表題のとおりではありますが、巷にあふれるジビエ及び害獣に関連するニュースをまとめてみます。まとめ記事については、他人のふんどしで相撲を取るようで今までやってこなかったのですが、複数の記事に目を通し、かつコメントを記載する作業が、知識の蓄積としても、またアウトプットのスキルアップとしても有益だという気付きを、まさに数十分前に得た為に、急遽まとめはじめた次第です。
トップバッターはこちら。
松原ミート
→高知に移住したシェフ松原さんが肉料理店「松原ミート」を開店
東京都内でフランス料理店を営んでいた男性シェフが高知市に移住し、土佐あかうしや土佐ジローなどを使った肉料理店を高知市の繁華街に開いた。廃乳牛や鹿の血を使ったソーセージなど、「より農家のもうけになるような料理の提供」を経営方針に、“土佐の肉”の魅力を引き出し、客たちに伝えている。
一見ジビエと関係なさそうですが、肝となるのは『土佐の肉』というキーワード。土佐にはジビエ活用の先駆者的なお店としてNook’s Kitchenというお店が存在します。ここは野生鳥獣を、ジビエというくくりから『高知の資源』として昇華させており、全国でも注目されています。この松原ミートもゆくゆくは同じ流れに合流しそうな空気を感じます。
捨てられることが多い鹿の血が入手できた時は、ソーセージに加工して「鹿のブーダンノワール」として提供。廃乳牛を仕入れ、ワインで煮込んで味付けするなどして「その肉に適した調理法」でうま味を最大限引き出す。
との事です。
兵庫県でツキノワグマの狩猟解禁
兵庫県が、ツキノワグマの狩猟を今冬に20年ぶりに解禁する方針を決めた。絶滅の危険性があるとして全面禁止してきたが、生息個体数が増え、集落への出没が目立つようになっための措置。11月15日から1カ月間、狩猟者一人1頭に制限して認める。
ツキノワグマは、特に西日本と四国で数が減っており、90年代に保護対象となりました。ツキノワグマの生息域は分断されている為、個体群ごとに保護および調査が続けられてきた背景があります。兵庫県のツキノワグマは「東中国個体群」に属するのだと思われます。そして今年、兵庫県では十分な生息数に達したと判断されたようです。
この方針については、過去に発表された保護計画書の中にも記載がされています。以下のリンク先PDFの3ページ目。
https://web.pref.hyogo.lg.jp/nk20/documents/kumahogokeikaku.pdf
なぜ役所はテキストではなくPDFをそのままアップするのか?? という事は置いておくとして、狩猟解禁の目安は800頭との事なので、おそらくは800頭に達したのだと思われます。
ちなみに、兵庫に近い「西中国地域の個体群」に関しては、広島・島根・山口3県において保護が徹底されています。兵庫と同じく90年代に保護が開始された西中国地域のツキノワグマは、やはり個体数が回復し、平成21,22年度調査で約450頭~1,290頭(中央値870頭)とされています。
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/wildlife-management/wm-bear-main.html
なぜデータがそんなに古いのかはわかりませんが、ともあれ数年前の段階で中央値が870頭なので、地域全体としては兵庫より良い回復具合と受け取れそうです。ただし問題は、推定値の上限と下限が3倍も離れている点。生息数はあくまで推測であり、実際は生態含めよく分からないそうです。ただ、今年はツキノワグマ当たり年(昨年ブナやナラが豊作だったため)なので個体数が増え、出没数も全国的に増しています。兵庫においてはそういう背景による後押しもあっての解禁判断だったのでしょう。
移動式解体処理車
日本ジビエ振興協議会は8日、長野トヨタ自動車と共同開発したジビエ(野生鳥獣)の移動式解体処理車を東京都内で披露した。ジビエの食肉利用は衛生上の問題で、捕獲後2時間以内の処理場への運搬が困難だった。だが、処理車があれば捕獲後に短時間で処理が可能になる。今月から長野県富士見町を皮切りに全国で処理車を使った実証実験を始め、ジビエ料理の普及につなげる狙いだ。
これは多くの地域にとって画期的なもの。というのも、野生鳥獣のお肉を出荷しようとした場合、保険所の定めるルールによって血抜きは90分以内(地域によっては120分?)といった規定があるため。市場に流通させる場合には、やはり保険所の検査に合格した「解体所」で処理する必要があるのですが、これがどこにでもあるものではありません。山の奥で害獣を仕留めた場合、そこから大きな鹿や猪を解体所まで持っていくのは相当な労力だと猟師の皆さんが口をそろえます。また、そもそも近くに解体所が無い、という場合の方が多く、そうなると駆除した鹿や猪は自家消費か、もしくは土に埋めるしかありません。後者であった場合は残念です。
こうした実情を解決するのが移動式解体処理者、いわば「出張解体所」です。共同開発したのがトヨタ自動車ではなく、長野トヨタ自動車、というローカル性も注目に値します。というもの長野はジビエの先進県。逆に言うとそれだけ被害が深刻と言う見方もできます。積極的に前例の無い事にハイペースで取り組んでいる点に好感が持てます。
さて、ここで広島県(Forema本社が広島なので・・)の話ですが、広島では移動式解体処理者の話が浮上した年初の時点で、採用はNG判定となったそうです。細かいニュアンスまではわかりませんが、行政関係の人に聞いたので大枠としては事実なのだと思います。NGとなった理由は解体の時に出る血液の処理。これをどうするんだ!?まさか山に流すんか!? という事でほとんど議論の余地無く却下されたという話です。
これは広島に限らず、保険所全体の傾向として血液の処理にはとても敏感なのだそうです。少し話がそれますが、先日お話を聞いた島根県の伝説的な猟師さんの場合、昭和40年代に解体所を作った時には保険所にかなり注意されたとそうです。血液処理はどうしているのか?と。もちろん山で血抜きをしていると答えると、保険所の担当者は仰天したそうです。とは言え、血を屋外に流してはならないとなると、止めを刺すこともままならず、山奥から生きたまま大きな野生動物を運んでくるしかありません。そんな非現実的な事を言って来るのが保険所の悪い所だ、とおっしゃっていました。
が、今現在の広島県はそういう側面がまだ残っているのかもしれません。背景として、工業県の広島は伝統的に工業分野へのテコ入れが強く、農林分野の発言権は弱いという話。移動式解体処理車の可否は極めて政治的な背景に左右されているのだと推察されます。
芸備線 40分の間に3度も鹿と接触
最後はこの記事。
→芸備線一夜に三度鹿をはねる
JR西によると、19日午後8時56分ごろ、広島発三次行き快速列車(3両)が、井原市−向原間で線路上にいたシカと接触。約15分後に運転を再開したが、午後9時35分ごろ、甲立−上川立間で再度シカとぶつかった。運転士と乗客約30人にけがはなかった。
午後9時28分ごろには、広島発三次行き普通列車(3両)も中深川−上深川間でシカと接触したが、けが人はなかった。一連の事故で、接触した列車を含む4本が最大40分遅れ、約70人に影響した。
これは鹿という主語がなかった場合、同時多発テロ化と思ってしまう強烈なもの。しかもそれだけのインパクトながら影響したのがわずか70人という点は特筆すべき点。つまりそれだけ人が少ないエリアだったという証明でもあり、つまり人間の勢力と鹿の勢力バランスがおかしな事になっている表れとも受け止められます。
ちなみに、この芸備線と言うのは広島駅から県北の三次・庄原を南北に結ぶローカル色の強い路線。その県北から日本海の島根を結ぶ超レトロかつ大自然満喫型の路線「三江線」がついに廃線になるとの決定が先日為され、地元では衝撃が走っています。
三江線 江津~三次駅間につきましては、当社が昭和62年4月に日本国有鉄道から事業を引き継ぎましたが、民営化後も道路整備やマイカーシフトなどの影響によりご利用減が人口減を上回る状況です。この間、当社は三江線を維持・存続するために、駅体制の見直しやワンマン運転化などの経営努力とあわせ、団体列車の設定などによる増収策を行ってまいりました。近年では三江線活性化協議会において平成23年度から5カ年計画のもと、地域と一体となり利用促進の取り組みを広範かつ継続的に展開してまいりました。
このような取り組みにも関わらず、平成26年度の輸送密度は1日当たり50人と会社発足時の約9分の1にまで落ち込んでおります。また、平成18年、25年と二度にわたり大規模災害による長期間運休を余儀なくされ、激甚化する災害リスクの高まりも看過できない状況です。
人口が減り、鹿が増え、無常にも線路は消えていく・・。そしてさらに人口減に拍車が価格のではないかと懸念されています。
別件ではありますが、10数年前に同じような形で廃線になった広島の可部線の一部(可部~三段峡間)。この廃線により行楽地である三段峡の観光客は激減し、かつてに賑わいは嘘のように静まり返りながら今に至っています。廃線になったエリアの大半にあたる安芸太田町は、今では広島県内で最も過疎の進む自治体となっています。
一方で、廃線になった可部線の一部が、近々復活する事になり、既に線路の再設置が完了しています。
何が正解で何が間違いかは全く分かりませんが、今あらゆる地域で何らかの分岐点を迎えているのだと強く感じます。
そういうわけで、「まとめ」というタイトルながらまとめるほどの記事数ではなかった事に今さらながら気付いた次第です。また後日続きを書くかもしれません。
※トップの写真は島根県邑南町上空にて2016.8撮影
株式会社Forema(フォレマ) 代表。生態系保全活動の傍ら、自社ラボで犬と猫の腸内細菌/口腔細菌の解析を中心に、自然環境中の微生物叢解析なども含め広く研究を行なっています。土壌細菌育成の一環として有機栽培にも尽力。基本理念は自然崇拝。お肉は週2回くらいまで。