先日、Yahooニュースで紹介されていた下記の記事と動画。
【映像】野犬に囲まれた5歳男児 追い払う勇敢な姿がカメラに インド(5月)
インド・テランガーナ州ハイデラバードの夜道を、手を繋いで歩くお隣さん同士の男の子(5)と女の子(5)。
家族の集まりから離れ夜道を歩く2人は、身の丈ほどもある野犬の群れと遭遇してしまう。
女の子は一目散に後方へ逃れ、家族に助けを求め走ったが、逃げ遅れた男の子は野犬に囲まれてしまった。おそらく心臓が飛び出るほど怖かったであろう。
男の子は絶体絶命のピンチにたった1人、腕を振って野犬を追い払い、家族や女の子のもとへ帰っていった。もし、2人が走り出していたら一緒に囲まれていたかもしれない。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170810-00010002-storyfulv-asia
インドでは狂犬病が深刻
この記事は動画内容も興味深いのですが、重要なのは記事最後に記載のあった下記の部分。
「インド最高裁判所の資料によるとムンバイでは、1994年から2015年までに130万人が野犬に噛まれ、少なくとも434人が狂犬病に感染し死亡したとされる」
この記事では詳しく触れられていませんが、インドでは野犬の増加と狂犬病の蔓延が問題になっています。原因はハゲワシです。
ハゲワシが何かをしたのではなく、ハゲワシが激減してしまったのが根本の原因です。
ハゲワシの激減が狂犬病蔓延の大きな要因
インドでは牛を食べる習慣がありません。家畜の牛が死ぬと郊外に放置し、それをハゲワシが食べ尽くすという仕組みが何百年も続いてきました。ハゲワシの胃酸は強力で、炭疽菌や狂犬病ウイルスなどの病原体をも滅菌する上、わずか30分程度で死骸を平らげてしまうため、これらの感染症蔓延の予防に大きく貢献してきました。
が、ハゲワシが激減したことで牛の死骸が長時間放置されることになり、これが野犬のエサとなって野犬が個体数を大きく増やします。同時に野犬を媒介とした感染症である狂犬病が蔓延し、噛まれて感染し、死亡する人が激増(インド全体で5万人増)したという背景があります。
社会的損失は4兆円!
以前も紹介しましたが、ナショナルジオグラフィックから引用。
ライバル(ハゲワシのこと)がいなくなった事で野犬が繁殖し、11年間に700万頭増えて2,900万頭に達した。人間が犬に噛まれる被害も推定3,850万件増加。狂犬病による死者は5万人近く増え、それによりインド社会が被った経済損失は約4兆円にのぼる。
ナショナルジオグラフィック2016年1月号
社会的損失が約4兆円というのは凄まじい数値で、1人あたりだと8千万円。犬に噛まれて感染症で死ぬという事象に生産性は皆無という無常な現実があります。
ハゲワシが激減した理由とは?
ボルタレンが原因
ハゲワシが激減した理由は家畜に処方される鎮痛剤、ジクロフェナク。国内ではボルタレンとして知られています。インドでは家畜の牛を苦しめてはいけないという法律があり、怪我や病気は治療もしくは苦痛の緩和が義務付けられているそう。その流れで家畜の労苦を軽減するためにジクロフェナクが処方された背景があるようです。
以前、若年のインフルエンザにタミフルを服用した結果、一部の若年患者で奇行が起きて問題になりましたが、奇行とタミフルの因果関係は確認できず、後味の悪さだけが残りました。が、その後、奇行の原因はタミフルと併用したボルタレン(=ジクロフェナク)が原因ではないかという説が出されていたのを記憶しています。(タミフルとボルタレンの併用はNG)
私自身、インフルエンザではないのですが、とある件で鎮痛剤としてボルタレンを使用した際、挙動・言動がおかしくなって周囲に迷惑をかけた経験があります。泥酔した時の危うさと、飲酒による気分の昂揚が同時に起きたような感じで、なかなか強い薬なのだと思ったものです。(鎮痛効果も良好)
ハゲワシの9割以上が死滅
そんなボルタレンは家畜の体への残留期間が長く、そのまま死骸にも多くが含有されていました。それを食べたハゲワシは腎臓障害を起こし絶命。今では生息数が90%以上が減り、地域によってはかつての生息数の1~2%しか残っていないとの事。
これはインドをはじめとする南アジア~東南アジアの話ですが、アフリカの場合はさらに深刻で、密猟組織が意図的に毒を盛ってハゲワシを殲滅しています。ハゲワシが上空に集まってくると遠くからでもそれが見え、密猟がバレるというのが毒殺の理由。結果としてアフリカでもハゲワシが激減し、何種かは既に絶滅してしまいました。当然のように感染症蔓延を始め様々な弊害が現在も生態系を圧迫しています。
国内の害獣問題もそうですが、極端な異変・事象の背景に必ず大きな原因があったりします。Foremaは、現在は駆除された野生動物の資源としての活用を主体に運営していますが、将来的にはその背景にある大元の原因解決に切り込めるビジネスを目指しています。
冒頭写真は Photo made by User:Sebastian Wallroth, パブリック・ドメイン, Link
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。