大麻

てんかん治療にも有用。医療用大麻について

最終更新日:
公開日:2016/11/21

2016年夏の東京都知事選で医療用大麻解禁を訴えていた高樹沙耶氏が、大麻所持の現行犯で逮捕されました。
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00339978.html

これをきっかけに、ネット上やワイドショーで「医療大麻=いかがわしいもの」という論調が噴出し、「医療大麻など存在しない」と断言するタレント医師まで現れました。

では、現実にはどうなのでしょうか?

いわゆる医療大麻というもの

CBDとTHC

医療用大麻という言葉自体が正式名称なのかどうかは分かりませんが、研究すら認められていない国内においては「医療現場で使用される大麻」の”総称”として理解しておくのが妥当だと思われます(※)。

海外の医療現場で主に使用されるのは産業用大麻と呼ばれるもので、これは「ハイになる成分(THC)」がほとんど含まれない種類の大麻の事。代わりにハイにならない「CBD(カンナビジオール)」という成分を多く含んでおり、そして今、このCBDがアメリカやカナダなどで注目されはじめています。

※英語版のwikipedia にはMedical cannabis の記述あり。

アメリカでは州法による合法化も

元々アメリカでは以前から一部の州の医療現場で大麻が使用されており、麻酔や苦痛緩和を始め、近年では癌治療にも有効だという実例を積み重ねているようです。また、主に小児の難治性てんかんにも有効だという事が分かってきており、州によっては医療用における大麻使用が合法になっています。

昨年、米国食品医薬品局(FDA)は、エピディオレックスという薬物の臨床試験を許可した。この薬物は、マリファナに含まれる85種類の活性成分(カンナビノイド)の1つであるカンナビジオール(CBD)を原料にしている。初期の臨床試験からは有望そうな結果が得られていて、12週間の治療を受けた患者の54%で発作の回数が減少し、9%は発作が全く起こらなかった。臨床試験は次の段階に進み、偽薬を使った対照試験が行われている。

http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/060300130/

 

この件については、2015年6月号のナショナルジオグラフィックでも特集がされており、日本のワイドショーよりも信頼性はずっと高いと思われます。(当たり前ですが)

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http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/magazine/15/052200004/

難治性てんかん レノックス・ガストー症候群と大麻

この記事(雑誌版の方)の中で紹介されているのは小児難治性てんかんの代表的症例とも言える「レノックス・ガストー症候群」の少女の話。あらゆる投薬や迷走神経刺激法といった最新の治療をもってしても改善がなかったにもかかわらず、CBDオイルの使用によって症状の劇的な改善の実例が記載されています。

また、ナショナルジオグラフィックWeb版では、別の難治性てんかんのドラベ症候群が改善した事例についても紹介されています。

効果はハッキリと現れました。CBDオイルを服用した当日から、エミリーの発作回数が半分に減ったのです。CBDとTHCの含有量比率が28:1なので、娘がいわゆるハイになることもありませんでした

http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/16/102800014/111600003/?P=2

こうした症例が報告されている一方、州法および官僚主義による規制による障壁はいまだ大きいという現実もあるようです。

以下はWeb版の抜粋。

科学者によるCBDの研究は、法律と官僚主義に何度も阻まれてきた。CBDには精神を高揚させる作用がないにもかかわらず、マリファナの活性成分であることを理由に、規制物質法により「スケジュールI」に分類されているからだ。このスケジュールに分類されるのは、LSDやヘロインなど、「乱用のおそれが高く」、「現時点で米国における医療目的での使用が認められていない」薬物だ。

http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/060300130/

一方で、少しずつ規制が緩やかになり、医療現場における大麻使用を目的とした研究が進んで行く流れにあるようです。

カリフォルニア州、住民投票で大麻合法化 娯楽用で全米4州目
http://jp.wsj.com/articles/SB10192246251775523818204582425701254603334

 

マリファナ合法化の波、米連邦にも

連邦法では所持も吸引も違法だが、23州と首都ワシントンD.C.では、医療用の大麻が合法化された。嗜好品としての使用についても、多くの州で罰則が軽減されたり、撤廃されつつある。

FDA(米国食品医薬品局)がカンナビノイド研究を承認する方向に動きはじめているのは明らかだ。現時点では、研究の対象は有効な治療法のない稀な疾患に制限されているが、科学者たちは、カンナビノイドを利用したアルツハイマー病や統合失調症の治療にも研究範囲を広げたいと希望している。こうした研究から有望そうな結果が出たら、連邦政府は規制物質法におけるマリファナのスケジュールを変更し、薬物としての価値を認めるようになるかもしれない。

http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/060300130/

国内における大麻の現実

日本では文化であり、産業であった

医療先進国のアメリカでこのような動きがある中で、国内ではタレント医師によるコメントが真実であるかのように流布されている現状があります。

麻紐や麻袋が日常に存在するように、日本文化は麻を活用してきた文化でもあります。国内でも戦前までは普通に薬局で売られていたという事実もある上、麻自体が国内の主要産業だった歴史があります。

「戦前は使われていたの。昭和23年までかな。日本薬局方という日本国内で認められる薬の一覧があるんだけど、そこにはずっと『印度大麻チンキ』と『印度大麻エキス』が載っていたの。ぜんそくの薬として市販されていた。」大麻報道センター代表 白坂和彦さん

taima

戦後、GHQによって大麻の使用はおろか研究すらNGとなり、以後70年。2015年の12月には医療用に個人で大麻を輸入して使用した末期がん患者が起訴されるという「何のための法律なのか?」と首をかしげるような事態になっています。

http://www.sankei.com/premium/news/160423/prm1604230016-n1.html

起訴された末期癌患者の山本氏は、大麻使用によって症状に劇的な改善が見られたものの、当裁判の判決を待たずしてこの世を去りました。

以下、産経新聞から引用。

国立がんセンターのがん予防研究部第一次予防研究室室長を務めた医師、福田一典氏(62)は「大麻の医療効果に関する600以上の海外文献を検証したが、大麻ががんなどの難病に有効である可能性は高い」と指摘。「がんには万人に効果がある治療法はない。大麻も含め、どんな薬にも副作用はある。強い副作用を伴う抗癌剤やモルヒネもやむなく使用されているのが実情だ。そうした中で、大麻だけが絶対的に禁止されている現状には疑問だ。大麻ががん治療の選択肢の一つとして検討されてもよいのではないか」と話した。

光の影には闇も

先にも触れたように、アメリカにおいては医療における大麻の有用性はもはや疑いようのないものとなりつつあります。では、そのアメリカにおいても、なぜ完全解禁とならないのでしょうか?

その一端について触れているのが下記の記事。

実は病人が入手しづらい〈医療大麻〉のカラクリ

「健康な人でも、不眠を訴えればほぼ100%推薦書をもらえるわ」

カリフォルニア州では〈医療用マリファナ〉は合法だが、“楽しみ”のためのマリファナまでは認めていない。そこで人々は、法を逆手に利用してマリファナをゲットしているのだ。現在、この州の「医療用マリファナ推薦書」所持者数は約75万人前後と推定される。

http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/16/102800014/103100001/?P=3

上記記事を要約すれば、医療用という隠れ蓑を使って薬物使用を楽しむ輩が群がってくるという話です。よって本当に医療目的として大麻を必要としている人の手に大麻が届かず、処方箋を乱発する「いかがわしい医師」と、それに群がる連中が代わりに大麻を楽しんでいるという現実があり、よってアメリカにおいても全面解禁とはなっていないという側面が強いようです。そして今回、高木沙耶氏の周りにいた連中もまさにその手の輩だったように見えます。マスコミ報道なので真実は分かりませんが。

また、このテの話のつきものとして常にささやかれるのが製薬会社による圧力説です。これは実際に誰かが見たものが記事になっている、とかそういう類のものではありませんが、数百億円以上かけて開発した(例えば)抗がん剤が大麻に取って代わられるという現実は、製薬会社にとって不都合そのものであるという話です。

都市伝説レベルの話かもしれませんが、近年ようやくさらされるようになってなってきた製薬会社の不祥事を見ていると、医療より利益という業界体質は少なからずあるようで、「大麻圧殺のための業界圧力」という力学は真相に近いのだろうという印象が拭えません。

http://newsphere.jp/business/20140112-2/

バラエティー番組の功罪

尚、個人的な経験で言うと、身近に難治性てんかんの患者がおり、CBDオイルを使用したところ、大幅に症状が改善し、今も良い方向に向かっています。CBDというのは、冒頭にも触れた大麻の成分の一つで、精神錯乱作用のあるTHC(ハイになる成分)とは別のもの。これの使用は国内でも合法ですが、国内での生産は無理(栽培自体が違法)なので輸入ものを独自に購入するしかなく、高額です。それでも効果があるので購入するわけですが、この分野に全く興味のない人たちやタレント医師が勝手に「医療大麻不要」と面白おかしく断言している点には違和感を覚えざるをえません。

尚、安全なCBDに対しTHCは、成分としては危ういですが、イスラエルではアルツハイマーに効果があるとの報告もあり、研究の余地はありそうです。

http://www.alzheimers.net/6-15-15-effects-of-medical-marijuana-on-alzheimers/

安価な大麻が高額な医療行為や薬物に取って代わる余地があるのであれば、患者やその家族の幸せといった福祉面はもちろん、医療費削減の効果も大きく、国益に直結する領域なのは間違いありません。

この大変重要な案件における世論をバラエティー番組に左右されている現状が先進国として本当に正しいのか。国家としての器が試されているように感じます。

冒頭写真 By User Dan – http://www.wikistrains.com/Image:Northern-lights-flowering.jpg, CC 表示-継承 3.0, Link

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