市販のドッグフードでアレルギーが出始め、手作り食に切り替えたという人が増えています。
牛肉、豚肉、鶏肉、馬肉…。そして最後に鹿肉にたどり着くというケースが多いように感じています。そんな切り札である「鹿肉」は、果たしてペットのアレルギー対策に有効なのでしょうか?
「ペットさん定期便」の運営から見えてきた、鹿肉とペットの健康推移にについて語ります。
目次
鹿肉とペットの健康について
鹿肉でもアレルギーはゼロではない
いきなり結論を書きますが、鹿肉でもアレルギー反応が出ることはあります。ただ、他のお肉よりも出にくい傾向はあるようです。
鹿肉でアレルギー反応が出にくいのは、そもそも鹿肉を食べた事がないペットが大半なのでアレルゲンに対しての抗体ができていない=アレルギー反応が起きない、というメカニズムだとされています。
よって、鹿肉を食べ続けていればやがて抗体を獲得してアレルギー反応が出る可能性がある、というのが通説です。
「牛肉でアレルギーが出る場合、同じ反芻動物(※)である鹿でもじきにアレルギーが出る可能性は高い。その場合、馬や豚などに切り替えるのも一案だが、四つ足動物から離れて鳥類や魚類など、違う種類に移行した方が確実です」と、懇意にして頂いている獣医師さんの話。
※反芻動物(はんすうどうぶつ):牛や羊、ヤギなど、胃袋が4つある動物
実際に体調が良くなっている事例も多々
Forema の「ペットさん定期便」ユーザーさんの中で申し込み時に最も多い既存健康問題の一つがアレルギー。そして鹿肉/猪肉に切り替えることで多くのペットが症状の改善に至っています。(ユーザーアンケート及び日々のやりとりの中での報告など)
一方で、一部のペットには途中でアレルギーが再発するという事例もあり、前出の獣医師さんのコメントと一致しています。
他のペットたちも、やがて抗体を獲得してアレルギー反応に苦しむ事になるのでしょうか?
私は違うと考えています。アレルギー反応は免疫の暴走であり、鹿や猪、牛肉や豚肉が根本の原因ではないからです。
- 内容:500gパック x 2
- 種類:ホンシュウジカ / キュウシュウジカ / エゾシカ
- 産地:西日本/九州各県/四国各県/長野県/北海道
- 部位:切り落とし混合
過剰なアレルギー反応の原因は腸内細菌にあり?
自己免疫疾患という病
本来有害なものを除外するために起こる炎症反応(=免疫細胞と外敵の戦争)。これがどういうわけか有害ではないものに対して過剰に反応してしまうのがアレルギー反応で、自己免疫疾患の一つでもあります。
自己免疫疾患というのは、上記のように免疫が本来の機能とは異なる働きをして体に悪影響が出てしまう病気全般を指します。
自己免疫疾患にはアレルギーのほかに、花粉症やアトピー、ぜんそく、潰瘍性大腸炎やクローン病、そしてなんと肥満も自己免疫疾患に該当します。
肥満も自己免疫疾患
肥満は食べ過ぎと運動不足が原因だと思われがちですが、過度の肥満は免疫由来の疾患である事がわかってきています。脂肪細胞は飢餓にそなえてエネルギーを蓄え、ある程度の大きさになると分裂していくのですが、上の肥満の場合、脂肪細胞は分裂せずひたすらぶくぶくとふくれあがっていきます。
必要以上に膨れ上がった脂肪細胞の周りには特定の免疫細胞が集まっており軽度の炎症反応が起きています。本来細胞分裂するべきところが、免疫(の誤作動)による炎症反応で妨げられており、肥満への道が加速します。(だからといって運動しなくていいという意味ではない)
鍵を握るのは腸内細菌
ではなぜ免疫が暴走するのか?近年の多くの研究で、自己免疫疾患を辿っていくと腸内細菌にたどり着く事が解明され始めています。
大腸の外側にいる免疫細胞は、大腸の内側にいる特定の腸内細菌群と情報の交換を行っており、そこで得られた情報(例えば大腸に侵入してきた外部からの病原菌のプロファイルなど)を元に攻撃対象や、逆に攻撃すべきでない対象(外部からの侵入者だが有益な存在)を見極めます。
この時、情報を渡す特定の腸内細菌群がうまく機能していないと誤った情報が伝達され、免疫細胞がうまく機能しなくまります。
免疫細胞と直にやりとりをしている細菌群意外にも、炎症反応を抑える物質を代謝する細菌群も多々あり、それぞれに炎症を適度にコントロールする役割を担っています。
ところが、これらが”何らかの事情”で壊滅する事で免疫機能が制御不能になり、本来有害でないものを敵と認識してしまったり、あまつさえも自身の体を敵とみなして体内に絨毯爆撃を開始したりします。これは悲劇です。
何が腸内細菌を壊滅させるのか?
抗生物質による撹乱
近年のマイクロバイオーム研究で再三指摘されているのが抗生物質の乱用による腸内細菌群の撹乱で、その次の要因として欧米型の高脂肪食の影響、帝王切開、そして食品添加物や残留農薬といった昔からの容疑者たちも撹乱要因の一つだと見られています。
抗生物質は病原菌を制圧する薬ですが、大抵の場合、敵も味方も抹殺する絨毯爆撃なので体内の有益な細菌もまとめて打撃を受けます。
大人の場合、盲腸に腸内細菌のバックアップが保存されているため、通常であれば数週で回復するのですが、子供たちが幼少期から抗生物質にさらさらされる事によって免疫機構が正常に育つのを阻害する可能性が研究者らによって指摘されています。
食べ物による撹乱
欧米型の高脂肪食は特定の腸内細菌を減らし、代わりに別の細菌群を増やします。結果として炎症が起きやすい腸内環境が形成され、アメリカ人の肥満率がもはや危険水準を通り越しているのが20世紀後半以降の流れ。
腸内細菌の組成自体が不健全になってしまう上、食べ物自体が大量の脂肪分とカロリーを含有しているので太るなという方が困難です。
また、ここでも指摘すべきは抗生物質。アメリカやオーストラリアの畜産業会は抗生物質や肥育ホルモン、駆虫剤など薬剤の宝庫で、残留基準も欧州や日本に比べてゆるいです。
それらを日常的に食べていく事が腸内細菌にどういった影響を及ぼすのか? 普通に考えれば、食べない判断をするのが賢明で、それでも食べたいのならせめて薬漬けとは無縁の家畜を選びたいものです。
そしてここで再び登場するのが鹿です。(猪もね)
- 内容:鹿肉500gパック x 1 / 猪肉500gパック x 1
- 種類:ホンシュウジカ / キュウシュウジカ / エゾシカ / ニホンイノシシ
- 産地:西日本/九州各県/四国各県/長野県/北海道
- 部位:切り落とし混合
鹿や猪の最大のメリットは畜産業界と無縁であること
鹿肉(や猪肉)の最大のメリットは、畜産業界とは無縁である事だと思っています。人工飼料や抗生物質、成長ホルモンや肥育剤、駆虫剤..。
特に抗生物質は、病気ではなくても人工飼料に微量に混ぜられているもので、これによって成長が促進されます。国産の場合、残留基準は厳格で、健康に影響のない範囲だとされていますが、米豪の場合はさて..。
海外の高級ペットフードの鹿肉はニュージーランドの鹿牧場産(国策として鹿の輸出を進めている)である事が一般的で、その意味では畜産と同じフィールドだとも言えます。
それは国内の鹿牧場も同様のように思います。飼料の情報がないのでなんとも言えないところでもあるのですが。
総論 鹿肉でアレルギーは治るのか?
色々と書きましたが、では「鹿肉でペットのアレルギーが治るのか?」と問われれば、「分かりません」と答えるしかありません。が、「結果として体調が良くなる事例は実に多い」とも付け加えたいところです。
ただし、これは鹿肉が良いというより、添加物ジャブジャブのペットフードをやめた事や、畜産業界のお肉から距離を置いた結果として良くなったという側面も多分にあるように思います。
畜産から距離を置いた時、選択肢は野生の鹿・猪がもっとも現実的で、結果多くの飼い主さんがそのような選択をしているという事なのだと思います。手作り食の場合、野菜も無農薬が良いのはいうまでもありませんね。
尚、20世紀後半に登場した衛生仮説(※)は多くの矛盾点を含んでおり、現在では過去のものとなっています。
※衛生仮説:身の回りがクリーンになりすぎた結果として自己免疫疾患が激増したという説。古い医者(=情報をアップデートしない)はいまだこれを主張。
免疫を握るのは腸内細菌の相(=マイクロバイオーム)であり、それらに影響を与えるのが食と抗生物質。問題の本質はアレルゲンではない事がお分かりいただけると思います。
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。