近年ではしばしば耳にするようになった「犬に鹿肉」というキーワード。鹿肉で元気になったという話もあれば、東洋医学の観点で夏場はお勧めしないという説もあり、一般論が定まらない部分があるのも確か。ここでは鹿肉のメリットと効果について、アンケート結果も踏まえて説明したいと思います。
目次
鹿肉のメリットとは
栄養面でのアドバンテージ
定番の評価ではありますが、鹿肉は高タンパク低カロリー。脂肪分が少ない上に鉄分豊富で、必須アミノ酸やイミダペプチドのバレニンを含むなど(※モモ肉の場合)、理想的なアスリート食だと言えます。
アレルギーリスクが低い
一般論ではありますが。鹿肉に対しての抗体を持っている個体は少なく(鹿肉に出会った事がないため)、よってアレルギー発症の可能性が他の食材よりも低いとされています。
免疫系の機能そのものに問題があった場合、鹿肉云々というより、食べ物の良し悪しが好転要因もしくは増悪要因として作用する可能性は大いにあるように思います。
薬剤(肥育剤や抗生物質)などのリスクが低い
日本で鹿肉というと、ほとんどが野生のものをさします。北海道などの一部で養鹿(ようろく)が行われていますが、数少ない例外と言えます。
当然一般の家畜と異なり、人工飼料(飼料に抗生物質が含まれる事が多い)やストレス環境、肥育剤、そして疫病予防や感染治療のための抗生物質投与 etc… とは無縁の環境にあります。
鹿肉で期待できる効果
以下、Forema の「ペットさん定期便」ユーザーアンケートの結果です。鹿だけでなく、鹿と猪双方の総合評価のため、あくまで参考として捉えてください。
以下、順に解説します。
食欲が増える
最も分かりやすいのがこれ。特に色の細くなって来た老犬が見違えるように食欲旺盛になったという話を多く耳にします。「ペットさん定期便」のユーザーレビューでも日常的に目にするコメントがこれです。
中でもドライフードから切り替えた場合などは目の色を変えて飛びつくという話も。ドライフードが全て悪いわけではないですが、ワンコの気持ちは分かります。
毛並み改善
以前、猟師さんが「寿命が来たと思っていた老犬が、鹿肉を食与えたら毛艶までピカピカになった」と言っていました。昨今ではその効能が一般のペットオーナーの間でも共有され始め、鹿肉にチャレンジする目的の一つになっているように思います。
毛艶は健康のバロメーター。目で見て分かりやすいので飼い主さんにとっても与え甲斐があるのだろうと思います。
体力増進
良いものを食べれば体力がつく。鹿肉を与え始めて以後、ドッグランなどで「常連さんたちから驚かれた」という話も聞きます。食欲増進とセットなのだろうと思います。
涙やけ改善
一部のワンコたちは涙や毛の改善にもつながっています。涙やけは根本の原因が不明とされる事が多いのですが、特定の細菌類の増殖によって発生した代謝物がベトベトの原因。細菌の活動抑制という観点であれば免疫機能との関係も指摘できそうです。免疫のカギは腸内にあり。腸内で何か良い変化が起きた証左かも?
スリムになった
食べる量が増え、そして痩せたという声は多いです。高タンパク低カロリーが生きているのだと思います。人間でもアスリートが実際に鹿肉を摂取している事例はあり、昨今では一部の産地とスポーツ団体が共同で商品開発をしているという話もあります。
便の状態改善
便は残りカスではない
ウンチの量が減った、匂いが減った、とてもきれいになった、など、喜びの声は多いです。地味な内容ですが、これが鹿肉が腸内環境を変えたとする最も確実な証拠だと言えます。
ほとんどの人が、便は「食べたものの消化カス」と認識しているのではないでしょうか? が、それは違います。
通常の便は、腸内の細菌類の代謝物や死骸です。腸内細菌は宿主が食べたものの中から「自分たちにとってのエサ」を食べ、それらを様々なものに変換して吐き出して一生を終えます。(細菌の一生は10〜20分)
その吐き出されたものが代謝物であり、それがさらに他の腸内細菌のエサになったりタンパク質になって宿主の栄養となったり、さらには腸管/腸壁、免疫細胞などへの刺激となって作用していきます。
腸内細菌の活動の結果
宿主にとって有益な腸内細菌(いわゆる善玉菌)は、腸壁に働きかけて粘膜を強化したり、それ自身や代謝物が他の善玉菌の餌になったり、逆に病原性細菌(いわゆる悪玉菌)の活動を抑制するなど、多くのメリットを提供してくれます。この代謝物の良し悪しが便の良し悪しであり、悪臭を放つ便ほど悪玉菌の代謝物を多く含むと言い換えられます。
鹿肉が腸内細菌に有利な存在なのは、家畜のような不自然な太り方や、品種改良を経ていないためだと思われますが、他にも肥育剤や人工飼料/抗生物質といった余計なものが入っていないという点も大きいのだろうと推察されます。
足腰が強化
この辺りも体力増進と同じ流れですが、「歩き方が力強くなったのが傍目にもよく分かる」といったコメントを頂いたりします。
アレルギー症状の緩和
アレルギーリスクが低いから鹿肉を選ぶ流れの延長として、鹿肉摂取によって他の食物によるアレルギー症状そのものが緩和されるという事例がしばしばあるようです。
アレルギー症状はアレルゲンが原因のように語られますが、本質としては免疫側の不具合で、自己免疫疾患というカテゴリーの病気です。免疫がうまく働かない最も大きな要因は、先にも触れた腸内細菌で、特定のグループの腸内細菌群が免疫細胞とやりとりをする事で、初めて免疫機能が正常稼働に至ります。
それら特定の腸内細菌群が何らかの事情で少なくなってしまった時、その隙間を他の細菌が埋め、それらが大腸にとって好ましくない働きをする事も。その結果、免疫が機能不全を起こしてしまいます。
鹿肉を食べることによってアレルギー症状が緩和されたのであれば、鹿肉が腸内細菌の特定のグループ(もしくは全体)に何らかの影響を与えているであろう事が示唆されます。
マイクロバイオームが健康を左右する
細菌群によって形成される体内の生態系
マイクロバイオームというのは腸内細菌群によって形成される「微生物生態系」のような意味合いです(※)。自然界と同じで、生態系の混乱はやがて全体の崩壊へとつながっていきます。※いわゆる腸内フローラの事
そして、近年子供達の間で急増している自己免疫疾患(アレルギーやアトピー、喘息やA型糖尿病、肥満など)はマイクロバイオームに何らかの異変がある事が突き止められています。
マイクロバイオームの撹乱を引き起こす要因として、人間であれば暴飲暴食といった食べ物の問題、大酒やストレス、睡眠不足、そして抗生物質の投与があります。(帝王切開によって生まれた子供の異変を指摘する研究結果も複数あり)
幼少期の抗生物質投与に問題あり?
酒や職場のストレスと無縁の犬の場合は、まずは食べ物が問題と見て良さそうですが、幼少期に抗生物質を投与されていると成長後もその影響(腸内細菌の組成の偏りや免疫機能の不具合)が残り続けるという厳しい現実が、マウスの実験で確かめられています。
動物で幼少期に抗生物質にさらされる可能性があるとすれば、家畜のような過密環境での疫病防止や感染の治療でしょうか?? 健全な環境であればそうそう多くはないと思うのですが、私にはその実態はよく分かりません。
ちなみに、最近弊社で実施したアンケートでは、「ペットショップで購入した犬/猫」と「ブリーダーから購入した犬/猫」とでは、持病としてのアレルギー症状有無の割合はほぼ同じでしたが、幼犬/幼猫時(生後〜2歳)にアレルギーを発症する率は、ペットショップ出身の方が25%ほど高いという結果が出ています。
自己免疫疾患を発症する子供が急増している背景と似ていて、あまり気持ちの良いものではありません。
抗生物質=悪ではない
多くの研究で、自己免疫疾患と抗生物質の関連が指摘されているにも関わらず、研究者たちが強く主張しづらいのは、「抗生物質=悪」という構図が一人歩きする事で、「抗生物質によって救えるはずの命が救えなくなる」恐れがあるという側面もあるようです。
抗生物質は、リスクとメリットを比較し、メリットの方が上回る場合のみ使用するといった厳格なルール作りが必要だと複数の研究者が指摘しています。
安易に風邪薬の代わりに服用していいものではないと断言できそうですね。
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。