2018年10月、岐阜県の養豚場で豚コレラが確認され、翌月には他県に飛び火してしまいました。現時点で確認されているのは岐阜、滋賀、愛知、長野、大阪。日本は豚コレラ清浄国とされていただけに、関係者の間では衝撃的な事だったとされています。
では、なぜこれほどまでに豚コレラが恐れられているのでしょうか? 主にペット用に鹿・猪を購入されているペットオーナーさん向けにに、豚コレラについての概要をまとめてみました。
豚コレラとは何か?
豚コレラは、豚と猪に特有の感染症で、高い致死率があるため恐れられています。初めて発生したのはアメリカですが、大元のルーツはユーラシア系の猪で、コロンブスの時代に持ち込まれた欧州系の豚がアメリカ国内のルーツだと推測されます。
農林機構の論文によると、元々沈黙感染だったものが、養豚場での品種改良を繰り返す事で(豚がウイルスに対しての)感受性が高まり、症状が顕在化する事で豚コレラとして認識されるようになったようです。
https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/archive/files/119-01.pdf
アフリカ豚コレラは別の病気
岐阜の豚コレラの報道の少し後、紛らわしいことにアフリカ豚コレラが千歳空港の検疫で発見されたというニュースが流れました。同じ豚コレラでもアフリカ豚コレラは別の病気で、感染経路もウイルスの種別も、症状も異なります。
農水省のページから引用します。
本病は、ダニが媒介することや、感染畜等との直接的な接触により感染が拡大します。 本病に有効なワクチンや治療法はなく、 発生した場合の畜産業界への影響が甚大であることから、我が国の家畜伝染病予防法において「家畜伝染病」に指定され、患畜・疑似患畜の速やかな届出とと殺が義務付けられています。 我が国は、これまで本病の発生が確認されておらず、本病の清浄国ですが、アフリカでは常在的に、ロシア及びその周辺諸国でも発生が確認されているため、今後とも、海外からの侵入に対する警戒を怠ることなく、本病の発生予防に努めることが重要です。
http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/asf.html
世界的には少し前からアフリカ豚コレラの流行の方が大きな話題と脅威になっており、その余波があるのかないのか何となく国内にも不安が蔓延している雰囲気を感じます。
アフリカ豚コレラはアフリカの話っぽい印象を持ってしまいがちですが、日本にとって脅威なのは、お隣の中国で大流行しているという点。2018年に中国での流行が始まり、いまだ沈静しておらず、水際で防ぐ以外にコントロールできない点は深刻な脅威だと言えます。
余談ながら..。世間話程度で捉えて欲しいのですが、中国におけるアフリカ豚コレラ大流行の背景に、トランプ大統領の対中強硬策があるという話も。アメリカの締め付けに対する報復関税の一環として、中国が豚の輸入元をアメリカからロシアに変えたところ、その中にウイルスに感染した豚(中央アジア産)が多く混ざっていたのだとか。真相は分かりませんが、現に中央アジアでは先んじてアフリカ豚コレラが大流行しているので、その界隈から仕入れればそうなるのは自然の流れだと言えます。
なぜ恐れられるのか?
豚コレラの件が報道されて以降、複数のペットオーナーから問い合わせがありました。具体的には「おたくのお肉は大丈夫か?」「岐阜県からの出荷はあるか?」「産地を教えて欲しい」など。全てに共通するのが、大事なワンコに感染したお肉食べさせたくない、というもの。物々しい報道を見て心配になるのは当然なので、そこは現状について適切に案内をしています。ただ、恐怖のポイントがズレている点は否めません。豚コレラが恐れられているのは、
犬や人間に感染するからではありません。
発生したら、
その場の全ての豚を殺処分しなければならないからです。
経営的には大打撃ですし、人道的にはもう最悪です。
だから恐れられています。
どうやって広がっていくのか?
豚コレラが広がっていくのは感染したイノシシが豚舎に侵入するからだという説があります。それも一つの感染経路でしょう。一方で、先日もとある猪牧場でこの話をしていたのですが、人間による拡散力の方がかなり大きいそうです。
具体的にはタイヤについた泥です。養豚場や猪牧場に行ったことがある人はご存知かと思いますが、オフロードであることも多く、特に雨上がりだった時など、タイヤがドロッドロになります。泥は洗車しない限りこっぴどくこびり付くもので、100kmやそこらを走ったところで全く落ちません。この泥に(糞経由などで)ウイルスが潜伏していることが多く、自動車によって100km、200kmをいとも簡単に飛び越えて次の新天地で発展するという流れ。岐阜からいきなり大阪で発見されるのは、流通網が発達した現代ならではの飛躍です。
豚コレラが発生した地域からの出荷について
現時点でForemaから猪を出荷している産地の中に、豚コレラが検出された地域の産地はありません。万一検出された際には、まずは現地の行政の判断を尊重しながら生産地の担当者話し合って適切に対処していく予定です(※恐らくは産地側が個体の受け入れ自体を自主規制し、実質的に出荷が止まる)
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。