ニホンオオカミの絶滅は、鹿害が増えた一因としてしばしば指摘されます。
しかしながら、そもそもニホンオオカミとは?
(写真: By Various Contributors – http://www.baxleystamps.com/litho/meiji/chry_1_2.shtml, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=12276146 )
ニホンオオカミは世界中に生息するオオカミの亜種で、本州、九州、四国に生息。北海道のエゾオオカミとは亜種という間柄です。
ニホンオオカミとは何者か
1905年を最後に正式な目撃例がなく、以後50年間生存が確認されなかった為に、絶滅種と認定され、今に至っています。
昔から人や家畜を襲う害獣として忌み嫌われる一方、山の神様として崇拝する地域もあったとされます。
昔話や童話などのイメージから、巨大な肉食獣のイメージがありますが、実際には中型犬程度の大きさで、オオカミの遠縁とされるシベリアンハスキーよりも若干小さいくらいです。
By Utopialand – self-made (http://www.utopialands.com), GFDL, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3270359
なぜ絶滅したか
伝染病による感染
ニホンオオカミの絶滅のきっかけは、江戸中期ころに海外から流入した伝染病だったとの説があります。時節柄、長崎経由の感染と思われますが、これによってニホンオオカミの生息数は減少に向かいます。同時に、感染したニホンオオカミに噛まれた人や家畜が病気になったり、死に始めたため、オオカミの立場は一気に悪化。駆除の対象として圧迫されていく流れができあがったようです。
By Isaac Titsingh – Koninklijke Bibliotheek Bijzonderheden over Japan, behelzende een verslag van de huwelijks plegtigheden, begrafenissen en feesten der Japanezen, de gedenkschriften der laatste Japansche keizers, en andere merkwaardigheden nopens dat rijk, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=7712717
軍用-村田銃の登場
明治に入ってからは山林の開拓が進み、生息エリアが急激に減少。明治14年あたりからは軍用の村田銃が民間に払い下げられはじめ猟師間に流通。ニホンオオカミがいよいよ追い詰められる事になります。
By PHGCOM – Own work by uploader, photographed at Yasukuni Shrine, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=7357335
野生動物は個体数が一定の数値(200頭が定説)を下回ると一気に減少へ突き進むと言われます。当時の猟師たちも、まさかオオカミが絶滅するとは思っていなかったと思われます。が、気がつけば全国の山林からニホンオオカミの姿は消え、明治末期の1905年を最後に”公式には”生存が確認されていない事になっています。
By 東城鉦太郎(元治2年-昭和4年) – Original upload: en.wikipedia 01:00, 9 October 2004 . PHG, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=48156
西洋の価値観も背景に?
1905年と言えば、かの日本海海戦で日本海軍がバルチック艦隊に圧勝。後進国の日本が先進国へと一気に躍り出た年でもあります。日本の躍進がいわゆる『文明開化』の賜物である一方、ニホンオオカミの絶滅は、その負の側面を象徴しているとも言えます。ニホンオオカミだけでなく、同じ時期にニホンアシカも西欧的な乱獲が横行し個体数が激減。絶滅へ向かっての転落が加速していました。(この時期の乱獲には軍需、特にロシアへの出兵を想定した防寒需要がありました)
明治以降の西洋文明導入路線が100年近く踏襲された結果として、今の獣害があると言っても過言ではないように思います。
ニホンオオカミの生存説
さて、絶滅したとされるニホンオオカミですが、絶滅が認定された後も声を聞いたとか、実際に見たとの報告がされています。が、詳細がはっきりしておらず、たいていは「あれは犬ではなかった..」というような内容で、なんとなく「まだオオカミがいるのでは?」という雰囲気だけが残されています。自然観測用の自動カメラが高性能化し始めた90年代あたりから”それらしいもの”が写真にも撮影されはじめ、物議を醸しながら今に至っています。
なお、2000年前後から、主に北海道でオオカミを復活させようとの案が浮上しています。大陸から輸入して野に放つという試みです。国内では前例がないため、慎重に議論が進んでいます。
賛成派、反対派、それぞれが自然とオオカミを愛しているにもかかわらず学閥論争やイデオロギー論争の様相を呈しており、非常に悩ましい状況だと言えます。
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。