昨今「らせん菌」についての問い合わせが増えています。名前は聞くけどよく分からない「らせん菌」について、腸内細菌解析現場の視点から解説します。
目次
らせん菌って何だろう?
カンピロバクター属
らせん菌は「カンピロバクター属」の中で消化器トラブルを起こす細菌の通称で、文字通り螺旋状をしているため、「らせん菌」と呼ばれます。
犬や猫の下痢に関与するのは、「カンピロバクター属」の中でも
- C.ジェジュニ(Campylobacter jejuni)
- C.コリ(Campylobacter coli)
である事が大半です。
ちなみにこのグループは「プロテオバクテリア門」という大枠に分類され、比較的近縁のグループとして、ピロリ菌で知られる「ヘリコバクター属」がいます。(カンピロバクター目 > ヘリコバクター科 > ヘリコバクター属)
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スピロヘータ門というグループ
らせん状の病原性細菌としては、主に口腔内から検出される「スピロヘータ門」というグループが存在します。
中でも有名なのは
- 歯周病菌の「トレポネーマ デンティコラ(Treponema denticola)」
- 梅毒で知られる「トレポネーマ パリズム(Treponema pallidum)」
で、ともに感染源として注目すべき存在ですが、下痢の原因として診断される「らせん菌」とは別物です。
らせん菌は治せる?
らせん菌による下痢は一時的なものである事が多く、通常は時間と共に回復するとされています。
動物病院では、ひどい場合はマクロライド系の抗生物質が処方される事が多いようで、通常は1週ほどで改善するとされています。
改善しないとすれば、それは「らせん菌」の問題というより、何らかの事情で宿主が弱体化している事に問題がと考えて良いのではないでしょうか?
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腸内細菌解析における「らせん菌」の事例
腸内からの検出事例は多くない
Foremaの腸内細菌解析現場で見られる不具合の大半は、慢性の下痢/消化器トラブルです。現時点で数百頭の下痢個体の解析データが存在します。
が、実はこれらの中で「らせん菌」の検出はほとんどありません。
一方で、「過去にらせん菌の治療をした事がある」という個体はしばしば存在します。
そういう個体は、「らせん菌」だけではなく、何度か消化器トラブルで病院にお世話になっているという共通の経歴があります。そして、腸内細菌のバランスが大きく崩れています。こうした腸内細菌組成の崩壊をディスバイオシスといいます。
過去の治療が後の不具合に?
抗生物質は、病原性細菌を駆逐する一方で、本来無害な常在菌や、有益な細菌グループにもまとめてダメージを与えます。
通常は時間と共に回復しますが、回復に失敗する個体がしばしば見られます。そういう個体は、別の感染症にもかかりやすく、そこで再び抗生物質の投薬に至ります。
2度あることは3度あり、この繰り返しにより、数年後に下痢が止まらない、アルブミンの数値が大きく低下している、血便が始まった、などの症状が表面化します。
「らせん菌」が原因なの?
後年になって深刻な消化器トラブルが起こる場合、過去の「らせん菌」治療が問題だったのでしょうか?
断定はできませんが、一部は正解かもしれません。
ただし、深刻な消化器トラブルのある個体は、過去の治療履歴が1回ということは少なく、数度の投薬が蓄積して大事にたったケースが目立ちます。
逆に、1回のらせん菌感染で重症になるようなケースは、そもそもの個体側に問題があった可能性が否定できません。
腸内細菌解析の現場から見えてくるのは、
生まれながらにして腸内細菌バランスが崩壊している個体が一定数存在している
という現実であり、それは繁殖犬である母体の問題に遡る可能性が否定できません(※)。
※繁殖犬の複数の解析データから判断
Foremaのラボメンバーが主体の編集チーム。犬と猫のマイクロバイオーム(腸内細菌/口腔内細菌)関連を中心にお届けします。