広島県北のハゲ山、深入山で夜間の登山を行ってきましたので簡単にレポートします。
初級登山に最適な山
深入山は1153mで、広島県内においては高山の部類。が、麓の駐車場の時点ですでに標高が700mくらいあるため、実際に登る標高は450mほど。昼間であれば1時間ほどで山頂までたどり着けるため、お年寄りや子供を含めた初級登山者で賑わうのどかなスポットです。ただしツキノワグマが出ます。
木が生えていないのは毎年春に山焼きが行われているからで、私は勝手に「孤高のハゲ山」と呼んでいます。今年は雨天で中止になりましたが、この山焼きのおかげで冬はバックカントリーの聖地となっています。
ちなみにドローンだと3〜4分で山頂に到達します。
夜の深入山へ
今回わざわざ夜中に山に登ろうとした理由は天の川の撮影のため。どうしても空気が霞んでいる春先で、かつ時期的に天の川が上るのが遅い(深夜になる)ため、雨上がりで快晴のこの日、できるだけ標高が高くかつ都市部から離れた場所ということで決行を思い立った次第です。
が、この日もダラダラと仕事を、いやなかなか仕事がはかどらず、広島市内の事務所をでたのが夜の9時頃。そこから高速道路に乗って山奥へ走り1.5時間。深入山のふもとに到着です。
月明かりの山を登る
この日は4月の後半で、連日20度超えの暖かい日が続いていた気持ちの良い季節。にもかかわらずなぜか気温がぐんぐん下がり、麓の時点で1度。念のために真冬の仕様を用意しておいたため、そのまま登頂を開始します。ちなみに2ヶ月前に登った時と全く同じ格好です。
今回計算ミス(というか準備不足)が2つありました。一つは月が煌々と輝いている事。これでは天の川は見えない。この時点で全てが終わった感があります。
が、諦念こそが真の敵。数時間待てば月は沈むはずなので、それまで待つ方向に変更することに。変化を恐れてはいけません。見ればあたりの山野は深夜とは思えないほど明るく、風光明媚とすら評せる趣。山への導きを感じます。
もう一つの計算ミスは、山焼きが行われていかなった事。今年は雨で中止になったっぽいです。これによって猛烈に繁茂した熊笹などが表層を覆い、(夜でよくわからないので)正面突破のショートカットが不可能に。遠回りな登山道を登っていく事になりました。
季節的に動物たちが活動しているはずですが、急激に冷え込んだためか動物の気配なし。遠くでフクロウの声だけが響きます。
そうこうしているうちに向かいの山から雲(夜霧)がモクモクと湧き上がります。それはすぐに山肌を駆け下りてあたりを覆い始め、周りが急に白く濁っていくのでした。
深夜の山奥で1人霧に巻かれるというのは決して気持ちの良いものではないのですが、しかし深夜の山奥自体が実は気持ちの良いものであるという相反する事実があります。もちろん危機管理はしっかりしておくべきなのですが、少なくとも「夜の山?怖い〜」というのは必ずしも正解ではなく、一歩踏み出して自らが闇に溶け込むと、それはそこからしか感じられない自然の風貌があったりします。まぁ実際には怖いんですが。
そんな夜の山をガシガシ登っていくと霧の海より高い標高までたどり着き、見下ろせば雲海の様相。気がつけば山頂はそれなりに近くなっているようでした。
深入山山頂 天の川撮影
山頂付近は表土は吹き飛ばされ、岩場と化します。1mくらい雪が積もっていた頃の方がむしろ歩きやすいほどですが、ともあれ零時ちょうどに山頂へ到着。月はいまだ煌々と輝いているので2時間くらい時間を潰して月が降るのを待ち・・。
が、山頂は強風が吹き荒れ、フードをかぶって完全防備にしなければ耐えうるものにあらず。この山は単独でそびえているせいか、いつも風が直撃して頭皮は不毛地帯に。これは山焼きとは関係ない天然のハゲなのだと推察されます。原理原則は人間と同じ。
そんな中で星空を撮影。月が消えるまで待つのは不可能という事で、天の川は諦め、山頂での記念撮影に徹しました。
月明かりと長時間露光を組み合わせると夕暮れのような風合いが生まれ、はるかかなたの広島市街地の光までをセンサーが拾う事で、狙わずしてトトロのワンシーンのような景色となりました。
実際にはあたりは真っ暗で、あくまで長時間露光で撮影/現像したファインダーの中だけの世界です。
暗闇の下山
極寒強風の中、それでも1時間半くらい山頂に滞在し、低温でカメラバッテリーも持ちが悪くなってきたので下山を開始しました。この時いきなり道を間違えます。なんで間違えたのかわかりません。月の方角が変わっていたからかもしれません。
しばらく降りて間違いに気づき、また登る事を考えると気が進みません。ここは楽をするために道のない斜面をトラバースして本来の道に・・。というのが遭難のよくあるパターン。傾斜の緩い初級の山とはいえ、夜の岩場で転倒すれば滑落、そしてさらに厳しい展開は十分にあり得ます。という事で大人の理性で元来た道を再び登り、本来の下山道に軌道修正が完了です。
ここで無理をしなかったのは、少し前に読んだ羽根田 治氏の「単独行遭難」で同じような場面による遭難事例を読んだから。しかもそちらは熟練者で昼間。先人の教訓を生かすのが今を生きる我々の務めです。
この後、月が消え、山肌は真っ暗に。景色は一変します。登りよりも下りの方が足にくるわけですが、夜の場合、さらに登りよりも下りの方が足元が見えないという恐怖が加わります。ヘッドランプの向きを変えても限度があり、首を結構下に向けないと直下が見えないので、上りと下りはランプの種類を変えるなどの工夫がいりそうです。
ここでもう一度道を間違え、200mくらい引き返して事なきをえたわけですが、一度弱気になると山に飲み込まれてしまいます。後ろから誰かに追いかけられているような心持ちになったり、山奥なのに子供の声が聞こえたりなど、森羅万象に簡単に弄ばれてしまうのが人間。所詮は自然界最弱の存在でしかないのだと改めて思い知らされます。
尚、夜の登山を検討している人は、下記のシリーズのご一読を。勉強になります。
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。