アッカーマンシア・ムシニフィラという名の腸内細菌がいます。2004年に発見された比較的新しい存在で、平均して成人の腸内細菌の1〜4%くらいを占めるとされています。
太っている人の腸内にはこの細菌の生息が少ない傾向があり、「痩せ」の秘密を握っている可能性がある、さらには肥満や糖尿病との関連性もあるとして密かに注目されている存在です。
目次
アッカーマンシアは増やせるか?
アッカーマンシア・ムシニフィラとは何か?
アッカーマンシア・ムシニフィラはウェルコミクロビウム門という、腸内細菌においては少数派に属する細菌で、先述のように2004年に発見された新しい存在。太った人に比べ、痩せた人の腸内にこの細菌が多くいる傾向があります。
彼ら(?)は腸壁を覆う粘液層を厚くする事がわかっており、どうやらそれが肥満抑制に貢献している様子。具体的には、腸の粘液強化によって「リポ多糖」が腸壁を超えて血液に侵入するのを防いでいるのだとか。
「リポ多糖」は一部の腸内細菌に付随している分子で、これが血液に入り込むと脂肪組織が炎症を起こし、脂肪細胞が過剰な貯蔵を行います。つまり肥満です。
リポ多糖(や、その他の望ましくない物質)が腸壁を通り越して体内(つまり内胚葉)に侵入するのを防いでいるのが腸の粘液で、その分泌を促しているのがアッカーマンシア・ムシニフィラということ。
アッカーマンシア・ムシニフィラがほとんどいない
私はこれまで複数回の腸内細菌検査を行ってきました。結果、私のマイクロバイオームにはアッカーマンシア・ムシニフィラの存在が平均よりずっと少ない事が分かっています。
悔しいです…。
なので「彼ら」を育成できるかについて取り組みました。
アッカーマンシア・ムシニフィラは食物繊維やオリゴ糖、そして青魚の脂などを好むらしく、日本の食そのもの。日本人がこの細菌を多く保有しているのがよく分かります。
で、我が身を振り返ると、確かにそんなに魚は好きではないなぁと。
あれば食べるけれど、無くても困らない。
というわけで、鯖の切り身を買って毎朝食べ続けました。サバは、海洋資源としてはマグロなどに比べるとまだ安定していますが、日本が最も多く漁獲している魚でもあり、資源量としては減少傾向にあります。そんな背景に思いをはせながら、大切に活用させていただきました。
鯖で腸内細菌は変わるか?
朝からサバを焼く毎日が始まりました。これは、切り身を前の晩から解凍しておき、フライパンにオリーブオイルをたっぷりたらして塩胡椒で焼き上げるだけ。オリーブオイルもアッカーマンシア・ムシニフィラの育成には貢献する要素ですね。
鯖以外は玄米と納豆。時々味噌汁とキムチ。夕食も玄米と納豆、サラダと焼き野菜、時々鹿肉、場合によっては猪肉(猪鹿ともにForema のペット用のサンプルが大量にあったのでそれを使用)。最終的には通算で10日ほどサバ生活を続けました。そして腸内細菌検査へ。
アッカーマンシア、増えたかな??
そしてアッカーマンシアは去った..
結論を書くと、アッカーマンシア・ムシニフィラは、増えるどころかいなくなってしまいました。
理由はわかりません。厳密にいうといくらかは残っているのでしょうが、検出から漏れるくらい数が減ってしまったようです。
彼らにとって青魚の脂やオリゴ糖、食物繊維が良いというのは、あくまで一つの側面であって、実際にはその他の様々な要因が絡み合っているという事なのでしょう。
腸内は複雑な生態系である
ここまで読むと、私は痩せ菌を保有しないデブ野郎で、成人病予備軍と見なされても間違いありません。が、実際には体脂肪は1桁で、食べても太らない痩せ形人間です。
前も書きましたが、私はクリステンセネラ科という別の「痩せ菌」を人より多く保有しているので、アッカーマンシアが不在の分、別の部分で「何か(※)」を補っているということなのかもしれません。
元々魚を多く摂取して生きてこなかったため、腸内細菌の組成が「そういうふうに」できていないという事情もあるのでしょう。
※それが何なのかはよくわかりませんが、すごく簡単に解釈すると、キツネが全然いない代わりにフクロウがたくさんいる、みたいなものでしょうか? (種類は全く別だが、ともに齧歯類を捕食/個体数調整する役割がある)
私が実施した今回の腸内細菌検査では、エクオール産生菌というグループが過去最大の勢力を示したのですが、これらは青魚由来ではなくイソフラボンを代謝する勢力なので、普通に考えれば納豆由来。ぱっと見だとアッカーマンシア・ムシニフィラとは関係ないのですが、「風と桶屋の理論」は腸内細菌分野にも幾らか存在しているのでしょう。
最後に、何かと持ち上げられがちなアッカーマンシア属ですが、パーキンソン病の患者の腸内ではアッカーマンシア属が増えているという研究報告があります。腸内細菌は「善玉/悪玉」で割り切れるほど単純ではないという事なのでしょう。
https://www.amed.go.jp/news/seika/kenkyu/20200714.html
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。