用の鹿肉・猪肉について

一般論としては硬いお肉や血が回ったお肉はペット用に分類されますが、高級部位とされるロースとヒレ以外のお肉(モモやスネなd)がそのままペット用とされることも多いです。これは実にもったいないことです。

また、ブロックやスライス加工した後に残った端肉は、牛肉では「切り落とし」として普通に人間用に活用されますが、鹿の場合ペット用直行という事が多いです。というか鹿肉や猪肉で人間用の切り落としというのはまだお目にかかった感がありません(※)。

※実際にはあるとは思いますが数は多くないと思われます。背景として人間用=高級飲食店用途 という限定用途しか存在しない事が大きいように思います。

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施設の目的の違い

九州のとある解体処理施設。昔ながらの猟師さんのところ。

鹿肉を人間用途に出荷するには、解体処理施設の設備や衛生基準において飲食店と同様のものが求められます。保健所の認可をクリアしなければならず、また近年中にHaccp準拠が必須になるため、人間用出荷のハードルは高くなっていきます。

一方のペット用においては、いまのところ厳密な基準はなく、核処理施設が自主ルールで出荷しているように見えます。(一応ガイドラインは存在する:非常に厳格で現実的でない)

Foremaから出荷している産地の中にも少数ながら「ペット用」に特化した施設があります。では、そこの衛生基準が人間用の施設よりも劣っているかというとそんな事はなく、むしろ人間用より厳しい施設もあります。というのも昨今のペットオーナーの求める水準は人間よりも厳しい場合が多く(ペットは子供代わりなので亭主よりも待遇が良い)、よってずさんなものは市場から排除されてしまう傾向が高まっているように感じています。

では、品質が高いにも関わらず、なぜペットに特化しているのか? それは地理的な問題や一次処理施設の事情があります。

地理的な問題

九重町の山林
大分県南部、九重町の山林。北部とは明らかに山の相が異なる。

人間用出荷の場合、仕留めてから90分もしくは120分以内に解体処理をしなければならないという保健所ルールがあり、それ以上経過したものは出荷できません。そもそも処理施設で受け入れる事ができません。

逆に言うと移動距離最大120分以上離れた場所で仕留められた個体は全て出荷NGという事。

山奥で仕留めて血抜き処理をし、担いで林道まで降り、そこから軽トラで解体所まで運ぶ。そうしていると90分~120分というのはタイムアタックで、高齢化が進んでいる猟師さんらにとっては非常にハードルが高い事が分かります。

最初から120分圏外のエリア(大半の地域)で捕獲されたものは食用としての活路が断たれてしまい、「駆除→埋蔵処理」という無益な殺生の大きな要因になっているように思えます。

お肉の用途をペット用に限定した場合、この90~120分ルールが撤廃され、活用できる個体数が大きく増えるという恩恵があります。(そういう施設も自主規制で24時間ルールを別途制定するなど、衛生基準/品質維持に注力している)

一次処理施設の問題

中国山地の奥、鳥取県中東部。

施設からの距離の問題から派生して、一次処理施設の問題もあります。地域にもよりますが、本格的な処理施設まで距離があるため、その前段階として一次処理施設で対応する場合があります。一次処理は、例えば山奥や島嶼部など、本格的な施設ではないけれど、出荷用にむけた処理(血抜きや内臓の除去~冷蔵熟成など)を行う場所で、ここから地域の中核となる規模の大きな解体処理施設(人間用に出荷可能な衛生基準)に搬入するケースがあります。この時、一次処理施設が古い(昔の猟師さんらの自宅小屋など)という理由で人間用への出荷が厳しい場合があります。

こういう時も二次処理施設が最初からペット用途に限定した施設として運用していれば、保健所に気をつかう事なく堂々と出荷に向けて運営ができます。Foremaにもこうした二次施設からの出荷がありますが、実際の衛生基準は人間用と全く同じ(もしくはより厳しい)です。

部位が異なっている

これは人間用に高級店に出荷するクラスの鹿肉(ロースなど)。綺麗な赤身で打撲による鬱血もない。

鹿肉で飲食店に最も人気のあるのはロースで、次にヒレ。ほとんどの注文がここに集中します。モモ肉やスネ肉の需要は比較的少なく、特にスネはペット用に流れやすい傾向があります。ロースが人気なのは柔らかいから。

弊社でも時々サンプルとして送られてくるお肉をしばしば試食しているのですが、人間用として送られてくる上質のロースの柔らかさは高級食材そのもの。ただし「柔らかい」という価値観は高級料理(特にフレンチ)に由来するもので、自然界においては重要なファクターではありません。

この、重要ではないファクターの存在によって人間用とペット用が区別されている部分は大いにあります。犬には臼歯がなく、そもそも咀嚼というものをしないため、噛み切って丸呑みが本来の食のスタイル。人間用の「柔らかい」という本来あまり重要ではない価値観で高級食材とペット用とが分断されているというのは極めて自然な住み分けと言えそうです。(それだけで価格が数倍変わる)

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人間の主観

徳島県産の鹿肉。ブロック状態。これは人間用。

 

一番大きいのが人間の主観です。ペット用に分類されるお肉の多くは、血が回っているとか打ち身がある、といったディスアドバンテージがあります。食べてみると、いや解凍した時点で実際に血っぽい生臭さがあります。

ただしここは人間の主観です。

犬はむしろ好むという場合もあります(ドッグフードしか食べた事がない場合は嫌う事も)。また、この血っぽさは、水洗いするとほぼ除去され、湯がけば人間でも問題なく食べられます。この生臭さの有無で価格に数倍の開きが出ます(=高級店用途かペット用途の二極化)。

余談ながら、私たちもペット用食材をしょっちゅう試食しています。その上で、大衆店で出される「いわゆるジビエメニュー」を食べた時、「あぁ、ペット用だね」という事はしばしばあります。これは大衆店の質が低いというよりも、ペット用の質が高止まりしているというのが実態のように思えます。高級店クラスかそれ以外かという二極化の結果だと感じます。

鹿肉ペット用 大分
「Forema」および「ペットさん定期便」で扱っているペット用のお肉(野生の鹿・猪)について「生食用ですか?」「ヒューマングレードなの?」といった問い

その他の要因 脂肪やスジ、筋膜など

ペット用の鹿ミンチ。スタッフ間でも味見をしたが人間が食べても違和感はない。ややパサついているという点で、高級店向けには出荷できないだろう。

お肉以外の部位として、スジや筋膜などもペット用のお肉として、部位混合のお肉にミックスされる傾向があります。この場合、ミンチにされる事が多く、実際に試食しても美味しいという真相があります。

栄養分としてもスジや筋膜がゴミという事はないので、ミンチは食材活用の観点から見るととても有益な存在だと言えます。ただ加工賃がかかるのでそこが難点だと言えます。

鹿肉需要と今後について

人間用途は限られている

鹿肉の活用が進められているのは農水省による施策が大きいです。省としては、社会問題である害獣による農作物被害の軽減と、仕留めた野生動物の資源としての活用は急務であり、社会に向けて鹿肉消費を呼びかけていくのは当然の流れだと言えます。

一方で食文化は呼びかけだけで簡単に培われるものではなく、また価格も高級和牛並みに効果であるならば、民間で人間用途に鹿肉需要が増える展望は絶望的とすら思えます。

以前弊社で某国への輸出を試みたのですが、最終的には国家間の通商の取り決めに関わる問題が浮上するため、農水省ではなく経産省の後押しが必要になったのですが、両省庁の間にそういうパイプを構築することからスタートしなければならない事を考えると絶望的な気分になり、断念した経緯があります。

世界的には鹿肉不足

海藻を食べる鹿
海藻を食べる鹿。撮影は10月初旬でまだ餌の多い時期。日常的に食している様子。

意外な事かもしれませんが、世界市場では鹿肉は不足しているそうです。ただしこれはペット用の話。人間用は知りません。ペット用ではニュージーランドの鹿牧場が一大供給地でしたが、昨今鹿肉を使用した高級ペットフードの人気が高まった結果在庫が不足し始め、原価高騰に至っているのだとか。

あくまでメーカーの言い分で厳密な統計資料は見当たらないのですが、国内でも鹿肉争奪戦みたいな状況が起こっている事を考えると、あながち間違いではないように思えます。

ペット用では利益は出ない

鹿肉ジャーキー
鹿肉ジャーキー 50g

鹿肉人気が高まり、ペット用の需要が高まっているのであれば産地は大喜びかもしれません。が、実際にはなかなかそうもいきません。ペット用の単価は低く、産地側に利益が残る構造には至っていないのが実情です。

理由としては、品質は人間用の8割、販売価格は2割、という価格構造の問題です。今のところ市場原理でこのようになってしまっている(※)ので、産地としては補助金や助成金、その他地元有志の活躍や地域おこし協力隊の活用でどうにか乗り切っている場合が多いです。

※大手のオンラインモールでありえない価格で安売りされている事も一因。闇流通としか思えない価格しばしば散見するが、採算度外視の低価格は誰も幸せにならない。

言い換えれば税金で賄っているのですが、とは言え税金でそこに雇用が生まれ、人の移住に繋がったり新たな産業に広がっていくのであれば、それは公金の正しい使い方なのは間違いありません。重要なのは持続性と発展性です。

Foremaでは、これに対してできるささやかな尽力として、単価向上につながる商品開発の支援や、飲食店への販路拡大のサポートを行いながらともに模索を行なっています。

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