エンテロバクター科(大腸菌など)

善玉菌を増やしたいという誤解

最終更新日:
公開日:2022/01/21

「善玉菌を増やしたい。」「どの菌がいいの?」
そういったお声をしばしば頂きます。お気持ちすごく分かります。が、問題はそう簡単でもありません。

いわゆる善玉菌の別の顔

乳酸菌でも感染症の原因となる

世にいう「善玉菌/悪玉菌」というのは一昔前に作られた言葉で、物事を単純化しすぎている側面が強いように思います。よく知られた善玉菌が、実は感染症の原因にもなっているということは普通にあります。

例えばフェカリス菌として知られるE.フェカリスは尿路感染症をはじめとする感染症の原因菌にもなり、また薬剤耐性を持ちやすいため、お医者さんにとっては悩ましい存在でもあります。(一般的に言われるフェカリス菌は加熱処理をした死菌)

善玉菌として有名なL.サリバリウスも敗血症の報告があったり薬剤耐性を持って過剰に増殖するなどの報告があります。

感染症以外にも、例えば世界的に商品化されている有名な「某善玉菌」が、特定の細菌グループとの組み合わせで多発性硬化症を悪化させるという報告も登場しています。

酪酸産生菌でもトラブルの要因になりうる

酪酸産生菌とは、俗に言う「酪酸菌(らくさんきん)」の事で、腸内粘膜の強化や炎症抑制など、その有益さは乳酸菌以上かも?? と近年期待されている存在です。

基本的には酪酸産生菌の保有は有益なのですが、例えばA.ハドラスという細菌はマウスの大腸炎を悪化させたという報告があります。人間における研究でもIBD(炎症性腸疾患)の大きな要因になっている可能性が指摘されています。

整腸剤として有名な「某」も、一部にボツリヌス毒素を出す株が存在するということが、すでに20世紀後半には報告がされています。この「某」は、腸内環境が破綻しかけたような犬/猫の腸内で多めに検出される事例が複数あります(弊社解析事例)。そういう場合、近縁種のC.ディフィシルやC.ボツリナムなどが一緒に増えている傾向があります。

いわゆる悪玉菌たちの別の側面

大腸菌は悪役ではないかもしれない

大腸菌=病原菌という認識は広く浸透しているように思います。事実腸内環境の悪化に深く関与している事例は多いです。とは言え、基本的には腸内の常在メンバーであり、悪さをするのは一部の株に限定されています(その他、居場所を間違えた場合など)。

大腸菌グループは腸内のエネルギー源を生み出しているという研究報告や、外部からの侵入者を迎撃しているという重要な役割もあります。

プロバイオティクスの使用で他の有益なグループが増加するのに合わせて大腸菌も増加(というか回復??)しているような事例もあり、絶対悪というものではありません。

炎症を促進する細菌にも存在意義

R.グナバスという細菌は炎症を促進させ、クローン病(IBDの一種)に深く関与する存在です。この細菌の激増によって腸内はメタメタになりアレルギー症状の悪化や下痢に直行してしまうのですが、一方で炎症によってウェルシュ菌の定着を抑制するという側面もあります。(=適度な存在は必要)

また、R.グナバスは有害な二次胆汁酸のデオキシコール酸(DCA)を分解して有益なUDCA(ウルソデオキシコール酸)に変えるという芸当を持つ数少ない存在でもあります。DCAをUDCAに分解する働きをする細菌としては、やはりIBDやリウマチなどの自己免疫疾患に関与するC.アエロファシエンスがいますが、これも炎症を促進させる細菌です。

一つの側面だけを見ると有害で、たしかにその局面では極悪だったとしても、平時はそれなりに必要な役割を果たしているという事例は多々あります。これは細菌だけではなく、自然界全体に共通して言える事でもあります。

善悪二元論はゴミ箱へ

善玉菌/悪玉菌という考えは一旦頭から消去することで、微生物たちの世界の理解が進みます。

腸内にある世界は自然界の生態系と同じものであり、全体に気を配って愛してあげることで必ず宿主に恩返しをしてくれます。

悪役のコヨーテを駆除すると森から鳥が消えた、悪役と思っていたハゲワシを駆除すると逆に疫病が激増した、殺虫剤で害虫を駆除したら海からウナギがいなくなった..。

自然界を善悪二元論で捉えるとろくなことにならないので、一歩引いて、全体を緩やかに受け止めてあげるのが最良です。腸内においてもそれは同様です。

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