「Forema」および「ペットさん定期便」で扱っているペット用のお肉(野生の鹿・猪)について「生食用ですか?」「ヒューマングレードなの?」といった問い合わせが増えています。ここでは、いわゆる「生食用のお肉」について書きたいと思います。ペット用の野生の鹿・猪という前提でのお話です。
生食用のお肉とは何か?
生食用という厳密な定義は無い
まず、生食用のお肉について。(生食:せいしょく と読みます)
結論から書くと、そういうものは特にありません。
世に出回っている野生の鹿・猪において、生食用という決まった定義はなく、生産者もしくは販売者がそれぞれ勝手に言っているのが実情です。
もちろんそれ自体は法的にも問題はないと思われますが、「生食用」の表記を真に受けた消費者側が「安全な生食用のお肉が存在する」と勝手に思い込んでしまっているのが現在の状況です。
では生産者や販売者はどういう場合に生食用と言っているのでしょうか?
だいたい下記の状況において生食用とされる事が多いです。
いわゆる生食用パターン1. 業務用冷凍を経ている
業務用の一般的な定義はマイナス18度以下
一般的に言われる業務用冷凍庫は−18度以下のものです。中には−60度の、冷凍マグロレベルの冷凍を施す例もあるようです(=鮮度劣化を極限まで防ぐ)。業務用冷凍によってお肉についた寄生虫は死滅するとされており、よってこれが「生食用」の根拠にされることが多いです。
確かにリスクは大幅に減るので、個人的にはこれは妥当だと思います。では、−18度で本当に寄生虫は死滅するのでしょうか?
これについては熊本の保険環境科学研究所で行われた馬肉の実験で実際に証明されています(※)。なぜ熊本かというと、特産の馬刺しで食中毒が相次いだ件が背景にあるらしく、その解決策として業務用冷凍の有用性が検証されたとの事。
※馬肉中に含まれる住肉胞子虫の危害性消失条件の検討による生食用馬肉を 共通食とする食中毒事例の発生防止対策に関する研究
冷凍における寄生虫の死滅について
この時の実験では−20度 〜 −60度まで6パターンで試験が行われ、1〜58時間凍らせてその過程が調査されました。結果として寄生虫の死滅が確認されたわけですが、一連の結果を踏まえ、馬肉冷凍時の寄生虫死滅においては下記の目安が設定されています。
- -20℃(中心温度)で48時間以上の保持
- -30℃(中心温度)で36時間以上の保持
- -40℃(中心温度)で18時間以上の保持
ただしこの場合、細菌やウイルスは生き残ります。−60度の場合はだいぶ効きそうですが、微生物たちは少しでも残っていると解凍の過程で増殖し始め、常温(8度あたりが境界)になれば一気に増えます。その意味では消費者がイメージする「完璧に安全な生肉(※)」とはズレてくるとは思います。 ※そもそも、そんなものはない。あるとすれば人工培養した細胞肉?
いわゆる生食用パターン2. 純粋に新鮮なお肉
処理したての新鮮なお肉..
次に、人間が生でも食べられる、採りたて新鮮なお肉を「生食用」としている例もあります。この時点で、上記の−20度とは真逆を行っています。
ここでの判定根拠は衛生基準ではなくお肉の品質であることが分かります。実際、馬肉や鹿肉は「生が一番美味い!」という人も多く、特に鹿においては厚労省が注意喚起している昨今においても人間による生食は密かに横行しています。
鹿は体温が高くてクリーンなお肉?
馬や鹿は、続けて書くとバカとなりますが、これはひどい話です。で、これらは体温が高いために寄生虫や細菌・ウイルス保有のリスクが低いという説もあり、鹿においては「自然界の中でも最もクリーンなお肉」との表現も存在します。ただしあくまで他の動物と比較した相対的な話であり、絶対的にクリーンというわけではありません。
生が一番美味い!といって食べている人たち(大半が狩猟関係者か料理人などの玄人)もそれを承知で食べているわけで、(玄人ではない一般的な)ペットオーナーが求める「生食用」とはだいぶ意味合いが異なります。
いわゆる生食用パターン3. 人間が食べても良い品質のもの
人が食べても安全な品質
いわゆるヒューマングレード。これを根拠に生食用と言っている関係者が多い印象です(あくまで印象ですが..)。
人間用に処理しているお肉の端肉や硬い部分、少しランクが劣る部分や個体などがペット用に回ることがあります。普通に人間が食べるものなので品質も良く、捕獲ルールも人間用のものなので、品質は当然良いです。
判定基準は品質であり、同時に衛生基準でもあるため、最も安全だと言えます。飲食店では生食は禁止されているので、これを生食用と言ってしまうと色々と語弊があったりなかったり…。
とは言え、通常は必ず業務用冷凍を通過するのでリスクは最も低いと言えます。Foremaのお肉は基本的にここに属しています。
- 内容:500gパック x 2
- 種類:ホンシュウジカ / キュウシュウジカ / エゾシカ
- 産地:西日本/九州各県/四国各県/長野県/北海道
- 部位:切り落とし混合
いわゆる生食用パターン4.綺麗なお肉を出している
実は見た目が一番大切??
人間用にしては多少劣るが加工品(ソーセージやドッグフードメーカー用)にするには見た目や質が良くてもったいない、そういうお肉は産地から生食用のお肉として出されることがあります。毛などの混入もなく、見た目も綺麗なので、飼い主さんにも安心して見てもらえるレベルのものです。
ペットの視点というより、飼い主さんの視点をクリアするかどうかという判断によるもので、ある意味一番リアルです。この気持ちはよく分かります。
が、飼い主さんらが求めている、安全なお肉なのか? という要望とはやはり少しずれています。そしてここに事の本質があります。
現場のエンドユーザーの価値観に大きな乖離がある
産地の人たちは、犬は生肉を食べて当たり前、という前提であることが多いです。(実際には「本当は生食OKと言いたいけど、いろいろうるさいから言えんのよね・・」という産地もしばしば)
野生動物だから当然細菌やウイルスの保有可能性は大いにありますが、犬にとっては小さなリスク、という前提です。常に自然や野生動物と隣り合わせの山間部の価値観です(※)。なのであとは見た目がきれいかどうか、血が多く回っていたり匂いが強いなど、顧客に不快な思いをさせないか? が重要なポイントとなります。
※健全な個体であれば大正解! そしてペットショップ経由の犬が必ずしも健全ではない現実こそが悲劇の原点
一方の都市部では、お肉は焼いて食べるもの。生で食べられるお肉は当然そのような処置もしくはグレードになっているに違いない、という価値観。なので誰かが生食用として売っていると、それがどういう意味の生食用であれ、飼い主それぞれが独自に描く生食OKの定義に照らし合わせて受け止めているのが実態のように思えます。
「売り手が言う生食用」と「買い手が思う生食用」は、必ずしも一致しているわけではありません。
Foremaにおける生食の考え方
企業としては生食は推奨していません。同時に否定もしていないというスタンスです。ただし猪においては、オーエスキーウイルスの保有可能性もゼロではないため、加熱を推奨しています。
生食でしか得られない栄養素(酵素)はありますし、オオカミと犬は亜種の間柄。生肉はもっとも自然に近い選択である一方、100%安全なものではないと理解することが重要です。生食用のお肉とアナウンスする事によって、必ず「あ、100%安心なんだ!」と思う人も現れ、中には何らかの事故につながる可能性も否定できません。
よって、生食は知識のある上級者が各自の判断で生食を始めるのが良いのでは? というスタンスでいます。
尚、Foremaで扱っているペット用のお肉の品質は人間が食べられるレベルで、スタッフも時々試食と称して結構食べています。
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。
お世話になっております。
オオカミの再導入の記事やジビエの記事など、
非常に興味深いトピックが多く、面白く読ませて頂いています。
さて、ご提案なのですが、
各ページにTwitterボタンやいいねボタン(フェイスブック)など、
SNSとの共有がしやすい仕組みを導入されるのは如何でしょうか。
これほど、興味深いトピックならば、
SNSでの共有もかなり期待でき、啓蒙活動に役立つのではないかと思います。
無礼な提案かもしれませんが、ご検討いただければと思います。
コメントありがとうございます。SNSボタン、検討してみます。
今後も記事の品質を向上させながら更新していければと思います。
ご興味を持って頂き感謝します。