安芸太田町の奥の方

オオカミ再導入について、少し意見が変わったという話

​以前、狼フォーラム及び、国内へのオオカミの再導入について書きました。

オオカミフォーラムに行ってきました

私個人としては、オオカミ再導入論に対して肯定的に捉えていますが、これに関連して別の価値観に出会えたのでご紹介。具体的には下記の著書です。

ニホンオオカミは生きている(西田智 著)

ニホンオオカミは生きている

この本は九州の祖母山系でニホンオオカミらしき生き物に遭遇し、間近に撮影した民間研究者の西田さんによるもので、普通にアウトドア手記として読んでもまあまあ面白いです。

オオカミ再導入の論点と前提について

邑南町の村落
島根県邑南町の村落を阿佐山中腹から撮影。

国内へのオオカミ再導入論については、「生態系保全のために頂点の捕食者が必要」という論と、「危ないからダメ」という”ありがちな正論”との間で平行線の議論が続いていました。

前者が生態系に関する海外のデータを元に話をしているのに対し、後者は被害が出たらどうするんだ、という責任論や感情論で反論しているので、義論がかみ合っていない感がありました。

が、この議論の土台として、すでにニホンオオカミは絶滅しているという前提がありました。

その前提に対して異論を唱えるのが上述の書籍。この書籍の中に登場する価値観とは、在来種(ニホンオオカミ)がかろうじて生き残っているのに、外来の大型種を放獣する事は間違い。生き残った在来種にとどめをさすことになる。
というもの。

個人的にこの論は新鮮でした。

狼の再導入については、森林ジャーナリストの田中淳夫氏が「外来種を導入してどうするんだ!」としばしば反対していたのを思い出します。ただ、いつもデータに触れて根拠を出す事の多い田中氏が、この件に関しては具体的な根拠や対案を示さず切れ味が悪かった印象があります。氏はニホンオオカミへのロマンを持っている人なので、前提条件として「ニホンオオカミ生存の可能性」を念頭に置いているのかもしれません。(勝手な憶測ですが)

とは言え、大陸オオカミとニホンオオカミについては、DNA的には同じものとされています。それどころか、犬と狼ですら、DNA的には区別がつかないとのこと。犬と狼が種として別れてからはわずか1万年程度との事らしく、進化の大枠から見れば同じものということなのだと思います。

ちなみに現在あまたの犬種が存在するペット犬ですが、これさえもわずか200年程度でここまで分化したものらしく、200年前には概ね同じような犬種だったとのこと。チワワもセントバーナードも。(厳密には国や地域ごとの在来犬による違いは有り)

外来種(タイリクオオカミ)導入はNGか?

島根県の阿佐山
島根県の阿佐山。山頂付近は樹氷が見事。

では、DNA的には同じとされるタイリクオオカミを国内に入れる事はNGなのでしょうか?

著名な動物分類学者の権威、 今泉吉典氏は生前「大陸種と国内種は動物相が違う。」と、タイリクオオカミ導入論に反対していたそうです。相の違う捕食者の導入により、国内生態系が荒廃するのを懸念していたようです。

これは先出の森林ジャーナリスト田中氏の主張とも通ずるもので、とは言え一般人からすると「相が違うからダメ」というのは、わかる気はするけど具体的にイメージしづらいもの。想定しうる弊害や、同じようなケースの過去の事例があるとより分かりやすいのかもしれません。

これについて個人的に考えてみたのは、日本人が全滅した後に中国人が移住してきたらどうなるか?というシナリオパターン。確かに山は荒れるだろうなぁ…と感じます。ただ、タイリクオオカミは中国ではなく、モンゴルからの再導入なので、その観点で考えると日本の角界みたいなものか、と、的外れな方向に思考がブレてしまいました・・。

ニホンオオカミは生きているのか?

畳山と阿佐山
島根県の邑南町にある畳山と阿佐山の谷。地域ではバレーサイドとして有名。

実際のところニホンオオカミは生き残っているのでしょうか?上著「ニホンオオカミは生きている」の記述によると、実際に写真撮影に成功したケース以外にも祖母山山中で何度かイヌ科の動物と遭遇していたり、イヌ科の動物のフンの採取、獣に殺された猪や鹿の死骸発見の記録、遠吠えを聞いた日時や場所などが記載されており、「あの辺りでは昔から鹿が増えない」という山小屋の管理人のコメントの他、住民の目撃例、文献にある遭遇話なども紹介してあり、状況証拠としてはニホンオオカミは生き残ってる可能性が高そうです。

では、写真もあり、補足情報も多くあるのになぜ存在が否定されているのでしょうか?それは、証言はもちろん、写真ですら証拠にならないという判定ルール(?)みたいなものが原因のようです。捕まえて解剖してみて(場合によってはDNA鑑定も?)してみて初めてニホンオオカミかどうかが判定可能、という学会もしくは省庁の決まりごとが存在するとの事。

少し似た事例として、九州のツキノワグマが絶滅種として認定されたケースがありますが、これに対して現場で研究を続けている野生動物保護団体WWFが異論を唱えていたりします。彼らの言い分を要約代弁すれば「役人が勝手に決めるな」ということ。

役人基準で言えば、ニホンオオカミはこの先もずっと存在しないし、しかし現場判断で見れば「それっぽい何かがいる」という事になります。

こうした前提を考えると、大陸からの狼再導入論は従来とは違った意味合いを持ち始めます。

※それっぽい何かというのは、狼の血が入ったオオカミ犬や野生化した狩猟犬も含みます。

オオカミ再導入は必要か?

畳山の谷底
阿佐山と畳山の谷底。氷点下。

増えすぎた鹿や猪を抑制するという観点で見れば、狼の再導入は大いに価値があります。ただ、一部地域の山岳地帯にニホンオオカミもしくはそれっぽいものがいるのであれば、それらにとって生きやすい環境を整える事が生態系にとってもっとも有益なように思えます。生き残っているのが純血のニホンオオカミであるか否かはさして重要ではなく(※個人的にはロマンの観点で重要と考える…)、生態系において狼の役割を引き継いでいる国内の捕食者がかろうじて生き残っている(可能性が高い)点こそが重要で、しかしそれらは分断された奥深い山奥に追い込まれているという現状。つまり行き着くところは山林の再生という事だと考えられます。

森林の再生は、多すぎる人工林の自然林への復元や、分断された山林の見直し、場合によっては不要なダムの撤去などもあるのかもしれません。特に捕食者が生き残っている可能性が指摘させるエリアにおいては特区を設定するなどの行政処置が必須に思われます。

一見こういうロマン追求っぽい論に行政が噛もうとすると必ずバッシングが出るものですが、日本カワウソが県獣である愛媛県はニホンカワウソの生存を主張していますし、行政とも絡みの深い先述のWWFも九州ツキノワグマの絶滅に否定的です。

ともあれ、オオカミ再導入という選択は有益ながら、それを外部から持ち込むのか、別の選択肢があるのか、という点はもっと国を挙げての議論が必要なように思います。(捕食者は危ないからそもそも不要、という意見は論外)

タイリクオオカミ導入以外の選択肢は?

才乙集落
広島県と島根県境にある高杉山近辺から豪雪地帯の才乙(さいおと)集落方面を臨む。

現在の日本の山林には、少数ながらイヌ科の捕食者(※)が生息しているようです。(※キツネもイヌ科ですが、もっと犬っぽい生き物の事)

それらは、ただの野良犬が山間部に定着したものや、逃げた猟犬、そしてハスキーを始めとするペットのオオカミ犬(狼と犬の混血)が捨てられたものなどと見られており、つまり野犬です。これらが1世代のみなのか、継続的に繁殖を重ねているものなのかは定かではありません。

1996年に秩父で撮影されたニホンオオカミっぽい写真については、オオカミ犬の線が濃厚という意見もあるらしいのですが、それが純血のニホンオオカミであれ、外国産狼と犬のハイブリッドであれ、捕食者として山林で生態系の一部になっているのであれば、それはそれで妥協してOKとするのも選択の一つのように思えます。そして保護して増やす。生態系保全という前提に立つと、ニホンオオカミであるか否かが本質なのではなく、山奥いるイヌ科の捕食者についての研究と保護こそが重要だと考えます。(再度書きますが、個人的には純血のニホンオオカミの生き残りは強烈なロマン)

尚、外部からのオオカミ再導入という選択に関しては、タイリクオオカミではなく、国内固有種のエゾオオカミという選択があるそうです。北方領土の国後島でオオカミが発見され、どうやらエゾオオカミの生き残りらしい、というニュースがあるのだとか。これについてはロシア語で検索したのですがヒットせず、情報ソース詳細については定かではないのですが・・。

ともあれ、もしまだエゾオオカミが生き残っていた場合、アラスカの事例のようにそれらを空輸して知床半島へ放獣する選択肢が生まれ、非常に興味深いです。環境省と外務省が不統一の見解を出しそうで、そこはまた違った意味で興味深そうです。

※冒頭の写真は広島県の安芸太田町の写真。ニホンオオカミとはあまり関係ありません・・。

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