Forema では鹿肉と猪肉をペット用に出荷しています。その中で気づいた、柴犬と猪肉の相性について考察を述べたいと思います。
目次
ペット犬全体としては鹿肉需要が強い
害獣駆除の課題軽減という背景から、Forema では基本的にペット用の鹿と猪のみを扱っています。極めてシンプルな構造です。
全体で見ると鹿肉需要の方が多く、ユーザー数で見ると鹿:猪=6:4くらいの感触です。
が、最終的な出荷量としては5:5くらいに落ち着いています。理由は、一部の犬種が猪肉需要を高めているから。それが柴犬です。
柴犬は猪肉が好き?
多くのForema ユーザーさんが、鹿と猪を半々、もしくは鹿のみ、鹿多め、といった注文をします。犬種は様々です。
一方、猪のみ、猪多めで注文される方は、犬種の幅がずっと狭く、大半が柴犬だったりします。
いくらか聞き取りなど行ったのですが、アレルギーなどの事情を除けば「純粋に猪が好き」という背景のようでした。
では、なぜそのような偏りが起こるのでしょうか?その前に、なぜ他の犬種は鹿肉に需要が傾くのでしょうか?
鹿肉需要が高めの背景
愛犬の食事に鹿肉を導入する主だった背景として、下記があげられます。
- 獣医さんに勧められた
- ブリーダーさんに勧められた
- 知人やSNSで聞いた
また、きっかけとしては
- アレルギーの疑い
- 老化による食欲不信
- その他療法食の必要性
など。
昨今ではSNSによる情報収集で、鹿肉にチャレンジする情報の入り口が多数用意されている状況です。その意味では、比較的初心者の方も多く存在する領域と言えます。
一方の猪の場合、少し事情が異なります。
愛犬に猪肉をあたえるきっかけ
猪は生息が西日本に偏在するため、西日本の郊外もしくは山間部寄りの地域の人は、「犬に猪をあげた」という”知人の話”を一度は聞いたことがあるはず。
一方で、実際に自分が愛犬に猪のお肉を与えるきっかけはそう多くはありません。事実、Forema で初めて猪肉に接したというユーザーさんは多いです。
導入しようとしたきっかけは、
- 滋養強壮
- 健康維持
- 長生きして欲しい
など、体づくり的な背景が多いです。
鹿が療法食的な捉えられ方なのに対し、猪はアスリート食的な背景とも言えそうです。
猪で下痢をする、おなかがゆるくなる犬が多い
猪肉が回避される大きな理由の一つとして、下痢があります。「よく食べたけれど下痢をした」とか「猪を食べるとお腹がゆるくなる」といった理由で鹿肉だけの選択にシフトする例は少なくありません。
これは、おそらくは猪に含まれる脂身の問題だと思われます。
猪の脂身は良質です。牛や豚よりも不飽和脂肪酸や(有益な部類の)飽和脂肪酸を多く含み、また脂身特有のギトギト感も少ないです。
とは言え、脂身のほとんどない鹿と比べればやはり脂身は多く、最初はこれが下痢の原因になると推察されます。実際にお腹の不調が起こる個体は1〜2割程度です(報告があったもの)。
なぜ起こる?猪の脂身で下痢になる事情
では、なぜ猪の脂身で下痢になるのでしょうか? 類似の現象は普通に人間でも起こります。焼肉を食べた後のお腹の不快感。これは、少量なら特に起こらないのですが、たまの焼肉ですからついつい食べてしまう。
カルビが美味しくて..ホルモンがおいしくて..部長がA5のお肉を注文してしまって.. などなど、まあ食べてしまうわけです。普段お肉を暴食しない人からすると、次の日のお腹は決して快調ではないと。
猪肉も同じ背景です。
ユーザーさんからの報告では
「とても喜んでたべてくれたけれど、必ず下痢になるんです..」
という事なのですが、実際にはとても喜んで食べたから下痢になったという側面もあったりします。
そしてこれは、だいたい時と共に解消していきます。爆食いではない限り。
野生動物のお肉の力はとても強い
野生動物のお肉は強いです。自然界の風味を宿した食べ物を食べ、それらの風味をそのまま取り込んでいます。よく走り、よく眠り、雨風に耐え、外敵に怒り、決して弛緩/堕落しない本来の生き物のお肉。
今でも狩猟採取生活を行うヤノマミ族やハッザ族などはお肉は週に1,2回程度なのだそうです(※)。それくらい力の強いのが野生動物のお肉なのだと思います。
市販のフードしか食べたことがない愛犬が、そうした「強いお肉」を慣れないうちに食べ過ぎてしまった場合、特にそれが脂身の多い猪だった場合に、初期のお腹の不調につながりやすいのだと感じています。もちろん合う合わないはあるので、しっかり見極めてあげる必要はありますが。
※現代に生きる数少ない狩猟採取民族のマイクロバイオーム(腸内細菌の組成)は健康維持の面から見ると極めて優秀なのだとか。狩猟採取民族の寿命が短いのは癌や心不全といった病ではなく、古来から現代まで多部族との衝突による怪我などによるもの。
それでも柴犬からの需要が高い
色んな犬種が、時に猪のお肉でお腹を壊し、初期に離脱していく中で、柴犬だけは安定して猪肉を好んでくれています。
これは、単に飼育頭数が多いのでそう感じるという事情もあるでしょうし、また柴犬を好む飼い主さんが「母ちゃん気質」で、割とどっしり構えているという事情もあるかもしれません。(←これ、ほんとに)
が、それとは別の背景もありそうです。それがオオカミのDNA。
柴犬とオオカミのDNA
世界中に数多存在する犬種の中で、野生のオオカミとDNAの共通項がもっとも多かったのが柴犬という解析結果があります。シベリアンハスキーよりも狼に近いというのだから驚きます。
世の中には、柴犬よりも狩猟に適したような犬種が多々存在しますが、実際には西洋の貴族が狩猟する際のパートナーとして改良し続けてきた背景があり、ウサギ猟に特化しているとか、ポインター用途だとか、クマ相手だとか、特定の機能をブラッシュアップしているものが現在の狩猟犬。生態系におけるの頂点捕食者のオオカミとは別物と言って間違いありません。
その意味では、昔からそこにいる犬の柴犬がオオカミに近いというのは納得できます。他にも秋田県やチャウチャウが遺伝的にオオカミに近いところに存在しています。全体を俯瞰するとオオカミ型DNAの犬は東アジアおよび北極圏由来の犬が多く、これは欧州のような恣意的な品種改良が進まなかった(良い意味で放置されてきた)という背景が指摘できそうです。
その意味では、シベリアンハスキーは目的を持って「そり犬」として改良された(もしくは結果的にそうなった)ために柴犬よりも若干オオカミから離れてしまったという推測も成立するのではないでしょうか。
ともあれ、柴犬はオオカミに近いから猪が好き、..なのかどうかは分かりませんが、他の犬種より肉食性が強く、必要とする脂身もやや多いのかもしれませんね。
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。